第7話:暴力集団ゲットRTA・中編(望んでない!)


「フーリンさんたちの組は貧民区を拠点にされているのですか」


「うん。行政の目が届きづらいから」


「ひえ、生々しい理由……」



 なんで俺は極道マフィアと関係を持っちゃってるんだろうか……日銭を稼いでひっそりと暮らしたかっただけなのに。

 馬車を降りた俺は現在、フーリンさんの先導で仄暗い小路を通っていた。なお背後には、数十人のチンピラシスターが続いている模様。俺に触れた手をクンクン嗅いだりしている。振り返りたくねぇ。



「行政の目が届きづらい、ですか……な、なるほど……」



 いよいよ俺はやばさを感じてきた。つまりこいつら、行政の目が届く範囲なら、捕まるようなことをしているわけだ。

 俺は本当についていっていいんだろうか。このままだと、俺も犯罪に巻き込まれるのでは……!? そんなの嫌だ!



「す、すみませんがフーリンさん……俺、ちょっとッ!」


「? 社長?」



 意を決して、俺は駆け出した。進んでいた道の横合いに、子供しか通れないような細道を発見していた。そこに向かって俺は逆走する!



「社長どうしたの? おしっこなら、わたしたちの目の前でしていいよ。ねぇみんな?」


『ぜひ〝懇願オナシャ〟ッス!』


「誰がしますかッ!」



 声を振り切り、俺は細道に飛び込んだ!

 すまんなフーリンさん。キミはいい子だが、やっぱりマフィアだ。反社だ。前世で俺をボカッとしたヤツの同類だ。そんな連中と関わるのはやっぱり嫌で――――ん?



「――う、ぅぅ……」



 あれ……なんか細道のちょっと奥まったところに、小さい女の子が倒れてる……?



「待って社長。いったい、なにが――って! あぁ、社長ナイス……!」



 追いかけてきたフーリンさん。細道にボリューミーな身体をぎゅむっと挟みながら、「そういうことだったんだ……!」と呟いた。え、なになになに?



「社長、その子が倒れてることに気付いたんだね」


「え!?」


「小柄な子、きて! 社長が倒れてる女の子みつけた!」


『〝真実マジ〟スカ!?』



 ――かくして騒ぎ出すチンピラシスターたち。彼女たちは少女を急いで救い出したのち、『アズ社長〝覇業パネ〟ェッ!』と一斉に俺を褒め始めた。フーリンさんも、尊敬度倍増しの眼差しで頷く。

 えっ、えっ、えっ!?



「社長がいなかったら、その子きっと死んでたよ。社長すごい!」


「い、いや俺は……!」


『流石は社長ッッッス!〝心底憧憬マジリスペクト〟ッスヨ!』



 うわああああキラキラした目で見てくるなぁ!

 い、言えね~~~! みんなのことが怖くて、逃げ出そうとしただけなんて!

 くそっ、女の子を助けれたのはよかったけど、逃げる機会なくしたし最悪だ!



「ぅ……わたし、は……?」



 とそこで、寝かされている女の子が身じろぎした。

 襤褸に身をくるんだネコ天人の子だ。頭の隷光輪ハイロゥが薄く点滅していることから、かなり消耗していることがわかる。フーリンさんが駆け寄り、身を起こした。



「しっかりして。死んじゃダメ」


「ぁ……おねえ、さんは……?」


「わたしはフーリン。『教会』の者だよ」


「……!」



 フーリンさんに抱き起こされ、わずかに意識を取り戻す少女。なにやら『教会』というワードを聞いた瞬間、ハッと目を見開き、乾いた瞳から涙をこぼした。



「あ、あの……っ! わたし、捨てられちゃって……でもこのへんに来れば、ごはんを、くれるって……!」


「うん、本当だよ。とりあえず、これをどうぞ」



 刀の柄に触れるフーリンさん。すると、なんと柄の奥底がパカッと開き、中からマヨ串焼きを取り出した!

