第十一話 「ライバル」

ネモに会って数日後、今は夜だ。


双子は先に寝ていて、

ワタシはひっそりと月明かりの中、本を読んでいた。窓は開いていて、窓から流れる風が心地よい。


スピー…スピー…と両隣で聞こえる中、

家近くの森から聞こえる虫や動物の鳴き声、

深い風の音、月の静かな光、双子の安心する体温、

それが心地よくて、本の読む手をやめられない。


明日は...特に予定はないが、

双子は大道芸をしに街に行くらしい。

ワタシは着いて行ってもいいらしいが...


双子の楽(らく)と樂(がく)は、

「「大道芸中はマリアちゃん/マリアを守れないし助けれないからなぁ…」」と言って、悩んでいた。


別にそこまでしなくても...と、思うが双子はどうにかしてワタシを…「ネモ」から守りたいらしい。


ネモ、という人はワタシが出会った「ヒーロー」で、心優しく清やかな人柄に見えた…が、双子からは「そういう風に見えない」らしい。


だから、

双子はネモに、かなりの警戒心が強く持っていて、

お出かけする際は必ず双子が一緒にいるようになった。


ネモってそんな悪い人に見えないけど…


…双子からは何が見えるのだろう?


ふと、そんな事を思う。

ワタシは「人の感情の隙間」が見える、が…

双子は「別のモノ」が見えてそう、なんて思った。


でも、私からは双子の「隙間」は見えない。

逆に、双子からはワタシの「何かが」見えるのだろうか…??


なんて事を考えてたら、もう時刻は夜中の二時…やばい、本を読みすぎたし、ボーーーっと考えすぎた。


流石に寝るかぁ…と思い、

本を枕元に置いて、布団の中に入る。


うん…布団の中、双子の体温であったかい。

すぐにワタシは眠くなり、ふわっと安心するようにあくびをして、眠ろうとした時…窓に誰かいるのが見えたような気がした。


「…………マリア……さ……」


誰だろう、こんな時間に…っ?


ワタシは目を開けようとしたが、

眠過ぎてウトウトした目は開かなかった。


けど…その人は部屋の中に入ってくるような足音が聞こえた。でもその足音は静かで、まるで猫みたいなトントンとした足音だった。


その人は、ワタシの頬に手を添えて、ふふっ…と、微笑むような笑い声が聞こえたと思えば、おでこにキスをされた。


「おやすみなさい」


その人がそう言うと、すぐに窓から出て行った。

誰だろう…?でも、聞いた事のある声…


もしかして…………


と、思ったが、

眠気が先に来てしまい、ワタシは寝てしまった。




朝起きると、

双子は先に起きて大道芸の支度をしていた。


ワタシも朝起きて、顔を洗いに行こうと思った時、双子はバタバタと急いで玄関へ向かって行った。


「え、もう行くの?」

「うん!今日は朝から夜までやるからっ…あっ!マリアちゃんは家から出ちゃダメだよー!?」

「え、今日はワタシ、外に出ちゃダメなの?」


しかも朝から夜まで!?

そんなに時間潰せるかな...?


と、思っていると、樂が、ふと思ったのか、話しかけてきた。


「でもまぁ…流石に一日、家に一人は暇だろうし、


見に来るだけなら一人でもいいんじゃない?」

「あー、それはそっか!」


おお、大道芸を見に行く…!

それは楽しそうかも、行ってみようかなぁ…!


「うん、じゃ後でまた会おっか。」

「わーい!分かった!じゃマリアちゃん!またねー!」

「マリア?気をつけて来るんだよ?」

「はーい。」


そうして、双子は家から出て、

この家近くの街「スイートタウン」に向かった。


ワタシ…も、支度が終わったら行こうかな。

あとは行きつけのチョコレート屋さんのお姉さんのお店と、大好きな図書館ぐらいなら行っても良いって、双子から言われてるし…あ、そういえば近くにベンチとかもあったよね。あったかい太陽の下で本を読む…ありかも。


