第十二話 「奪いたい」

ネモに告白された、数日後。


今はのんびり双子と街へ行き、

お姉さんとお兄さんに、

「魔女のお菓子」を届けに歩いていた。


と、言いつつ…双子はまた、ネモ警戒していた。


でも今日、ネモは忙しいような気がする。

それは、街の中はヒーローでいっぱいだった。

おそらく「イベント」の調査かな?

花は今も咲き続けて、街の中を色鮮やかにしている、が、店は閉まって街の人々はまた少なくなっていた。


だから、ヒーローがたくさん街の中を歩き回り、

走り回り、忙しそうにしていた。

その中に、街の奥にネモが他のヒーローと話をしながら調査しているのも見えた。


ネモって本当にヒーローなんだ……


服もいつもと違って、仕事服?なのかな?

王子様みたいな服を着てる…あれを着て、ヒーローとして街を守って戦ってんだなぁ、と思うと凄いと感じる。


そうだと思うと、

ネモの周りにはたくさんのヒーローがいる。


ネモってヒーローの中でも人気者なのかな?

って思うと、ネモはどこに居ても人が集まる、

猫の集会の偉い人みたいな感覚なのかな?

ネモって凄い人なんだっ……!!


と、思った時。


「ふふっ……」


奥にいるネモが笑った。

それを見た仲間のヒーローが驚く。


「カッツェン?」

「ふふふっ…ふふっ……すみません、大丈夫です。」

「突然笑うなよ、怖いな〜。」

「ねぇ、早く街の花を何とかしましょ!」

「そうですね、ふふっ……んふふふっ……」


ネモは嬉しそうに笑いながら仲間と一緒に更に街の奥へ行ってしまった。


それを見ていた双子も「早くお姉さんの所に行こ」と言って、手を引っ張ってきたので、ワタシはネモを横目に見ながら、その場から去った。


「ふふっ…マリアさんは可愛いなぁ……」


そんな声を聞く事もなく…………




お姉さんのお店に着くと、

双子はお店の裏口を教えてくれた。


昔はここからよく入っていたらしく、

裏口のインターホンを押すと、お姉さんが出てきた。


「あら、いらっしゃい〜!どうしたの?」

「こんにちは!えっと、これ……」

「お姉さんとお兄さんにおすそ分け!!」

「前に会った魔女から貰ったお菓子。」

「あらまぁ!こんなに!?


ありがとう、三人とも〜!ぎゅっ!」


お姉さんにギュッとハグされるワタシたち。

び、びっくりしたけど、お姉さんのも安心するなぁ……と思い、三人で「えへへ……」となっていると、部屋の奥からお兄さんが出てきた。


「お、三人来てくれたのか。」

「あ、お兄さん!」

「お兄さんだ。」

「あ、こんにちは!」


ワタシたちが、お菓子いっぱい袋に詰めてきたのを見たお兄さんは、とある提案をする。


「どうも〜。三人ともさ、せっかくだし部屋に上がってお茶でも飲みな。」

「そうね!それがいいわね〜。」

「え、いいんですか?」

「わーい!やったー!」

「わーい、嬉しい。」

「いいのいいの!せっかくだしね!」


わぁ…流石、お姉さんとお兄さんだ…!や、優しいっ!嬉しいなぁ……っ!


「あ、ありがとうございます!」


ワタシたちは嬉しく思いながら、

裏口から中に入った。


中に入ると、店のカウンターが見えたが、お姉さんは「上に上がってね〜」と言って、階段に指を指す。


双子は知っているのか「「はーい/は〜い」」と言いながらササッと階段を上っていくのを見て、ワタシもそれについて行った。


階段を上がると、部屋が何個かあり、双子は「こっち!」と言いながら奥の部屋へ行き、扉を開けると、広くて綺麗なリビングだった。


椅子が五個、大きなダイニングテーブルに、シンプルなライト、そして大きな窓があった。


窓は開いていて、心地よい風が流れていた。


双子はすぐに無邪気に椅子に座った。

本当に来た事あるんだろうなぁ、慣れすぎてる。


ワタシは慣れてないから「どうしよう……」と立っていると、扉がある後ろからお盆を持ったお兄さんが出てきた。


「お、座らないの?」

「えっと、ど、どこにっ……」

「あー、そこ、誕生日席っぽいとこ。」

「あ、はい!」


ワタシは急いで椅子に座った。


椅子に座ると、

お兄さんは、ワタシたち座ってる席の近くのテーブルにお茶を置いた。


お茶…は、普通の緑茶っぽい…美味しそう…っ!


