謎おじ宮本 仕事の奥義
永田永太郎
第1話 謎だ 宮本先輩じゃないの?
僕はK駅に着いた。
会議は15時から。
余裕で間に合うはずだ。
駅前ロータリーにあるバス停を通ってから、50mくらい先を右に曲がり―なんて考えながら歩いていた。
が、1人の男性が目に入り、思わず立ち止まる。
バス停で並んでいるおじさん。
両手にパンパンのレジ袋を持っている姿は見たことなかったが、顔や体型は宮本さんそのひと。
思いもよらない再会に喜んで
「宮本先輩!お久しぶりです。急に退職したので驚きましたよ」
と声を掛けたが、相手の表情に喜びは
不快の「は?」
えええ?宮本先輩じゃないの?と思っていると
「あんた誰?というか宮本って誰?」
いや、どう見ても宮本先輩でしょう。
いやいや、声も一緒だし。
「宮本先輩、冗談がきついですね?」
と言ったのが失敗だった。
そもそもそんなひどい冗談を言う人じゃないことを忘れていた。
「だから宮本って誰?」
「え?じゃあ、あなたはどなたですか?」
「は?なんで通行人に自分の名前を教えなきゃいけないの?
詐欺かなんか?
あっち行ってくれない?
スマホで警察呼ぶよ、ほんとに」
かなりエキサイトしたところでちょうどバスが来た。
並んでいた人たちは、整然と順番を守りながらバスに乗り込んでいく。
前に誰もいなくなったので、険しい横顔を見せながら、彼もバスに乗り込む。
バスは、待っている人たちを乗せると、当然のように走り去っていった。
僕は、バスと違って動けず呆然と立つしかない。
バスが来なかったら本当に通報されてしまったのだろうか?
本当に似ていたんだけど…
いや、僕は宮本先輩が怒ったのを見たことすらなかった。
本当の宮本先輩だったらあんな怒り方をするはずがない。
「並んでるんですか?」
その声は僕の意識を、バス停に引き戻す。
女性が子供を抱えながら、不審人物を見るようにこっちをのぞき込んでいる。
僕が明らかに邪魔をしている。
「すいません」
軽く頭を下げ、逃げ出すように目的の建物に向かって歩き出す。
50mくらい先で右に曲がらなきゃ―と最低限ことだけは考えることができた。
が、すぐに宮本先輩のことが頭に戻ってきてしまう。
そう、僕は職場で宮本先輩に教わったこと―ありがたい話―を思い出していた。
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