 ……なんてところになんてものを入れてるんだよ。



「はいどうぞ。わたしのおやつ」


「こ、これは? なにか、どろどろとしたものがかかって……」


「それはマヨだよ。こっちの男の子クンが作ったウマウマ調味料なの」



 不意に話を振られてビクッとしてしまう。女の子はこちらを見るや、「男の子……それもこんな小さな子が作った……?」とちょっと懐疑的だ。

 俺、女児にまで小さい子扱いなのかよ。



「あなたを見つけたのもアズ社長なんだよ。彼がいなければ、見逃すところだった」


「! そ、そうなんですか? あの子が、わたしを……!」



 たまッたまッなんですけどねぇ!



「だから大丈夫だよ。信じて。アズ社長のマヨ、すごく美味しいから。食べてみて」


「は、はい。ありがとう、ございます……!」



 臆しながらも手に取る少女。そうして一口、おずおずと口に運んだ瞬間――「お、おいしい!」という花開くような声を響かせた。



「おいひいっ、本当に、おいひい……!」



 縋るようにはぐはぐと食べ、嚥下しながら大粒の涙を流し始める。おくちにあったようで何よりだ。フーリンさんは変わらずの無表情でその様を眺めていた。



「クラン」


「了解っす。怪我とかしてるかもなので、先に屋敷に運んじゃいますね」


「よし」



 おお、まさに阿吽の呼吸というやつか。フーリンさんが名を呼んだだけで、手下のイヌ耳赤毛少女・クランさんが動き、女の子のことを抱きかかえた。そのまま素早く走り去っていく。



「あ、あの! フーリン様に社長様、ありがとうございましたぁーーーっ!」


「いえいえ」



 抱っこされながら手を振る女の子。俺は苦笑しながら手を振り返した。

 なんか悪いな。



「自分にも御礼をされちゃいましたね。あの子を助けたの、フーリンさんたちなのに」


「何を言ってるの。そもそも社長が見つけたから助けられたんでしょ?」



 いやだから、それは勘違いで……!



「本当によかった……ウチの組は、ああした困った者を助けるのが信条なの」



 運ばれる女の子を見つめながら、ゆっくりとフーリンさんは語り出す。



「行政の目が届かないところにこそ、あんな子が溢れてる。だからこそママは、貧民区を拠点に慈善活動をしているの」


「そ、そうだったんですか」



 悪いことをしているわけじゃなかったのか。



「……けど……」



 フーリンさんがわずかに表情を翳らせた。「これまではどうにかやってこれたけど……」と呟き、続ける。



「少し前に、ママが病気になっちゃった。瘴咳性ベヒモ熱っていう魔獣由来の重病。治療費がすごくかかるの。人助けをする余裕なんて、あっという間になくなった……。わたしたちは、ママを助けるか、その他大勢を助けるか、命の選択を迫られていたの」



 そんな時、と。フーリンさんが顔を上げ、俺のことを強く見つめた。



「アズ社長が、ママのことを助けてくれた。嫌な女だったわたしに手を差し伸べてくれたの。だからアズ社長。さっきの子を助けられたのは、社長のおかげなんだよ」


「そう、だったんですか……」



 なるほど。フーリンたちの悩みは相当に根深かったようだ。それを俺が(たまたま)助けたと。

 だから彼女やチンシスたちは、あんなに過剰に俺を慕ってくれてるわけだな。



「事情は分かりました。自分のマヨ事業が(たまッたまッ)慈善活動に繋がっていたようで、嬉しいです。……それにしてもフーリンさんの組織、いいところだったんですね」



 マフィアと聞いてビビってたよ。その実態は正義の組織じゃないか。この新西暦のポストアポカリプス社会、前世みたいにセーフティネットが充実してるわけじゃない。そんな中で頑張るフーリンさんたちは立派だ。



「いいマフィアだったんですね、フーリンさんたち」


「うん……!」



 フーリンさんは微笑を浮かべ、誇るように言った。



「暴力沙汰もたまにしかしない、いいマフィアだよ」


「ってちょっとはするんですか!?」



 やっぱりこええよオイ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る