と、思って双子を見ると、もう飲んでいた。

は、早いっ!と思い、ワタシも一緒に飲むと、

びっくりするぐらいお茶の深い緑を感じるような、


まるで一緒に、あったかい太陽の日差しの中を、


それを飲んだ瞬間に身体の中に全部感じるような、

優しくてあったかい、心地よい深い味がした。


こ、これは美味しいっ!どこのお店のお茶なんだろう…?


と、思っていると双子はもう飲み干して仲良く「「おかわり!」」と言っていた。


お兄さんは「はいはい〜」と言いながら湯呑を回収して、また部屋から出て行った。


ワ、ワタシはゆっくり味わって飲もう……。


そう思っていると、

入れ替わりでお姉さんが部屋に入ってきた。


「お茶、美味しかった?」

「うん!美味しいー!」

「うん、いつもの味だね。」


え、いつもの味?

って事は、双子はここに来る度に飲んでたのかな?

凄いな…え、知らなかった…


と、思っていると、お姉さんはクスッと笑う。


「あらま、双子はもう慣れちゃったのね〜。」

「「でも美味しい!」」

「ふふっ、マリアちゃんも美味しい?」

「あ、はい!美味しいので、ゆっくり飲みます。」

「あらっいいのよ〜、おかわりとか、たくさんしてってね!」


そう言われると、

お言葉に甘えて…おかわりしちゃおうかな……っ!


「あ、ありがとうございますっ!」


ワタシはお茶を飲んでる間、お兄さんの声が扉の外から聞こえた。


「おーい!楽!樂!ちょっと手伝ってくれー!」

「「はーい!/は〜い?」」


双子はすぐにお兄さんの声の元へ走って行った。


そして、お姉さんと二人っきりになった……っ


え、こんなしっかり二人っきりなのは初めてかも……き、緊張してきたかもっ……!!


「ふふっ、本当にマリアちゃんは分かりやすい子ね〜!ごめんなさいねっ!お兄さんに頼んじゃった!


私、マリアちゃんとお話したくて……」


あ、お姉さんも緊張してるのかな…?

なんかそういう風に見えるかも……。


「大丈夫ですっ!それで、話って……?」

「うーん、そうね……双子ちゃんについて聞きたい事ってある?」

「っっ!!!」


双子の事っ……!!!


「あのっ…えっとぉっ…楽と樂は、いつからここに……?」

「そうね〜、双子ちゃんが小さい頃だから…六歳ぐらいの頃にうちに来て…「お菓子がなくて困ってます」って言ってきて、おそらく、道に落ちてたボロボロのお菓子を持ってきてね〜、そこからかしらね。」

「そ、そうなんですね……っ!」


六歳って事は、かなり昔からお世話になってたんだ……だから、あんなに慣れてたんだなぁ。


ん?てかボロボロのお菓子って……っ?


「あ、その頃からお菓子って……」

「ふふっ、そうなのよ〜。次持ってきた時はカビが生えてたから…「あぁ、こういう子たち」なんだろうなぁって思ったら可愛く見えてねぇ〜!だから最初から気にしてなかったの。でも、最近はマリアちゃんのおかげで「食べれるお菓子」と交換できて楽しいわよ!ふふふっ。」

「あ、それは……あはは…っ」


それまでは「カビが生えてるお菓子」だったんだなぁ……なんか申し訳ない気持ちになるけど、お姉さんが気にしてないからいっかぁ……


「あ、あと……双子って今、何歳なんですか?」

「そうね……多分、二十三歳ぐらいじゃないかしら?まだ子供よ、二十三なんて!」

「な、なるほど…」


思ったより大人だった……かも。

ちょうど二十歳ぐらいなのかなぁ?と思ってたけど、でも、でもなぁ……子供っぽい所もあったし、二十三かぁ……私より年下なのも…っぽさを感じる。ワタシは……あれっ……?