今日はそういう感じで時間を潰そう。


そう思い、お店での交換用のお菓子と、本を数冊入れて、服も着替えて、靴を履き、外に出た。


外に出ると、あったかい太陽が心地よかった。


風も深くビュー、と、通っていて、髪の毛や服の隙間を抜けていく感じが涼しくて良かった。


この世界は「季節」という概念はない。

本で見た限り、街によって「季節」が存在している、というのは見た。けど、この世界での「季節」は存在してなく、私の住んでた街の「スイートタウン」にも季節は存在しない。


だから、木とか花は季節を感じる事なく、普通の花で、街によっては「チューリップ」「薔薇」「向日葵」「桜」「椿」「紅葉」など、色々あるのは知っていた。

でも、どれも本で見たものであり、実際に見た事はない。


スイートタウンに咲いているのは名前のない白い花ばかりで、美しい色はなかった。


木も緑のままで色は変わらず、

枯れる事もなかった。


街の人はそれが当たり前だし、気にしてなかったのだ。だから...だから、だろう……


……街に来ると、カラフルな花が咲いていたのだ。


驚いたワタシは街の中に入ると、

街の人も驚き、人々はこう言っていた。


「これって次のイベントじゃない!?」

「隣街でも咲いてるらしいからな…」

「もしかして、ヒーローの出番じゃない!?」


と、騒いでいた。

そっか、これ「イベント」なのか………って、えっ!!!???


「イベント」なの!?これ!?


つまり…誰かがまた「イベント」を起こした、という事だ。


花かぁ…花が咲くイベントなんて初めてだ。

前は夜しか来ないイベントだったが、

今回は花が沢山咲く…え、普通にいいのでは?


夜しか来ないのに比べたら、

花がいっぱい咲くのは良い気がするが……


……と、思っていると、行きつけのお店のチョコレート屋さんのお姉さんが店から出てきたのが見えた。


ワタシは話しかけようと思い、駆け寄ると、お姉さんはワタシに気づき、話しかけようとした時……


「へっくしょんっ!」


と、くしゃみをした。

ワタシは、それに驚き、動きが止まる。

それを見たお姉さんは、申し訳なさそうな顔をする。


「ごめんね、マリアちゃん〜…実は、この街に花が咲きすぎて...くしゃみが止まらないの!あと、しばらくまた、お店できないかも…」

「えっ!?どうして、ですか!?」

「実は…………」


と、お姉さんが言うには、

育てている畑に花が咲きすぎて、栄養が持ってかれて、材料の植物が育たないらしく、逆に太陽も出てて、花が咲くわ、植物も咲くわ、木も生えてくるわで大変らしい…


あ、だからか……っ!?


「確かに、他のお店も閉まってますね。」

「でしょ〜?ほんと、綺麗なんだけど困ったのよぉ〜。」


お姉さんのお店には「閉店」と書いてあり、

今さっき店を閉じたらしい。


そ、そんな事が起きてしまうなんて…


このイベントは厄介なのだと察した。

だって、確かに困るよね…それだと、お店が出来ないのも納得だ。


と、思っていると…


「マリアさん?」

「っ!ネ、ネモっ!?」

「こんな所に…どうかしました?」


いつの間にか、背後にネモに立たれていた。

び、びっくりしたぁっ……!!


と、お姉さんはすぐにネモの正体に気づく。


「あら、貴方?この街の「ヒーロー」じゃない!


イベントをほっといてマリアちゃんに話しかけて…どうしたの?」


え、お姉さん、少し顔が怖いような気がする。

…と、思っていると、ネモの顔も怖くなった。


「ふふっ、すみません。


僕、マリアさんと仲がいいので、話しかけちゃいました。」


お互いにニコニコとしているが、

なんか雰囲気が怖いのだが…っ!?


ワタシはあえて何も発言はしなかった。


なんか、しない方がいいかなぁ…と思って。


そうすると、ネモはワタシの方を見て、手を繋ぐ。


「マリアさんっ!」

「は、はいっ!」

「良かったら、また…僕とデートしてくれますか?」


えっ!?今、デートって言った!?


