エピソード10 西国3人衆(警察官編:西国3人衆、西国組、年長組)

山口やまぐち教官ってさ、地方組ちほうぐみの一人らしいよ」

「地方組っていえば超優秀な地方組?!」

「人は見た目に寄らないよね」


 偶然、提出資料があり訪れていた警察学校。校内を歩いていれば、少し離れた場所から、そんな会話が聞こえた。

 そちらに視線をやれば、一ヶ月前に警察学校に入校したばかりの後輩が3、4人ほどでワイワイと話している姿が目に入る。



 地方組



 彼らの一人が口にしたその言葉に苦笑を浮かべてしまう。最近、よく耳にする言葉。私が警察学校にいた頃には聞かなかった言葉。


「あ、お、お疲れ様です!!」

 笑い声が漏れてしまってしたのか、彼らが私の存在に気付く。彼らは訝しげな視線をこちらに向ける。だが、それも一瞬のことですぐに私の服装を見て、私が警察官だと分かったのか、態度が変わる。

 まあ、制服、着てるもんね。


「お疲れ様。随分と楽しそうな話をしてるね。地方組だっけ。もう新入生に知れ渡ってるんだね」

 威圧感を与えないように、不信感を与えないように笑いかける。

 まあ、私の身長と顔つきで怖がられることはないと分かってはいる。だけど、一応、気を付ける。


「えっと、あー」

「ああ、堅くならないで良いよ。私は長崎ながさき。○○署の留置管理課に勤めてる一介の警察官。よろしくね、後輩達」

「よろしくお願いします・・・・・・?」

「それにしても、地方組ってそんなに有名なの?」

「有名どころの話じゃないですよ! 語り継がれる伝説ですよ?!」


 私の自己紹介にどこか違和感を持ったらしい後輩一人。

 私の問いに押し強く答える後輩一人。

 状況が理解できない後輩二人。

 後輩達はそれぞれの反応を示す。地方組の名を出した後輩は何にも気付かず、私に地方組の魅力を語り始める。



 後輩が話す内容を抜粋するとすれば、

「地方組は優秀な問題児の集まり」

「警察学校に侵入した犯罪者を二人で伸した逸話がある」

「全員が全員面識があるわけではないが、個々に交流があるらしい」

「それぞれ、組み合わせごとに名前がついている」

「一年で80件の事件を解決している二人組がいる」

「県外の公安に配属された警察官がいる」

「山口はじめ教官は地方組の一人」

「彼らに神様と呼ばれる存在がいる」

といったところ。



 身に覚えがなくもない、後輩の言葉の内容。まったく、褒められているのか貶されているのか分からない。いや、貶されてはいないのだろう。褒められてもいないのだろうけど。


「凄いね」

「そうなんですよ!」

「それじゃあさ、一つ質問。山口って地方組のなかで相棒みたいな人がいる?」


 興味本位で、そう尋ねる。きっと山口君の相棒に。だって、彼に見合うような力も何もないから。他の地方組のメンバーの方が彼の相棒に相応しい。


「確か、同時期に入校した人が相棒だーって話ありましたよ。南日本組みなみにほんぐみって呼ばれてるみたいですよ」


 ・・・・・・はい?