ワタシって何歳なんだ…っ???


多分、二十何年なのかは覚えてる。

でも、それが何年なのか分からない……


ワタシって…………


「…マリアちゃん?」

「はっ!す、すみませんっ!」

「ふふっ、大丈夫よ!……マリアちゃんは、楽と樂の事、好き?」

「えっ?」

「あの時は「怖い」って言ってたけど…改めて聞こうかなぁって思って……どう?」

「……………………えっとぉ……


……好きです、ずっと一緒に居たいぐらい…。」


と、ワタシが言った瞬間、

お姉さんはワタシをギュッと抱きしめてくれた。

それに驚いて固まるワタシだったが、お姉さんは……嬉しほうに微笑んで、目を見て話をしてくれた。


「……ありがとう、マリアちゃん。」

「えっ、そっ、そのっ!」

「…あの双子ちゃんはね、何かを"背負ってる"の。」

「えっ……?」


……背負ってる?何を?


「出会った時に、その後に何年も一緒に居て気づいたのよ……あの双子、何かを背負って生きてるって。」


そんな事が……あるのっ??


「そ、そんな話っ…聞いた事ないですっ…けど……。」

「そうね、もしかしたら……マリアちゃんには話しづらい事なのかもしれない…なんて、私の直感では感じてる。


けど、双子ちゃんは……楽と樂は、マリアちゃんの事、本当に…………愛していると思う。


だから、今は…ううん、これからも楽と樂と一緒にいてあげて?」


お姉さんはワタシの頭を優しく撫でる。

その言葉に、ワタシは言葉が出なかった。


けど、これは…双子の「親目線」としての感情なのだと、感じた。


そっか…双子はワタシにまだ「隠し事」があるような気がしてはいた、が、やっぱり何かあるんだ…


それと同時に、

双子と一緒にいる事に意味があるのだと、

ワタシは感じた。


双子と一緒にいたら…何か分かるかな?


……それこそ、ワタシの生きている意味が。


なんだかんだ言って、ワタシに過去の記憶はない。

けど、覚えているのは狙われ続ける命だって事。

その度にいろんな人に裏切られてきた。


……親…かぁ。

ワタシに親っていたのかな…?

そう思うと、双子の親も居たのかすら知らない。


双子はどうやって生まれて、どうやって六歳まで生きてたのか……


謎は結局多いけど、双子はやっぱりここでお世話になっているのを確認できて、今後も通おうと思った。


お姉さんとお兄さん……優しいなぁ。


だから…だろうなぁ。

ワタシが突然一緒に来たから、

すっごく、びっくりしたんだろうなぁ。


でも、その分……ワタシも娘のように思ってくれてるのは嬉しかったなぁ。


シスターだった頃、お世話になってたエリカ様もそう思ってくれてる、と思ってたけど…違ったんだよね。


なんだか悲しいようで……でも、今は幸せだなぁ。


「ありがとうございます、お姉さん。」

「いいえ〜、気にしないで!こちらこそありがとう、ごめんね?突然二人っきりになっちゃって〜。」

「いえ!大丈夫ですっ!」

「あとは聞きたい事、まだある?」


と言った時、窓から花びらが落ちてくる。

次はナナカマドの花びらが落ちてきた。


ナナカマド…また本で見た花だ。

赤い実が特徴なのに、今は白い花になってる……

……と、思っていると、お姉さんが気づく。


「っ…ちょっと待ってね?」

「あっ、はいっ!」

「…………お兄さんと双子ちゃん呼んだ方がいいかも…マリアちゃん!ごめん、席外すわね!」

「あっ、はっ、はいっ!」


お姉さんは窓を閉めて、双子を呼びに行った。


どうしたんだろう?と思って、

窓を覗くと……人影が見えたような気がした。


えっ、ここ二階なのにっ!?と思っていると……


外から誰かの声が聞こえた。

ワタシは慌てて窓から更に覗くと、

苦しんでいる人が見えた。


あれっ、誰だ?……んっ?


(けて……)


なんか、声が聞こえるような気がする。

でも、ここは二階だし、お姉さんたちは下にいるから聞こえないはず…………でも、聞こえた。


(苦しいっ…!!!)


