量子転生~別世界からの来訪者~

@kakeru-naka

第1話

 「えっ?」スグルは汗びっしょりの中、気だるく目覚めた。携帯の目覚ましをかけたのに全く反応しなかったようだ。

「少し遅刻だがなんとかなるか。」独り言を呟きながら起きる。寝たのは午前2時過ぎだったので6時半起きはちと辛い。両親は早々に出勤している。スグルは部屋でパジャマを脱ぎ捨て下着のまま階下に降りてシャワーを浴び、すぐ着替えて朝食代わりのゼリーを食べながら駅へ向かう。


スグルは高校生ながら作家として作品を発表している。昨夜は乗っていたので2時まで執筆をしてしまったが、馬鹿だった。今日の数学は小テストだし体育もあった。居眠りするかもしれないし、5月とは言え、体育で長距離走ったら柄にもなく倒れるかも。さらに夕べは夢を見た。最近よく見るかなりリアルなやつで前の続きのような。「またか?」と目覚めた時に思ったが、以前見た際はかなり面白く自作に内容を取り入れたりもした。昨夜の夢は前の続きにはなるが、しかし、前の話を載せた時にはケチつけられてたしな。発表は控えるか。いや、しかし、この話はやはり面白いと思う。スグルは最近は書籍化も考えながら思いついたネタで3つの作品をネット小説に上げている。「まあとにかく学校行くか。」スグルはまずは学校のことに集中することにした。


 放課後になり、走って玄関口に向かうスグルはバンド仲間の杏と拓哉に呼び止められた。「ちょっとスグル、どこ行くのよー!」「スグル、今日は合わせの日だぞ!」。スグルは「悪い、今日は急いでやることあるんだ。明日の土曜は頑張るから。」と叫ぶと逃げるように走って行く。頭を掻いて見送る拓哉はまあしょうがないかと言うそぶり、一方の杏はお似合いのポニーテールを左手で撫でながら「あんなろう、明日スパルタだ。」と右拳を固く握る。スグルは学校から帰ると、部屋で机に向かいPCを開くと小テストの反省もそこそこに執筆に入る。スマホでもある程度アイデアの打ち込みはするが整理はやはり自宅PCだ。しばらくの間集中して作品を仕上げ、そして以前の続きとしてそれをネットにアップして、反応を待つことにする。以前上げた小説にコメントしてきた4人から反応が来るかどうか。


 3ヶ月前、4人から「アップされたこの別世界の話は聞いたことがあるけど。」との連絡があった。そのうち2人は続きを書いてくる。そこにはスグルが夢で見たものではあるが、まだ作品には載せていなかった内容が入っていたのだった。何故こんなことがとスグルはいろいろ考える。夢でだけ見たと思ったが、何かで放送されたり、出版されたりしたものを夢で見たのかもしれない。一方で今回、昨夜見た内容で上げたものは、夢見る前日、昨日寝る前までは知らなかった内容のものだ。アイデアを最近はメモして過ごしているので間違いない。


 次の日は土曜で、スグルは約束通りバンドの練習に真剣に打ち込んで杏らを驚かせた。「スグル、何かあった?」杏は笑いながら話しかける。「ノリノリで良かったけど。」スグルは少し真面目な顔つきで「何かいろいろと変なことが世の中多くて逃げ込みを計っている感じかな。」と言うと、拓哉は笑って

「ああ、前に小説書いた時もそんなこと言ってたな、スグル。まあ俺たちは今年で引退だから頑張ろうな。」一応進学校の学生の彼らは高2の今年でバンド活動、部活は引退になる。中高一貫校の彼ら、杏、拓哉、スグルは昔馴染みで中学入学時から鉄道研究会、硬式テニス部、バンドをやる軽音学部と面白く過ごしてきた。