「デ、デっ…!?」


と、ワタシが驚くとネモは申し訳なさそうな顔をする。


「すみません、マリアさんに会えたのが嬉しくて…つい、誘ってしまいました。嫌でしたか?」

「あ、いえっ!そういう訳じゃないんですがっ…」

「ふーん??マリアちゃん??」


お姉さんの圧が強いっ!!!

恐らく、双子が心配するから止めておけ、という事だろう...しょうがない、ここは断らねばっ!


「すみません、今日は知り合いの大道芸も見たいので……」

「…双子さんの事ですか?」

「えっ?」

「ふふっ、なら僕も見ていいですか?


その"双子"さんを。」

「あ、え、えっとぉ…」


ワタシはお姉さんに助けを求める……が。


「うーん、マリアちゃん…ここは断るのは無理かもね?」

「えっ!そんなっ!?」

「も、もしかして、嫌でしたっ?」

「あ、いえ!そんなつもりはなくてっ…!」

「すみません...僕はただ、マリアさんと一緒に居たいだけなんですが...ダメでしょうか?」


その時、ネモの表情はどこか優しく悲しげで寂しそうだった。


うぅっ…しょうがない……よねっ!


「じゃあ…ほんの少しだけ……。」


自分自身の声が、思ったよりも小さく震えていたのに気づいて、ワタシは内心焦る。


やばい、流石に申し訳ない事しちゃったかな...?


と、思った時、それでもネモは微笑んで、

ワタシの手をぎゅっと握ってきた。


「ありがとうございます、マリアさん。


では、行きましょうか?」


そう言って、ネモはまた、

あの優しい瞳でワタシを見つめた。


まるで「王子様」のような優しい瞳だ。


でもその奥に、

ほんの僅かに氷のように冷たい、

何かが揺れている気がした。


「えっと…どこに行くんでしたっけ?」

「ふふっ、双子さんの大道芸、見に行きましょう?」


握った手を離さないようにぎゅっと握り、

歩幅も合わせて一緒に双子の大道芸の元へ一緒に歩き始めた。


それを見ていた、お姉さんがぽそっと囁いた。


「気をつけてね、マリアちゃん。

ああいう優しすぎる人って…


…時々、一番怖いから。」


振り返ったワタシは、ただ小さく頷いて、

ネモと一緒に大道芸をしている双子の元へ歩いた。




「……楽兄さん、次。」

「はぁ……はぁ……えいっ!はーいっ!」


大道芸をしている双子の元へ行くと、

とんでもない数の人たちが集まっていた。

こ、これ……見れるかな??


思ったより人が多くてびっくりしたワタシは、

声をかけれる距離でもなく、むしろ声をかけたら邪魔になるだろう、と思ったぐらい、双子の周りには人が、かなり賑わっていた。


て、てかっ……大人もかなり見てる…

ワ、ワタシの身長じゃよく見れないなぁ…


どうしよう……と、ワタシが思っていると、ネモはそれに気づき、ワタシを…………


「きゃっ!?」

「ふふっ、これなら見えますか?」


ネ、ネモがお姫様抱っこしてくれたっっ!?

でも、視線はネモと同じ高さ……これなら見える!