 明らかに名指しの言葉。山口君と同期で入校した地方組のメンバーで、南日本組と括られる人間は私しかいない。だった、私は「長崎」で、彼は「山口」だから。

 え、私なの? 私相棒なの? 絶対に有り得ない。

 だって、当時だって私は相棒というよりは彼の後ろに付いてくる人、みたいな、扱いで、扱い、で。


「・・・・・・あっ、ちょ、お、え、あ、おま、お前っ、この人っ」

「あ? 何?」

「この人っ、この人っ!! この人相方の人!! 長崎なくるさんっ!! 教官の相棒ってこの人っ!!」

「え?!?!」


 私の自己紹介に違和感を持っていた後輩が私の正体に気付く。


 ・・・・・・ああ、そっか。後輩には相棒って伝わってる。他のメンバーを差し置いて相方って言われてる。

 でも、それは、本当に相棒だったからそう伝わってるんじゃなくて、嫌みだ。同期達の、山口君のことを慕っていた者達からの妬みからの差し金だ。



『お前じゃ、どうせ山口の相棒にはなれねぇんだよ』

『お前はいつまでも足手纏いなんだよ』

『お前はいつまでも役立たずだ』


 そんな遠回しな嫌み。



「ふうんそっかそっか。相棒扱いされるのは私なんだ。北道きたみちさんが相棒扱いされてると思ったんだけどなぁ」

「あ、あの、長崎、さん?」

「ああ、あれか。男女ペアの方が対外的に良かったとかかな。もしくは九北組きゅうきたぐみっていう表現が馴染まなかったのかな。西国3人衆さいごくさんにんしゅう西国組さいごくぐみも認知されにくいのか。まあ、香川かがわさんは地方組のなかでも年代離れてるからなぁ。そっかそっか、私なんだ」


 私の言葉に一瞬にして、柔らかかった空気が氷点下まで下がる。私と話していた後輩達以外も異変に気付いたのか、こちらを見始めた。


「・・・・・・長崎、皮肉るな」

 バインダーらしきもので小突かれる背中。そんな行為を私に対してすることができるのは一人だけ。そんな行為を『』がする相手も私だけ。


「なーくーるーさん、深呼吸深呼吸。少なくとも、お前の目の前にいる後輩達は嫌みで言ってるわけじゃないだろ」

 それと同時に頭を後ろからグシャグシャと撫でられる。私とほとんど変わらない身長から伸ばされる手。『』は誰に対しても、そうする。まあ、『』の身長で頭に手が届く相手にだけしか、行うことはできないようなのだけれど。


「山口、君に、香川、さん」

「はいはい、香川さんですよー。知名度低めの地方組最後の世代さんですよー。ああもうまったく、年少組ねんしょうぐみは機嫌制御する術くらい身に付けろっての。まあ、気持ちは分かるけどな。嫌な目に遭ったこと思い出して、我慢できなくなる気持ちは分かるけどな?」

「香川さんの言う通り、石川いしかわも長崎もいい加減皮肉るのはやめてくれ。大人なんだから。・・・・・・それに、長崎。俺の同期ならもっと自信を持て」


 振り返れば、そこにいたのは私より15cmほど身長の高い年上の同期で今は警察学校教官の山口一。

 その隣には私とほとんど身長の変わらない年上の後輩の警察官、香川真人かがわまさひと


 二人の顔はどこか、呆れているようで、子どもを見るような顔で。


西国3人衆さいごくさんにんしゅうっ?!」

西国組さいごくぐみぃぃ!!!!」

 一人の後輩が叫び、それと同時にどこか少し離れた場所から教官、多分玖珠くす教官辺りの叫び声が聞こえてくる。あ、これ怒られるやつ。


「毎回思うんだが、みやこ西国さいごくメンバーに入ってねぇの違和感あるよな」

「確かに。京都花を除いて逆から読むと鏡都(京都)だからな」

「・・・・・・あの、私置いて話さないでくれません?」


 私に対して言葉を掛けたにもかかわらず、まったく関係ない話を始める二人。教官の声にも無反応。

 いや、山口君も教官だから、どういうふうにでもこの状況を説明でき・・・・・・ないな、これ。


「うん? ああ、忘れてた」

「忘れてたって」

 そもそも、言葉のチョイスことどとくミスる山口君だ。説明は絶対に香川さんと私でしよう。

 そして、本当に何なの、この二人、会話がどんどん進んでいく。本っ当にもう。


「はあ。じゃあ、話を戻すけどな、お前今、こいつらの言葉にどう思った。嫌みだと思ったろ。同期達からの嫌がらせだと思ったろ」

「それは、」

「あんな、この顔見ろ? ホントに南日本組のこと尊敬してるだけだぞ? 嫌がらせのいの字もないぞ?」

 私が返答に窮したことに呆れながら、香川さんが指である方向を指す。その指す方向には私のことを心配そうに見る後輩達の姿。悪意なんて感じない顔。ただ、不安で、心配しかない顔。


