第10話:敵組織撃退&売上爆発RTA・中編
「くーーーーーーーっはっはぁッ! これで終わりじゃぁ〝
――『ムサシノ老舗商會』。それは、サイタマ王国の有力地方都市『ムサシノ』を勃興以来支配する、大商店店主たちの集まりである。
ムサシノの歴史は百年。そして現在、老舗商會に入るには〝百年の営業実績が必要〟という条件が課されているゆえ、新規参入者を完全に締め出している状態にあった。
そこの商會長――一切の色素が抜けた、白髪赫眼の少女は邪悪に笑った。
「アズ・ラエル、そして『アンリマヨ教』の〝
彼女こそは〝劫幼の孀葩〟モルガン。永劫長命の天人種族『
突き出た乳房以外は十代前半程度にしか見えない容姿をしているが、その実は百歳を超えるという、ムサシノの旧き支配者であった。
「くくくっ……勝利の味は甘美なり。また勝ってしまったか」
場所は秘密の暗き地下基地。その儀式上めいた玉座の間にて、モルガンは反逆者共の絶望を思い、愚弄する。
「妾を不愉快にさせるから、こうなったのじゃ」
――彼女は『成り上がり者』が大嫌いである。
連中は菜園に沸く害虫のようなものだ。どこぞよりぽっと現れ、わけのわからぬ〝新しいもの〟で、老舗店舗を馬鹿にするように金を稼いで、潰していく。
なんだそれはふざけるな。敬意を払えよ若造が。何がベンチャーだ、何が隙間産業だ。有力商人たちの長年の苦労を、ギャンブルめいた思い付きで無駄にするなよ。血と汗の結晶たる既得権益を何も知らずに奪うなよ。老舗店舗には多くの人の繋がりと歴史と責任と、従業員たちの生活が詰め込まれているのだぞ――と。
そのような信条の下、〝劫幼の孀葩〟モルガンは新規店を目の敵にしていた。
許すのは、老舗店舗の株分け店や、正式に弟子が始めた系列店のみ。それ以外の新参者は邪道だ。敵だ。既得権益を侵す存在として、絶対に潰す。
特に、マヨネーズ製造販売企業『マヨ・ラエル』とやらは、最初からすさまじく気に食わなかった。
「商売界は女の戦場じゃ。そこに、弱き
が、しかし。『マヨネーズ』なる訳のわからない商品は大ヒットし、そのブームは留まるところを知らなかった。いくら可愛らしい男児が売り始めたという付加価値こそあれ、あまりにも異常だ。
そこで、ついにモルガンは例の少年社長――アズ・ラエルの開発したマヨネーズを試食したことで、戦慄した。これは凄まじく美味く、
まさに新感覚の満足感だった。これには、コクがあったのだ。それに味に奥行きと複雑さがあった。調味料など、辛いか甘いか酸っぱいか……単純にその程度だと思っていたのに。しかも火の通し具合によってまた味わいが変わるのだから、これはすごい。
そう戦慄し、評価したからこそ、モルガンは速攻で『マヨ・ラエル』を潰しにかかった。手下に命じて盗人を雇い、マヨのレシピを奪いにかかったのだ。だが。
「アズ・ラエルのやつは、強敵じゃった。おそらく、男子で成り上がり者の自分は、早々に襲われると思っていたのじゃろう。やつめ……よりにもよって『アンリマヨ教』の暴力シスターを手駒にしおって」
それにより計画は阻まれた。しかも手下は、どうやらプロではなく三下の盗人を雇ってしまったらしい。盗人はすぐに雇い主を白状し、結果――手下は商會肝いりの高級割烹店を開く直前でありながら、『アンリマヨ教』に弱みを握られることになってしまったのだった。
「少年社長、アズ・ラエル。弱き男子でありながら、マヨを生み出す開発力に、凶悪なシスターたちを配下としておく計画性に、カリスマ性。まさに恐ろしき若虎であった――が! 全ては過去ッ!」
アズ・ラエルは、もはや敵ではなくなった。
「なにせ、おぬしがマヨネーズのレシピを解き明かしてくれたんじゃからのぉ。なぁ、『中央卸売市場』が長、〝幽囀の魘吏〟ネヴァンよ?」
「フヒッ、ハァイ……!」
足を組みながらモルガンは、眼前に傅く女性を褒め称えた。
彼女こそは市場長のネヴァン。『
つまりは街でも指折りのエリートである。だが、紫の長い癖っ毛に、紫の厚い出のドレスに、目には隈に、猫背でだらしない身体つきにと……なんとも昏く不気味な風貌をしているのだが。
