エピソード5 神宮ペアに敵う者なし(警察官編)
「
「はいはい、分かりました。今行きます」
そう言って、鑑識官の
宮城志摩は数ヶ月前に新たに県警の鑑識課に配属された鑑識官である。
彼の鑑識としての手腕は誰が想像していたよりも、完璧だった。
彼の知識量はベテランでも敵わないほどのものだった。
彼の発想力は並みの警察官では辿り着かないものだった。
それは、宮城志摩の鑑識としての才能は、鑑識官ではない俺でも一目見れば分かるほどだった。
それはもう、鑑識課のエースと言っても遜色ないレベルだった。
宮城を呼んだ声の主は俺の数年上で鑑識課に所属している、
「・・・・・・うん、ああ、はい、大丈夫ですね。やっぱり、一課の見立て通りですね」
ペラペラと先輩から受け取った鑑識結果の用紙を見た後、どこか納得したかのように頷く宮城。一課の見立て、ということは殺人事件関連の資料だろうか。三課の俺には関係のない話だとしてもやはり、一課の話と言われると耳を
いや、憧れが一課にないわけじゃないんだよ。あると言われればあるし、でも、あると他人に言われるのは違うというかなんというか。
「そうかあ。やっぱり、一課の見立て通りかあ。じゃあ、これ、本部に持って行った方がいい、よな?」
「そうですね」
先輩の言葉に頷く宮城。あまりも躊躇いがない。配属されて数ヶ月なのに上の人間に対して臆せずものを言う、その精神は凄い。
宮城の返答に先輩は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「うーん、後で私の方が私の鑑定結果と一緒に持って行きましょうか。先輩、今日は子どもさんの誕生日なんですから、早く帰った方がいいんじゃないですか?」
「お、いいのか。有り難いな」
「まあ、先輩には家族よりも仕事を優先する人になってほしくないですから。この結果は
「了解。つーか、そこで渡すのはやっぱり神崎って、やっぱり、お前ら仲良いな。流石、
先輩の言葉に宮城は感情の読めない笑みを浮かべていた。その目は呆れているようにも見えた。何に呆れているのか、俺には分からない。だって、宮城と関わったことはほぼないから。
それにしても神宮ペア? 聞いたことのないペア名だ。宮城とその神崎という人のペアの名前だろうか。
それにしても鑑識と刑事(予想)のペアとか、聞いたことすらない。警察学校時代に命名された
「お褒めの言葉ありがとうございます。私的には梓先輩の方が話しやすいですけどね」
「お、そりゃあ、嬉しい言葉だな。『あの」神宮ペアの片割れに褒められちまったな」
「『あの』ってなんですか、あのって」
不満げな顔になる宮城。ふっと周囲の鑑識官達を見れば、彼らは先輩の言葉に頷き、宮城の言葉には苦笑いを浮かべていた。
何の話してるか、分かんねぇ。
「『あの』、だろうよ。所轄から県警に上がるまでの間に、お前ら二人でどれだけの事件解決したと思ってる」
「忘れました」
「忘れんな、天災どもが」
ペチッと可愛らしい音が鳴る。先輩が宮城の頭を持っていた資料で叩く。そこまで力が籠もっている様子はない。資料もあまり厚いわけではない。一種のスキンシップに近い行為だろう。・・・・・・先輩、そういうの好きだし。
「小さい事件合わせて、年間およそ80件だったとよ。それが数年も続いた。一週間に一件以上は事件解決させんじゃねぇか」
「黙秘で」
宮城は右手の人差し指を口の前で立てる。可愛らしく見えるのは俺が日々、厳つい男達ばかりと話しているからだろうか。
そうだとしたら俺の脳ヤバいな。可愛いの評価基準バグってきてるな。
「黙秘かよ」
そう言って先輩はまた、呆れたように溜息をついた。
それにしても、年間80件の事件をたった二人で解決するとは。それも鑑識と刑事が。表彰ものでは。もしくはニュース沙汰では。
そこまでやるなら、もう探偵とか犯罪心理学者とかに転職しろよ。ってか、しないのかよ。転職したら、絶対ドキュメンタリーとかになるって。
「それではこれから本部に行ってきます。お疲れ様でした」
「おう、お疲れ様」
いつの間にか、二人の会話から気を逸らしてしまっていたのか、宮城達の方をふっ見れば、話が一段落したらしく、そう宮城が先輩に言っていた。宮城は先輩にお辞儀をすると捜査本部に向かうため、鑑識室から姿を消した。
一瞬の沈黙が鑑識室に流れる。
「・・・・・・俺と神崎を比べんな。お前の相棒は神崎しかできねぇっての。神宮ペアに俺を巻き込むな」
そんな諦めたような、苛ついたような先輩の声が静かな鑑識室に響いた。
神崎さん
先輩がそれほどまでに敵わないと思う人物。いつか、会う機会があれば会ってみたい。
そう自分らしくもなく、考えてしまった。
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