「あ、」


「・・・・・・やっぱりか」

「やっぱりだったな、一」


 途端、気付く。彼らは『』達とは違う。本当に悪意なんて、敵意なんてなくて、「地方組」が好きなだけ。「地方組」に憧れているだけ。その言葉に他意なんてなかった。


 なのに、なのに、私はそんな彼らを『』達と同じように見てしまった。


「ご、めん、なさい」

 口をついて出る言葉。申し訳なさが心を巣くう。


 自分が情けなかった。勘違いも甚だしかった。名前も知らない、悪意なんて言葉も知らない相手に対して、悪意を持ってしまうなんて大人気ない。


 誰の顔も見ることができない。自分が情けなさ過ぎて、顔を見ることができない。



「・・・・・・お前は俺の相棒だ。誰も否定できない事実だ。お前にだって否定させない」


「苦しければ辛ければ、俺に言え。俺は、お前の相棒、なんだから」



 静まり返っていた空間に響く、山口君の声。


「相棒、」

「そうだ」

 視線をほんの少し、彼の方へ向ければ、彼は私の目を真っ直ぐと見返していた。あまりにも真っ直ぐで、逸らすことができなかった。


「はーじーめー、そりゃあ、誤解を招く言い方だ。普通に「お前は俺の相棒だ。誰にも文句は言わせない。お前が否定したとしても事実は変わらない」って言ってやれ。ま、なくるさんは察せられるかもしれんけど」

「そう言ったつもりですが」

「はー、口下手ですわ、この教官。というか、普通に照れてんやんのこの30代」

「黙れ、低身長」

「あ``?????」


 山口君をからかうように発される香川さんの言葉。その言葉に怒気を込めながら、反応する山口君。

 格好良かったと思ったのに香川さんの言葉に反応した途端、彼が子どものように見えてしまった。やっぱり、年上には抗えないのだろうか。


「おお、怖怖。めんごめんごって。これ、古いか」

「少なくとも、今の警察学校に入校している世代からすれば古いかと」

「だよなー。なくるさんもそう思う?」

「そう、かな、とは思います・・・・・・」

 二人の会話に周囲から誰かが吹き出す音が聞こえてくる。いつの間にか冷え切っていた雰囲気はなくなり、二人の会話に笑いが耐えられなくなりそうな雰囲気が漂う。


 ああ、やっぱり、やっぱり、この二人は最高だ。最悪だった雰囲気を、一瞬にして、塗り替えてしまう。




「・・・・・・ありが、とう、山口君」

 私が小さな声でそう言えば、山口君はどこか不満げな顔をして。

「・・・・・・礼を言われるようなことはしてない」

 その返事は彼なりの「問題ない」の言葉だと私には分かって。



「ありがとう、ございました、香川さん」

 私がそう言えば、香川さんはニッコリと子どもみたいな笑みを浮かべて。

「なんてことねぇって! これぐらいお手のものだっての!」

 その返事は心の底からの言葉だと誰もが分かって。



 この二人がいてこその「西国3人衆」なのだと実感させられた。










「ちなみに西国メンバーに都が入ってない理由、後輩達に聞いたんだけど、知りてぇ?」

「「知りたいです」」

「「私年長組じゃないですから。西国メンバーって別名年長メンバーじゃないですか。ヤダー、年長組ヤダー」って都が言ったからなんだってな」

「後で仕置きが必要らしいな」

「おばさん扱いされるのは想定外です、私も」

「俺も最年長だけど喧嘩売られてるってとってもいいよな???」


 なお、後に明かされた真実によって後輩の都鏡花みやこきょうかに対して、年長3人全員が殺意を抱いたのは言うまでもないことでした。

 ドンマイ、鏡花ちゃん。

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