第9話:敵組織撃退&売上爆発RTA・前編(※望んでない!)



「ぶっちゃけ俺、めっちゃ無能なんですよね。社長の座を早く渡したいと思うんですが、誰かいりませんかぁ~?」


『ハハハハ! 超絶有能アズ社長、ナイス〝冗談ジョーク〟!』


「ジョークじゃないんですが……」



 ……反社のチンピラシスターズ百人を雇うことになってから、数週間。マヨネーズ製造販売企業『マヨ・ラエル』はおそろしく順調だった。

 元々人手の足りなさに喘いでいたくらいである。そこに(勘違いから)俺を超慕う社員たちが加わったことで、ものすごい馬力で会社が回り出したのだ。

 満たされたマヨの供給は、多くの客の舌にマヨが届く結果に至った。それがさらなる話題を生み、新たな注文の発生する好循環を作り出した。

 今や、マヨネーズの新次元な旨味は都市外でも話題となり、『サイタマ王国』の各地から発注契約を申し付けられる事態へと進展。噂では、王族の食卓に届くのも時間の問題と言われているらしい。


 で……今日はそんな『マヨ・ラエル』の給料日。

 新たに借りた大型店舗の敷地内にて、俺は百人の社員たちに、パンパンに膨れた給料袋を渡していた。

 はいどうぞ、はいどうぞ。みなさんよく頑張りましたね~。



『おおおおおアズ社長! 初任給で百万ディナールも〝御頂戴イタダ〟けていいんですか!?』


「イイデスヨー」


『こんなに給料〝譲渡わた〟したらッ、社長の懐にはお金残らないんじゃないスかァッ!?』


「はは……日銭さえあればいいですよ。自分、三食食べれれば充分なんで、みなさんで使っちゃってください」


『社長ォオオオオオオーーーーーーーッ!?』



 あ、感動の涙流さなくていいからねー……!

 俺、膨れ上がったマヨ資金を少しでも減らしたいだけだから……!

 こちとら大金持ちになるつもりはないんだよ。そんなん持ってても危ないだけだし、上手く使えないし。それがなぜ、毎日数百万だか数千万だかの売り上げを得る立場になっているのか。本当にもう引退したいんだよぉ~……!



『〝深愛感謝マジアザ〟ッス社長! これで拾った孤児たちを学校に通わせられる……!』


「よ、よかったですね(って子供を売る側の顔だろオマエらは……)」


『はいッ!』



 ぐぬぬぬッ……これだよ。ひょんなことから極道のフロント企業になってしまい、このチンピラシスターズを養うと言ってしまった手前、簡単には閉業できないんだよなぁ……! しかもみんな、見た目のわりに真っ当すぎるし。


 ま、どうせ俺なんてそのうち失敗するかもだけどな。高給は、それまでに貯金を作ってもらうためのものでもある。



「ふぅ……(極道の大ヒットしたフロント企業の社長とか、改めて色々立場が重すぎる……!)」


『社長ッ、お疲れッスか!? 全身〝慰撫モミ〟ほぐしましょうかァッ!?』


「いやいいですから」



 今日も健気なチンシスたち。でも油断してはいけない。先日、身代金目的に俺を拉致しようとした犯罪者を捕らえ、『社長の〝身柄ガラ〟攫うたァどういう了見だ〝糞三下ドチンピラ〟ァァアアッ!』『〝計略エズ〟描いたのは誰じゃワレェッ!?』『アァァァァァンッ!? 単独犯だァッ!? 〝虚言パチ〟こいてんじゃねェぞカスがァッ!』と、ものすごいド声量で詰め寄ってたからな……。


 なおその後、『家がァ!? 〝極貧ビンボー〟でェッ!?』『それが犯罪の〝理由ワケ〟かオォオオンッ!?』『ふざけんなァァァアッッ! アズ社長の〝権威カオ〟に泥かける気かゴラァアッ!』『ンなことしなくてもッ、社長はそういうヤツァ無条件で〝救済スク〟ッてくれんだよオラァッ! 〝肯定です〟よねぇ社長!?』――て感じで、なんか勝手にものすごい勢いで救うことになっちゃって、拉致犯めっちゃ俺に感謝してきたんだけど……。いやまぁいいんだけどさ。



『うおおおおおおいつも〝有難アザ〟ッス社長ォオオ! 社長ォオオオオオオオッ!』


「あ、勝手に持ち上げないでくださいね~。胴上げしないでくださいね~。勢いのままに天井付近まで投げないでくださいね怖いので~」



 無意味にワッショイされながら、俺は思った。やっぱもう無理だと。

 いい子たちだけど、チンシスたちといると疲れてしまう。慣れない社長の座といい、色々限界だ。



「はぁぁぁ……(ああ、やっぱり引退したいなぁ。それも極めて自然な形で)」

 


 逃げたり露骨な失敗をするとかじゃ、ダメだ。


 そんなことをしてみろ。元々はチンピラなシスターたちは、間違いなく俺を恨むだろう。女性が強いこの世界においては、男子の俺は本来見下される立場だからな。同じアンリマヨ教徒と勘違いされていることもあり、裏切ったら信頼が反転してきっとえらいことに……あー怖い! なんで二度目の人生も極道に苦しめられてんだよ……!