「あ、ありがとうっ!ネモ!」

「いいえ、お姫様を喜ばせるのは、王子様の役目ですから。」

「あっ、は、はいっ…!」

「ふふっ……」


ネ、ネモ嬉しそう……ならいいかぁ…。


と、思い双子を見てると……やっぱり凄い。

樂は器用になんでもこなし、なんでもしていた。

楽は不器用ながらも、努力を重ねながらやっていた。


無茶のあるような大人のリクエストにも、

なんでも答えて、全部、

余裕のある感じで普通にやっていた。


それに対して楽は子供のリクエストに答えて、

頑張って息切れしながらも、

子供たちと共に楽しそうだった。


どちらも大人や子供に大人気で、

カバンの中にお金を入れるらしいが、今はまだ朝……それなのにもう、お金はカバンいっぱいになっていた。


こうやってお金を稼ぐのは凄いなぁ、と感動する。

生活費や樂の使いたいようなお金は、ああやって稼いでいるのだと理解した。


それにしても……大人や子供は楽しそうだ。

お菓子を食べながら、楽しい大道芸を見る。

それは、娯楽的には完璧すぎる事だった。


凄いなぁ……楽と樂は。

ワタシはボーッと、楽と樂を見ていると、

ネモも見ていて、何かを感じたのか、微笑む。


「面白いですね、双子さんの大道芸。」

「ですね!ワタシも見ていて…嬉しくなります。」

「マリアさんは嬉しいんですか?」

「はい!嬉しいです!なんか…誇らしげになれますね……なんて、ワタシは何もしてないのに…………。」

「…………なるほど。」


ワタシがそう言うと、ネモは双子の事を見る。

そこでワタシは、ネモの感情の隙間がハッキリまた見えた。


あれ、意識してなくても見えるなんて珍しい…………と思ってネモを見た時、ビックリしてしまった。


「…………」

「……ネ、ネモっ?」


ネモ…凄くあの隙間が大きい……。

どうしたのだろう?ワタシ、何かしたかな??


「ネモ?」と声をかけても反応がなく、

ただひたすら双子を見ているネモを見て、

(反応がないし、これはしょうがないか…)

と、思い…ワタシも双子を見る事にした。


「……楽と樂…凄いや。」


やっぱり…

楽と樂は仲良く生きてたんだなぁ、と感じる。


この双子はワタシと出会う前は何してたのかな?

多分、お姉さんの所でお世話になってたと思うけど……そもそも人間か怪物かすら分からないから何とも言えないけど…


…ワタシと出会う前、

ワタシ以外に好きな人はいたのかな?


それはそれで、少しモヤッとしちゃうけど…なんて、思うのも、ワタシは双子の事が好きなのだと思った。


うん、好きだなぁ……


「楽…樂……」


……楽と樂も、ワタシの事…


「僕もマリアさんの事、好きですよ。」

「えっ?」

「……そういう顔をしていたので、すみません。」

「えっあっ、してました!?」

「ふふっ、本当に分かりやすいですね……マリアさんは。」


えええぇぇぇっ!?そんなっ……恥ずかしいっ!!


ワタシは顔を隠そうとすると、

ネモはその隠そうとした手の隙間に顔を入れてきた。


そして、ネモとの距離がかなり近い。


あっ、確かにネモって顔がイケメンかもしれない。

なんて思っているのも、つかの間、ネモは……


「んっ!?」

「んっ……ふふっ、これで、宣戦布告ですね?


…双子さん。」

「えっ!?」


えっ、今ワタシ……ネモに唇にキスされっ……!?


ネモがそう言うと、前から殺気を感じた。

双子はワタシの方をしっっっっかり見ていた。


双子の大道芸を見ていた観客がビックリして怯えるぐらい、双子はワタシの事を……


「「マリアちゃん/マリアから離れろ。」」


光の無い目で見ていた。


しかし、ネモは怯まず双子に微笑む。


「すみませんが、マリアさんは貴方たちのモノなんですか?」

「マリアちゃんはオレたちの事が好きなの!」

「マリアはボクたちと一緒にいる。」


「「キミ/オマエはいらない」」


双子はかなりの強い殺意をネモに向けている。

が、ネモは関係なしに話を続ける。


「そうですか、それは残念ですが……僕もマリアさんの事、好きなんですよ。」

「……なら、その宣戦布告、受け取った。」

「……絶対にマリアは、ボクたちのモノだから。」

「そうですか、では……僕はこのままマリアさんとデートしますね?」

「「はぁっ!?」」


怒った双子はネモを睨むが効果なし。

そして、双子はワタシの事を見る。


「「マリアちゃんっ!/マリアっ!」」

「楽…樂……っ」


なんだか、双子の元へ行きたくなった……


ワタシは双子の元へ降りて行こうとした……

が、ワタシを掴むネモの力が強くなった。


「……マリアさん、僕と一緒に来てくれませんか?」

「えっ?」

「…僕なら……マリアさんを幸せに出来ます。」


と、突然……ネモは何を言い出すんだっ!?