「しかしよくやったのぉ。まさかこんなにも早くマヨを暴くとは」
「ヒヒッ。か、簡単でしたよぉ商會長……! 会社やあの少年社長周りは、常にチンピラシスターたちが周囲をうろついているゆえ、覗き見は困難でしたが……な、ならばデータに頼ればいいだけのこと……ッ!」
どもりつつもニヤつくネヴァン。彼女の手には、各種食品店舗への『出荷表』があった。
「『マヨ・ラエル』の事業拡大……。男の子クンごときが調子に乗ったであろうアレが、仇になりましたねェ! おかげで、どんな食材を求めているかが明確になりましたァ」
そう。『マヨ・ラエル』が近隣の店舗に特定の材料を求める。それが大量となれば、当然店舗は、卸売市場で――つまりはネヴァンの領域で――その材料を大量に発注するようになる。そうすれば否が応にも見えてくるのだ。マヨネーズのレシピというものが。
「ずばりッ、マヨの食材は『卵・酢・油・塩』でしたぁ! ひとまずそれらをかき混ぜてみたら……なんとッ、それだけでマヨっぽくなったのですよぉ!」
「天晴ッ! よくやったぁ! 商會内におけるおぬしの地位を上げてやろうッ!」
「はァいっ!」
商會長の再三の賛美に、ネヴァンはさらに笑みを粘つかせた。
老舗商會内にも発言力の差がある。多くの成果を出す店舗の長であれば、都市内の各種イベント企画を主導となって行えるようになるのだ。また単純に、〝格下〟に対して強く出られるメリットも。
「ふひひッ……。わたし、誰かを見下すのが大好きなんですよォ。弱い存在は弱いままでいればいいのです。あのアズ・ラエルくんも、チョーシこくからお姉さんに潰されちゃうんですよぉ~……♥」
「フッ、歪んだ奴め。じゃがそのコンプやよしッ! 今後の次第によっては、貴様を『商會四天王』に格上げしてやろう!」
「ッ、はひー!」
商會四天王――それは老舗商會内における、トップフォーの通称である。その甘美な響きに、〝幽囀の魘吏〟ネヴァンは淀んだ瞳を煌めかせた。
「ではこのネヴァンッ! 至急、ムサシノ老舗商會製のマヨネーズ、名付けて『ムサネーズ』を大流通させる攻撃を続けてまいります~~~ッ!」
「おうッ、やったれやったれ! ネーミングセンスはともかくやったれ!」
この世界に明確な商標権はない。中身がほぼ同じであれ、パッケージや名称を変えさすれば、市場に流すことが可能なのだ。
ゆえにこそ『レシピ』が大切なのだが、それもすでに暴ききった。
「さささァ売りますよぉ~! もちろん、本家よりもお安くぅ~~!」
「わははははははッ! わかっておるのぉーッ!」
少年社長の破滅を想い、邪悪に笑う女たち。
ああ、きっとアズ・ラエルは今ごろ泣き喚いているだろう。所詮は弱い男の子クンだ。もしもモルガンたちが目の前にいたら、『お姉ちゃんたちっ、やめてよぉ!』と、小さな身体で縋りついてくるだろう。
そう思えば、嗚呼、サディスティックな欲が止まらない。女たちは濡れた瞳で、かの少年の悲しみを夢想する。
「くはははは……ッ! もしもヤツが借金と絶望にまみれて奴隷堕ちしたら、そのときは商會で買ってやろうかのォ~! 犬の首輪を嵌めてやるわっ!」
「いっ、いいですねェッそれッ! 落ちぶれ絶望少年社長ペットくん……ウヒヒッ、ネヴァンどうにかなっちゃいますよぉ~~~♥」
闇の底で嗤う二人だが――彼女たちは知らなかった。
会社倒産の危機を前に、アズ・ラエルが、むしろ大歓喜していることなど……ッ!
彼が本当は没落したくて、妖しい笑みを浮かべていることなど……!
そして、それを見た
(アズ・ラエルッ、必ず没落させてくれるわーーーーーー!!!)
(モルガンさんッ、必ず没落してあげますよぉおおーーー!!!)
その結果――数日後。
「モルガン商會長ッ、新商品を出されて負けましたあああああッ!」
「アズ社長ッ、新商品出して〝
「「ファッ!?」」
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