ハズレ勇者と迅雷の少女 ―スキル【弱点特効】で挑む異世界召喚物語―
@atsuagerock
一章 ハズレ勇者と迅雷の少女
第1話 召喚
【召喚魔法が発動しました。応じますか?】
▶はい
いいえ
あの日々を変えたい。
どこかで、そんな衝動が胸の奥に燻っていたのだと思う。
だから俺は、迷わず「はい」を選んだ。
光に呑まれ、意識が反転する。
◆
「──異界の勇者よ。我らの召喚に応じたか」
低く威厳ある声が響いた。
気づけば俺は石造りの広間に立っていた。
薄暗い中、床には赤黒い魔法陣が光を放っている。
周囲には兵士や神官らしき者たちが並び、奥には王と思しき人物が座していた。
注がれる視線は重く、値踏みするようだった。
召喚されたばかりの俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。
名前はユウタ・タカシナ。
俺の目の前には“ステータス”と書かれた半透明の板が浮かんでいる。
---
ステータス
名前:ユウタ・タカシナ
スキル:
・弱点特効
・看破
・構造理解
---
……ちょっと地味じゃないか?
周囲からざわめきが漏れる。
「看破?……鑑定士の劣化ではないか」
「弱点特効?そもそも当てられねば意味はない」
「構造理解?大工を呼んだ覚えはないぞ!」
王は失望の色を隠さなかった。
「……今回の勇者はハズレか。召喚は失敗だ」
玉座に沈んだ低い声が広間に響き渡る。まるで判決を言い渡すかのような重さを帯びて。
神官たちは互いに顔を見合わせ、ため息を飲み込むように肩を落とした。兵士たちはあからさまに表情を曇らせ、鎧の隙間から漏れる視線が、俺を測るように突き刺さる。
やがて差し出されたのは、刃こぼれしたロングソードと、底が抜けかけた粗末な布袋。
兵士の一人が無言で押しつけてくる。
「せめてもの情けだ」とでも言いたげな態度。そこには憐れみも慈悲もなく、ただ「不要物を廃棄する手続き」のような乾いた仕草だけがあった。
王も神官も、それ以上の言葉を与えることはない。
俺の存在はすでに勇者ではなく、ただの「失敗」として処理されたのだ。
◆
背を押され、俺は城を後にする。
廊下を歩くたびに、すれ違う兵士や侍女の視線が刺さる。
期待と好奇、それが失望と嘲りに変わる瞬間を、俺は嫌というほど感じ取っていた。
──勇者。
召喚の光の中で、その言葉を耳にした時、少しだけ信じてしまった。
自分にも何か意味があるのかもしれない、と。
だが今、その全てが嘘のように剥がれ落ちていく。
扉を抜け、大階段を降りると群衆のざわめきに包まれた。
人々の視線が俺に注がれる。
「これが勇者?」
「いや、失敗だと……」
「ただの異国の男じゃないか」
失望と戸惑いが入り混じったその声が、耳に焼き付く。
俺は俯き、唇を噛んだ。
見返してやりたい気持ちと、どうせ無理だという諦めが胸の中でせめぎ合う。
──俺はただのハズレだ。
ステータスがそう示した。王も、兵士も、街の人間も、みんながそう言った。
それでも。
まだ一度も、この力を試したわけじゃない。
本当に外れかどうか、俺自身が確かめてすらいない。
足元の石畳がやけに重く感じた。
だが歩みを止めれば、群衆の視線に押し潰されそうになる。
ようやく城門が近づいた時、兵士が吐き捨てるように言った。
「ここから先は、お前一人だ」
ギィィ、と門が開き、外の風が頬を撫でた。
振り返れば、そこにあるのは群衆の視線と閉ざされる城門だけ。
胸の奥が空っぽになる。
だがその空虚さの奥で、わずかに燃えるものがあった。
──ハズレだろうと、役立たずだろうと構わない。
この世界が俺を拒むなら、俺は俺のやり方で生き延びてやる。
そう心に刻みながら、俺は異世界の大地へ足を踏み出した。
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