「な、何を言ってっ……!?」

「もし、一緒に来てくれるなら…………


…………その時は、僕は貴方をお迎えに行きます。」

「なっ、えっ、えっと……」


「マリアさん…」


「僕は、貴方を守りたい、助けたい、幸せにしたいんです。」


「だから、

あの双子から離れて、この世界から離れて……


……僕と一緒に居てくれませんか?」

「……ネモっ…?」


ネモの表情……どこか寂しそうだ。

このネモを一人にしていいのかな?

でも、ワタシには双子もいてくれてる…今は双子と一緒にいたい、が…。


「……ネモ…」

「…………すみません、マリアさん…こんな事を言ってしまって。」

「えっ、いやっ、そのっ……」

「でも、お返事、待ってます。」

「えっ?」

「もし、マリアさんが……「僕と一緒にいたい」と願ってくれるなら、どこでも駆けつけます。


そして、お迎えに行きます。」


そう言うと、ネモは双子の元へ歩き、

ワタシを降ろし、その場を去ろうとしていた。


ネモの「感情の隙間」がっ……!!


「ネ、ネモっ!」

「…………」

「ワ、ワタシっ……そのっ………」

「マリアちゃん?」

「マリア?」

「っ……ごめん、なさいっ…ワタシは、双子と一緒に居たいです……っ!」


そう、ワタシが言うと……

ネモは何も言わず去って行った。


そうすると、

双子はワタシをぎゅっと抱きしめて……


「マリアちゃんっ……よかった…っ!!」

「戻ってきてくれて……ほんとに、よかった……っ」


双子の声が震えていた。

いつもの強気な瞳が、今は濡れて揺れている。


「ごめんね、怖い想いさせて……


でも、ワタシ……ネモを放っておけなかった……」


ワタシがそう言うと、

樂が少しだけ怒った顔で言った。


「それでも、行ったら……ボク、本気で泣いてた。」

「オレなんて、泣いた後、アイツのとこ行って殴るか迷ってたもん。」

「ふふっ、もう…そんなの困るよ……」


涙と笑いが混じるように、ワタシは微笑んだ。

やっぱり、双子の傍にいると安心する……。


「でもね、二人がそこまでしてくれるなら……

やっぱりワタシ、二人と一緒にいるって、ちゃんと選べる気がする。」


そう、ワタシが言うと、双子は……楽と樂は、さらに強く抱きしめる。


「「マリアちゃん/マリアは絶対に離さない」」


「「どんな時も、永遠に愛してる。」」


「「ずっと、オレたち/ボクたちが守るからね。」」


……その言葉が、心に深く染みた。

その分、凄く心から安心した。


ワタシは抱きしめてくれた双子の体温を感じる。

双子の甘い匂いも……今はとろけてしまうぐらい、一緒の匂いになっていると思う。


…………このまま…双子と永遠にずっと一緒に居たい。


なんて、この願いはダメだろうか?

なんだか、そう感じてしまう。


双子と一緒に居られる時間が愛おしく感じる。

双子も同じように感じてくれてると信じてる。


双子はワタシの事…好きなのだろうか?


……聞いてみよう。


「あのさ、楽?樂?」

「なぁに?マリアちゃん?」

「何?マリア?」

「……楽と樂は…………ワタシの事、好き?」

「「えっ?」」

「ご、ごめんっ…そう思っちゃって…」

「「…………愛してるって言ったよね?」」

「あっ…」


待ってっ、そうなるとワタシってそれに気づかないでっ…………


「「マリアちゃん?/マリア?」」

「あっ、その、すみませっ……」

「これは、マリアちゃんにもーーーっと、愛を教えないといけないかなぁ?」

「今日の大道芸はもう終わり、次はマリアに…愛っていう芸を見せてあげるよ。」

「ま、待ってっ……!?二人ともっ……」


双子はせっせとカバンの支度をして、

樂が私をお姫様抱っこし、

楽は観客に挨拶をして、

ワタシを家まで連れ去った。


そして、家に帰るとすぐに荷物を降ろし、

ワタシをベッドの上に優しく置くと、

双子は覆い被さるように上に乗っかってきた。


「あっ、あのっ……楽っ、樂っ、そのっ……」

「マリアちゃん、どうしたらオレたちが好きだって気づくかなぁ?」

「本当にすみませっ……」

「やっぱり……マリアを食べるしかないかな?」

「あ、やっぱり?そうなるよね!」


食べるっ……ま、まさかっ!!??