スグルが高1の冬に何となく書いていたという「ミュ-ジック凧(カイト)」という作品は新人文学賞を受賞した。それは高校生仲間の友情と葛藤を描いた青春小説だった。スグルにとっては心のバランスを取るための作業だったが、認められたことは素直に嬉しくて、高校生活の合間に更に書こうと思ってこれまで続けてきた。ネット小説はたまに辛辣な意見を受け止めるのが辛い。作品の批評を受けるのは産みの苦しみとも考えられたが、今回は盗作を疑われたのでかなり思い悩んでいたのだ。「今回の動きで解決できると言いんだけどな。」スグルは休憩後に再開した演奏中もキ-ボ-ドを叩きながら時たまそのことを考えていた。


 翌日の日曜日の夜には以前コメントをくれた2人から連絡が入り、それは「面白かった。続きが読めて嬉しい。」とのメールだった。4人のうち以前続きは書いてこなかった2人からだ。スグルは以前連絡してきた4人全員に向けて、その夜にメールを出し、オフ会を開くことを提案、次の週末の土曜日を指定し会うことにする。急なので無理かと思ったが、待ち合わせ場所には今回感想をくれた2人が来てくれた。驚いたことに二人とも高校生だった。


「すみません、私、あみといいます。スグルさんの作品は皆読んでますよ。今回の作品については難癖つけた訳でなく不思議だったので。。」スグルはあみの学生服のチェックのスカ-トとスク-ルリボンを見て「あれ、瀬名学園ですか?」と言うと、あみは驚いて「え?制服でわかっちゃったりするんですか?」と引き気味に話すと

「いや、俺バンドやっててさ、瀬名学園のバンドは結構気に入っていて注目してるんだ。特別な制服趣味はないよ。」と言い訳のようにスグルが返すと、

「そうですよね。」苦笑いしながらあみは下を向く。黒髪ショ-トのあみとは対照的な感じであみの横に座った茶髪ロングにブレザーの子は「私は、しずかです。私も実は小説書いていて、なんとか書けそうなアイデアが得られたと思ったらスグルさんに書かれてしまって、でもあんなに上手く書けませんでしたが、、」と話す。


スグルは居住いを正すと「しずかさん、そのアイデア、どこで掴みました?」

しずかは少し黙ってから「夢です。」と言う。

スグルは「あみさんは?」、「私も夢です、、」とあみが話す。

スグルは「そんなことが。でもこんなことって。実は僕も夢を見たんだ。結構鮮明な。それで書いた。」

あみとしずかは顔を見合わせて呆然としている。

「あの、続きを書いた二人は?」あみは周りを見渡す。

「来ていない見たいですね。」スグルも見回す。しずかは

「他の二人が前にメールで書いてきた続きはあれで合ってたんですか?」と興奮気味にスグルに聞く。「ああ、合っている。描写は微妙に違うけどあんな感じ。夢で見たけど書くのに取り入れなかった部分なんだ、と言うか、君達は知らないの?」スグルは急に驚いた声になる。

「私は知りません。」としずかが言うと、「私もです。」とあみが言う。

そんなことって、同じ夢を見ているのではないのか?まあそもそも知っていたらそれはそれで驚きなんだけど。


スグルは「二人はどちらから?」と聞くと

あみとしずかは二人とも東京だがあみは三鷹、しずかは小岩からきたとのこと。

「ハンドルネームのくまさんと萩さんはどこの人なんでしょう?」

スグルは「さあ、ただ他の二人は私が書かなかった他のことを知っていた。君たちは知らなかった。この違いは何だろう?」

「スグルさんは夢でのアイデアはよく使うんですか?」

「いや、今回のものが初めてだったんだ。なんか鮮明で忘れられなくて。」

その後、あみは話づらそうに、このことと関係あるのかわからないんですけど、女の子から話しかけられる夢を見ました。ショウ様に協力してくれと。それだけなんですが。」

「え、私もそんなことあった。あれ何だよ、って思っただけだったけど、これと関係するんですか?」としずかも続く。

3人はお互いを見回し黙ってしまった。

スグルが描いた夢の話の概略は次のような話である。

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