ここは貴方達の様なイケ女が来る場所ではありません!(だってオタクの寄せ集めだもの、この文芸部)
十一月二十九日
花は灯され影をつくる
0.部長、大失恋しました
卒倒した。
横転なんてものではない、誇張抜きに私は卒倒した。激しく打ち付けられた己の身体がシーツへと皺を刻んで沈み込んで行く。同時に悲しみの海にも沈み込む。ああ。元より泳ぎなど得意ではないこの身体、あぷあぷ溺れてしまいそう。どうかかぷかぷ笑い飛ばしてくださいなクラムボン。
貴方が不特定多数と寝ることなんて、知っていたって許容していた。だって貴方はわるい人で、誰かにほんとうの愛なんか持てなくって。男女構わず触れたり口づけたり、とても口にするのをはばかられる様な事をしたり。色々蜂蜜たっぷりな様を私は貴方を知った日からずうっと唇を噛み締めて見ているのだった。それでも嫌いになるなんてとうに出来なかったから。
それが、それが。
貴方は勝手に汚れた手を洗い流して。
陽の下へと歩み出てしまって。
どこの馬の骨とも知らない男の手を取ってしまって。
呆然とする私を壁の向こうに置き去りにして行って。
いっそ死んでいてくれたほうがずっと良かった。なんて思っちゃいけない事は解っているのに、私の真っ二つに割れただろう胸の中身からはどろどろコールタールめいたものが溢れ出て止まらなかった。
十年。十年も。私は貴方へ捧げた。初恋ではなかったけれど、一番長い愛だった。これからも、貴方に与え続けるつもりでいた。
弁えて思いは伝えずに、貴方のゆく道が幸福である事を願っていた。貴方へは届かないラブレターを書き続けて。
けれどこんな形で叶えられるなんて望んでいない。彼女の幸福はもっと別の形であるべきでしょう。
そう言う権利すらも私には無いのでしょうけれど。ぎゅうと手を握り込めば、シーツの皺がまた増えた。
激情で満たされても狂いきれない私の脳のうちでは、彼女についての記憶がぐるぐる巡り続けている。上っ面の王子様みたいな笑みも、素の意地の悪い笑みもどちらも愛していた。一度――いや二度。流した涙も勿論。
それらもこれから全部全部あいつの物になると思うと更に心へと薪は焚べられ、熱された頭のなかみがでろでろ破壊されていく。熱するなら彼女が夜、口にするシチューが良いのに。彼女の嫌いな玉ねぎは細かく丁寧に刻んで煮込みに煮込むのだ。ああ、私の今日のご飯は何だろう。何であれど喉を通る自信が無い。
とうとう着けたままの眼鏡が落ち行く雫を受け止め始めたから、私は外して拭った。すぐ側の本棚に並ぶ背表紙達すら意味無き模様と化していく。いっそこのまま言葉も、文化も忘れてしまいたい。考えぬ葦となって、緩やかに枯れゆきたい。
――この世に刷り出されてしまったアレを、もう認識したくない。
ベッドの下に落ちた、角の潰れた月刊少年雑誌。
開かれたページの中、モノクロの彼女はま白色を纏って少女の様に笑んでいる。
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