「ま、待って!それはしない!しない方法で教えて!」

「えー?だって、それじゃマリアちゃん、分からないでしょ?」

「だから、マリアに…ちゃーんと教えてあげなきゃじゃん。」

「本当にっ……待ってほしいっっ!!」


「「ねぇ、マリアちゃん?/マリア?」」

「は、はいぃっ……!」


止めようにもこれはワタシが悪い。

でも、どうしたら、止めれるだろうか……ってっ!


「二人ともっ!?んっ…!どこ触ってっ……!?」

「悪い子のマリアちゃんに分からせなきゃなーって!」

「まずは身体から、だよね?」


双子はワタシの身体を隅々まで、

いやらしい手で撫でるように触る。

それがくすぐったくってムズムズする……


……けど、ワタシには言い訳がある。


「ほ、ほんとっ…ワタシが悪いのは確かなの!でもっ、これとそれとは違くてっ……!!」


そうすると、双子の手が止まった。


「じゃ、なぁに?」

「何が違うの?」


「……そのっ…ワタシ、しっかり愛された事ないから…………分からないの。


だから、本当に愛されてるか、好きでいてくれてるか……なんて、分からなくて……だから、確認しちゃった、それだけであって……そのっ…………本当は……………………


………………双子に甘えたい…です……」


と、ワタシが言うと、双子は驚いた顔をする、

が、すぐに嬉しそうな顔をして、ワタシを抱きしめて、そのまま三人で寝転がる。


「なーんだ、そんな事?」

「じゃ、いっぱい甘やかしちゃお〜。」


双子はワタシの事をぎゅっっっと抱きしめて、話さない。


でも……これがいい。


けど、どうやって甘えたらいいのだろうか……?


「えっと、そのっ……」

「マリアちゃんは何したい?オレたちと。」

「マリアはどんな風に甘えたいの?ボクたちと。」


何したい?どんな風に?と言われると……悩む。


どうしよう…と思っていると、ワタシはふと思いつく。


「……そのっ…」

「んー?なぁになぁに?」

「何?マリア?」

「……キ、キっ……キスしてほしい……かも。」


と、ワタシは発言内容に恥ずかしくなり、布団の中に入って、こもろうとすると、すぐに布団は剥がされ、双子に押し倒された。


「それって、していいって事?」

「えっ?」

「キスの先もいいんだよね?」

「いや、それは違うっ!」


それとこれとは違う!とワタシが言うと、

双子は少し残念そうな顔をした。


「……じゃ、キスだけなの?」

「う、うん。」

「……本当にキスだけなの?」

「う、うん。」

「「…………じゃ…」」


そう言うと、楽と樂は顔を合わせた。


「で、どっちが先?」

「マリアちゃんはどっちから先がいい?」

「え、どっちでも……」

「……ジャンケンだ。」

「……よし。」


双子はジャンケンをして、一発で勝敗が着いた。

今回……は。


「よっしゃー!オレだ!」

「ちぇっ……楽兄さんの後かぁ…まぁいいけど。」


楽が勝った、と思ったのも一瞬、楽はすぐにワタシにチュッとキスをしてきた。


「んぅっ…」

「ん……んぅっ……マリアちゃん…もっと深いのしていい?」

「えっ、何それ知らなっ……んぅっ……!?」


楽は突然、舌を出してきて、ワタシの舌を絡め、

そのまま楽はワタシの舌をチューチュー吸いながら、舌が絡み合う音を聞きながらキスを続けた。


やばいっ、呼吸ができないっ……!!