これは……


(マリア……さんっ……!)


ネモの声、だ……っ!!!!!


「お兄さん〜!楽!樂!外に「ヒーロー」が苦しんでて……って、マリアちゃんっ!?」

「え!?ヒーロー!?」

「もしかしてっ…!?」


ワタシは急いで下に降りて、

玄関に行って、靴も履かずに外へ走った。


双子も急いでワタシに着いてくる、と……


……外に出ると、驚いた。

ネモの周りに、たくさんの花と木が咲いていた。


彩どりの、鮮やかな花たちは、

まるでネモの生命を奪うように咲いていた。


しかし、逆にネモの…声が聞こえてくる……

……それが、ワタシにだけ…。


(はぁ…はぁ…こんな気持ち、持ってはいけないのに……)


(僕はマリアさんをどうしたいんだっ…)


(そうだ、この花(イベント)も僕のせいだ。)


(そして、この自分自身の魔法のせいで……)


(ダメだ……苦しいっ…僕はただ…………


…………マリアさんの事が好きなだけなのに…っ)


「……ネモ?」

「っっっっ!!!!!」


ネモの表情は暗く、顔色も悪く、

そして、ワタシの事をしっかり光の無い目で見ていた。


「マリ…ア……さんっ……!」

「これ、どういう事っ…………」


と、話そうとした時、ネモの仲間のヒーローがネモに対して武器を構えた。


「この花…っ!ネモから出てるだろっ!?」

「おい!もしかして、このイベントって、お前の仕業じゃっ!!」

「カッツェン!どういう事よ!?」


まるで「ネモが犯人」だと言うように責め立てる仲間たち。


でも、ワタシも否定はできなかった。

それは、ネモから聞こえた声だ。


「自分のせい」だと言っていた。


本当にそれがそうなら…………


(僕はまた、人に迷惑をかけてしまうんだ……っ)


…………ワタシに出来る事はないだろうか?


「……ネモっ!」

「待って!マリアちゃん!」

「待って、マリア!」


「……マリアさ……ん……?」


まるで色鮮やかなカビが生えたお菓子のような、

絶望を感じているネモに、ワタシはすぐに駆け寄り、ギュッとネモの手を握った。


「…ワタシに出来る事っ…ないですかっ……?」

「…………マリア………………さん……にっ?」

「はい!ワタシに!」

「…………たい…」


「…ネモ?ネっ…………っ!?」


ネモはワタシを捕まえたように、

握っていた手を引っ張り、

自身に寄せて、ギュッとワタシを抱きしめる。


ネモの顔を見た時、

ワタシは完全に「感情の隙間」が見えて、動けなくなる。


「マリアさんのっ、全部をっ……


……奪いたいっ…何もかも全て…………っ!」


ネモがそう言った瞬間、

街中に全部、花が咲き始めた。


壁にも柱にも家にも地面にも、何もかも全て、

全部に花と木が咲き、そして全てを覆い尽くす。


花は虹よりも色鮮やかな美しい色で、

空さえも花のように輝く。


その輝きは、世界さえも覆い尽くす。


……まるで「宝石のようなお花畑」だ。


こんな光景、見た事がない…っ!

今までの「イベント」は時間が固定されたり、

天気が変わったり……ぐらいで、

こんなに美しくて綺麗な「イベント」は初めてだ。


けど……っ


「やっぱり、カッツェン…お前が「悪戯者」だったなんてっ!!!」

「なんでこんな事をっ!」

「早く、止めっ…………」


その時、ヒーローたちは全員、

地面から生えた花に埋もれた……


……いや、あるいは…花に食べられた。


花はヒーローたちの声を塞ぐように、花が咲く。


それを見て、ネモは大きな口で笑う。


「アハッ、アハハハッ!!!ほらっ!どうせ、皆は僕の事を知らないんだ!見てないんだ!!