 誰か、頼むから俺を引退に追い込んでくれないかと――そんなことを考えていた、その時。




「――大変っすよ、アズ社長!」




 赤毛のイヌ耳少女シスター、クランさんが部屋に飛び込んできた。フーリンさんを『お嬢』と呼んで付き従う、従者的な子だ。



「って、こらっシスターたち! なにワッショイしてるんすか!? 社長に気安いっすよ!」


『押忍ッ! 〝陳謝サーセン〟ッしたクランさん!』



 

 素直にやめるチンシスたち。どうやらクランさんは組長メイヴ若頭フーリンに次ぐ舎弟頭的な地位にいるらしい。俺はようやく地に足をつくことが出来た。



「す、すみませんっすアズ社長。シスターたちってば、社長が頼れる上に可愛いもんだから、すっかりベタベタするようになって……」


「いえいえ、構わないですよ」



 本当は構うが。



「そうっすか……ほっ。アズ社長が器の大きい方で、なによりっす」



 胸を撫で下ろすクランさん。うーーーん、なんて普通にいい子なんだ。

 キャラの濃いシスターの中でも、この少女だけは真っ当だ。明るいけどあまり主張してこないっていうか、気付けばそこにいる幼馴染系ヒロインっていうか。




「クランさんといると落ち着くんですよね……(他のゲキヤバシスターと比べたら)」


「んなっ!? ちょっ、いきなり何言ってるんすか社長さん……!?」


「あ、すみません、つい口が滑って」


「なななな……っ!?」



 いかんな。相当疲れている証拠だ。それもこれも、極道連中のおかげで半ば強制的にすることになった事業拡大のせいで……。



「ご、ごほんっ。しゃ、社長。プライベートなお誘いは――お嬢に秘密で――また別の機会に……!」


「?」


「って、それよりも緊急事態っす!」



 お誘いなんていつしただろうか? それに緊急事態? どゆこと?

 首を捻る俺に、クランさんは冷や汗を流しながら「実は……」と続けた。



「やつらが……『ムサシノ老舗商會』のやつらが、マヨそっくりの商品を売り出したんすよォーーーッ!」



 ファッ!?



『なんだとォオオオオオオーーーーーーッ!?』



 瞬間、チンシスたちが怒号を上げた。「あの連中ッ、マヨのレシピを〝暴露アバ〟きやがったのかッ!?」「その上で〝剽窃パク〟りやがったなぁ!」「〝許容ユル〟せねぇ! 前は〝三下ドサンピン〟雇って盗みに入った奴らがよォッ! 訴えてやる!」と、口々に怒りを爆発させる。


 そんな中、



「フ――フフフフ……!」


『!?』



 俺は、思わず笑ってしまった。

 あぁいけないっ。悲しまなきゃいけないのに。怒らなきゃいけないのに。なのに、漏れる笑いが止まらないんだ……!



「なっ、なにを笑ってるんスか社長!? 老舗商會……あそこを総べる『モルガン商會長』は、陰惨で強欲な女っす。古い店の既得権益を守るために、数多の新規事業者を確実に潰してきたんすよ!?」


「面白いですね」


「!?」



 っておっと、つい本音が出てしまった。あまりにも没落したくてな。



「まぁ、クククッ……落ち着いてくださいよ。どんな美食のレシピも、いずれは暴かれるものだ」


『しゃ、社長……!?』


「そして、前の盗人というのは、『ムサシノ老舗商會』肝入りの料理店主が雇っただけで、商會本体とは繋がりが暴けてないんでしょう? ならば騒ぐのは無意味だし、なにより醜い」




 なぜか戦々恐々とした目で俺を見てくるチンシスたち。ま、そりゃそうか。唯一の商品を奪われちゃったら大ピンチのはずだもんな。普通は俺、絶望して取り乱さなきゃおかしいよな。

 だが、しかし。



「ゆえにみなさん。どうか、落ち着いてくださいな」



 ――これでようやく、没落できるぞぉおおおおおーーーーーッ!



 俺は絶望するどころか、内心喜びが爆発していた! やったぜぇええええ~~~~~~~!



「クククッ……せいぜい頑張ってくださいな、『ムサシノ老舗商會』……!」



 頼むからッ、俺を引退に追い込んでくれえええええええええええええええええええええええええええええええええ~~~~~!!!!!!!



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【Tips】


密偵の報告を受けた老舗商會長「わ、笑っていたじゃと……? きょ、恐怖でおかしくなったかっ、ふはは!(ま、まさか敵の出現に歓喜していたなんてことは……)」

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