ワタシは離れようとした、が、楽は離す気はなく、

ワタシの唇をしっかり狙った上で舌を絡める。


舌はお互いの唾液が絡み合い、

聞こえる音はぐちゃぐちゃとした深い水の音。


どうしようっ…と思っていると、

我慢できなかった樂は、

ワタシの耳に舌を入れてきた。


「んぅあっ!?」


それに驚き、逃げようとしたが、

楽とのキスで腰が抜けて動けなくなっていた。


やばいっ、耳から直接っ、音がっ……!!


と、思っていると樂が耳元で囁く。


「マリア?」

「んぅっあっ…」

「このまま、ボクたちに食べられた方が……更に気持ちよくて、幸せだよ?」

「んんぅっ…」

「ねぇ、マリア……いいでしょ?」


…………なんてモノに引っかかるかっっっ!!!!


「んぅっ……んんんんっ!!ええいっ!」


ワタシは逃げ癖を使ってササッと双子から逃げた。


「あぁっ!逃げられた!」

「ちぇっ、ダメだった。」

「流石にっ!この先はやらないっっ!!!」


絶対にやらない!と、決めてるワタシはいつでも逃げれるように玄関の扉近くに立った。


そこに双子はのそのそと近寄ってくる。


「なんで?オレたちはマリアちゃんに痛い事しないよ?」

「絶対に更に気持ちいいのに……」

「違う!そういうのじゃないっ!


……でも、ちょっと良かったかも。」

「「おっ!?」」

「でも、もういいかな…満足した……かな。」

「えー!?」

「そんな……」

「いいって言ったらいいの!」


双子は残念そうにしょんぼりする。


でも……ちょっと心地よい時間だったかも……。


な、なんて!双子には言えないなぁ……あはは…っ

双子もその事に気づいてなさそうだし、いいよね。


ワタシは双子がもうしてこない事を信じて、

玄関から走って双子にぎゅっと抱きしめる。


「……でも、このままがいいな。」

「…マリアちゃん」

「…マリア」


双子に甘えたら、少し心が軽くなった。

安心するなぁ……心地いいなぁ…。


……ずっと、この時間が続けばいいのになぁ。


「えへへっ……。」


ワタシは双子に埋もれるようにぎゅっとして、

そのままベッドまで連れて行ってもらい、

そのまま双子とお話しながら寝る事にした。


ワタシは双子の事が好きだ。

それと同時に、それ以上を求めているのは、確かだ。


キスの先?本当はしたいの?

ううん、したい訳じゃない。


しなくても幸せで、愛を感じれる事をしたい。


深く愛を知って、深く愛を感じて、

深く愛されたい、愛したい。


双子となら……どんな未来でも、生きれる…。


この幸せで愛がいっぱいな時間を、ずっと過ごしていたい……


……だから、ごめんね、ネモ。

ネモの気持ち、応えれるか分からなかった。


ネモの事、

まだ何も知らないし、まだ理解できてない。


だからこそ……友達として仲良くなれたらな……

……なんて、ワガママかな。


ってこんな事、ネモには聞こえないのに……。


そう思い、ワタシは目を閉じた時、

一瞬、ネモの声が聞こえた気がした。


「マリアさん、全部、聞いてますよ。」


「貴方の心の声、全部、聞いてます。」


「だからこそ、僕は貴方をお迎えに行きます。」


「どんな時も……必ず、どんな場所でも、必ず。」


「僕は貴方を、愛しています。」


そんな…ネモの声が聞こえたような、気がした。

気のせい?ううん、でも聞こえたような……


開いている窓から美しい白色の花びらが入ってきた。


それは「百合」の花びらだ。


本で見た…花だ……

なんでこんな場所にまで花が……っ?


そう思っていると、その一枚の花びらは床に落ちて、風と共に木の揺れる音がした。


その音と共に、ワタシは瞼を閉じた。

双子の体温と共に、静かな風の音を聞きながら、

部屋の床に落ちた花びらが枯れていくのを……


……本当の「このイベント」の恐ろしさに、後に気づかれるのであった………………



十二話へ続く。

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