…僕の事を見てくれたのは、貴女だけ…「マリア」さんっ…だけだ……っ!!!!」


そう言うと、双子の方にも花が近づく、が……


「「っ…マリアちゃんを/マリアを返せっ!!!!」」


……双子は血のような真っ赤なチェーンソーで花を切っていく、そしてワタシを助ける為に近づく、が、その度に花が咲いて、双子の行く手を塞ぐ。


ワタシはネモから離れようとした時、

ネモと目が合った。


そして、聞こえた。

それは、ネモの本当の声。


「マリアさんは、僕から離れたりしませんよね?」


心の中の声ではない、心の外からの声。


ワタシはその言葉と同時に……

……ネモの「感情の隙間」が見えていた。


それは…………


…………「愛」だ。


ネモには、愛がない。

ネモは、喜怒哀楽はしっかりしてる。

人としての感情はしっかりしてるのに。


ネモからは愛を感じない、むしろ、これは……っ


ネモの全ての感情だ。

喜怒哀楽も含めて、人としての感情も含めて、

これは、全ての感情が「愛」となって、溢れ出てる……っ!!


だから「花」が咲くんだ……

この「花」は…ネモの「感情」なんだ。


って事はっ……


「ネ、ネモっ…あのっ……」

「マリアさん、僕……マリアさんと一緒にいたいです、これからもずっと、ずっとずっと……ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとっ…一緒にいて、幸せになって、愛を感じて、一つになりたい……


全部マリアさんの愛も感情も心も身体も欲しい、マリアさんの愛おしいその姿を、初めて見た時からずっと変わらない、その心の声も、花から伝えてくれたその声も、全部美しかった、綺麗だった、宝石のようだった……


僕みたいな汚くてカッコ悪い、穢らわしい僕なんかとは違う、僕は美しくも綺麗でもない、僕は偽物の存在、本物の美しいマリアさんを見て、僕は全てが変わったんだ……


だから、だから…だからっ、マリアさんは僕と幸せになるべきなんだ、僕がたとえ……女だとしても。」

「おんっ……なっ?」


えっ?ネモって女?

待って、頭の整理が追いつかないっ!

待って、てか、このままじゃ、ワタシっ……!!


「「マリアちゃんっ!/マリアっ!」」

「……うるさい雑草だ。」


ネモが花を咲かせて、双子の足元を狙うように蔓が生えて、双子を食べるように大きな花が咲く。


しかし、双子はそれを切って、

ワタシにあと一歩、届きそうな瞬間……


「っ!ぎぃっ!!!」

「っ!楽兄さっ…うぐぅっ…!」


「っ!楽!樂!」

「どうして…………」


双子の背後に大きな蔓が生えて、双子を捕まえた。

双子は強い力の蔓に、チェーンソーも地面に落ちて何も出来ないでいた。


双子が苦しんでる……っ!


「お願いっ!もうやめてっ、ネっ……」

「どうして、マリアさんはあの二人が好きなんですか……っ!?」

「ネ、ネモっ……!」

「僕はこんなに……マリアさんの事、好きなのに、愛しているのに、僕はマリアさんの全てになりたいと思って、あの日から、全部が宝石のように輝いて見えてた、全部が醜く見えてたモノが全て綺麗だって、思えた日から、僕は何もかもやってきた事が全部、必要ないって、全部、このたった一度の人生をマリアさんに捧げるって決めてっ!!!僕はっ……」


その瞬間、ミシッ…メリッ…と、

双子を苦しめている蔦の力が更に強くなった。


「マリアっ……ちゃんっ!」

「逃げっ…てっ……!!」

「っ……お願い、ネモ、双子も仲間さんも悪くないから、こんな事、止めよう?ねっ、ネモ……お願っ……」

「じゃ、マリアさんの全部…奪っていいんですよね?」

「っ!!」

「ぼ、僕っ…ひっ…皆、全部、あれもこれも嫌いなんですっ…ぐっ…好きでヒーローなんてやってないっ、はぁっ…好きでこんな事してないっ、でもっ、うぅっ…僕はっ……こうするしかっ、うっ…そうするしかなかったんですっ……!!!」

「っっっ!!!!」


……そうするしかなかった。

あの時、ヒペリも…そう思ってたのかな。


ヒペリも、

そう思ってたのに、

ああなってしまったのかな?


もしかして、ネモも……?


……ごめんなさい。


「っ…ネモっ…ワタシは、好きだよ。」

「……何がですかっ?」

「…でも、これは良くない。」

「……マリア…さん?」


……これは、ネモの為だ。

ワタシに出来る事を、やるんだ……っ!!


「ワタシのお願い、聞いてほしい。」

「…………なんのお願いですか?マリアさんなら……全部叶えます。」


「……ワタシはネモとずっと、一緒にいる……っ!


だからっ……皆を、楽と樂、仲間のヒーローさんたちも、この街もっ…全部、解放してっ!!」


ワタシがそう言うと、

ネモの近くにアネモネが咲く。


綺麗な…青色のアネモネだ。


「っ!!マリアちゃんっ……!!」

「マリアっ…それはダメ……っ!!」


双子はワタシの元へ行こうとするが、

大きな蔓は双子を動かさない。


「お願い、ネモっ……!」


「…………分かりました。」


そう言うと、世界中に一瞬で花が無くなった。

と、言うより、花が……枯れていった。


全ての花……そして、全ての植物が枯れていく。


元々あった花も、木も、草も、

全部の植物が枯れていくのを見たワタシは、驚く。


それと同時に、双子はワタシの元へ走って、

ネモの首に手をかけようとした……が。


「待ってっ!楽っ!樂っ!」

「っ!マリアちゃんっ!?」

「なんでっ……!?」

「ワタシ…っ!ネモを……

……ヒペリと同じ運命にしたくないっ…!!」


その時、ネモはワタシを抱き抱えた。

あぁ、時間が迫っている。


「「っっっ!!!!」」


だからこそ……

今は信じている双子を、信じるんだ…っ!


「だから…………楽、樂…信じてる。」


「この世界は…ネモも、誰も、何も悪くない。」


「…二人が…………」


「ワタシも…本当のネモの事も……楽と樂が、迎えに来てくれるって事を。」


そして…

ネモはワタシを抱き抱えて、その場を去った。


双子はワタシに手を差し伸べるが、届かない。


「「っ!!マリアちゃんっ!/マリアっ!」」


取り残されたのは、

助けれなかった双子と、ボロボロのヒーローたち。


それを遠目から見ていた「警察」たち。


そうして、

ワタシはネモの家に監禁される事になった。


これから、数日?数週間?数ヶ月?

……分からない、けど。


「……マリアさん…♡」


ワタシは、ネモと向き合う。

ネモがどんな人だったのか?

ネモのどんな人生だったのか?


ネモはどうして、

ワタシの事をそう思っているのか?


なんだか、

ワタシは全てを知らなきゃいけないと思った。


それは、ワタシの過去を知れるような気がして。

それは、ワタシの人生を知れるような気がして。

それは、ワタシの記憶が知れるような気がしたから。


ねぇ、ネモ。

ねぇ、楽、樂。


「うん、何?ネモ?」


ワタシは、もう逃げないよ。

ワタシは、自分で決めて、自分で選ぶ。


だから、信じてる、待ってるよ。


ネモが本当の事を話してくれる日を。

楽と樂が、ワタシの過去も、本当のネモも一緒に受け入れて、全てが理解されるような世界も。


「…マリアさん、僕っ……」


ネモの力が徐々に弱っている……

……多分、魔法の使いすぎだ。


「大丈夫だよ、ネモ。とりあえず…お水飲もっか?」

「は、はいっ……」


ネモの「魔法」も、「イベント」も、「感情」も、

ワタシが全部を何とかできる訳じゃない。


けど、出来る事はあるはず。


だから、だからっ……


「マリアさんっ……」

「ネモ?」


ネモはワタシを優しく、けど強く抱きしめる。

確かに、ネモから胸の感触は感じる。


本当に女なんだ……


と、思っていると、

ネモはワタシの唇にチュッとキスをする。


「僕、マリアさんとずっと…ずっとずっとずっと……一緒に居たいです。」


「だから、マリアさん……っ」


「僕から、絶対に離れないでくださいね?♡」


……光の無い目だ。

この目、どこかで見た。


うん……楽と樂と、最初に出会った時の目だ。


ワタシは、今、向き合う時だ。


「うん、離れないよ、ネモ。」


この言葉と共に。



十三話へ続く。

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