第六話 「影は隠れていた」
いつまでも続く夜。
流石に何週間も経とうとしていた。
「警察」と「ヒーロー」は本当に動いているのか?
街の人々は、その噂で持ち切りだ。
売るお菓子も無ければ、買うお菓子も無い。
つまり、人々は飢え始めた。
特に人間は不老不死だが、
お菓子を食べないと生きれない体質な為、
お菓子を食べなくても生きれる怪物たちは、
人間にお菓子を渡し、人間もそれと同様の物を渡し、お互いに凌ぎあっていた。
ワタシの方はお姉さんのお陰で、
なんとかチョコレートが残っており、生きてこれた。
楽(らく)と樂(がく)、
この双子もたまに食べない日はある。
代わりにワタシには沢山、食べさせてくれた。
お陰様で空腹は満たされている。
……ワタシへの食べさせ方は考えないでおこう。
なんだかんだ言って生きてこれたが、
流石に限界だ……朝が来ないと寝た気もしないし。
毎日ウトウトして眠たい日々が続くから、
普段はベッドの上に横になっている事が多い。
双子は普通そうに過ごしている。
凄いな、体内時計どうなってるんだろう?
人間だったら朝が来ないのは辛いし、
怪物は種族によっては夜が好きだから平気だろうけど……本当に種族によっては今は何も食べずに寝てる怪物たちもいるのだろう。
……いや、そもそも双子はなんの種族なんだ?
人間?の割には身体能力も体内時計が、人間らしくない。もしかしたら怪物なのかな?の、割には見た目は普通の人間にも見える……
そういう事を聞いてなかったなぁ、と思っていると…
「マリアちゃん?どうしたのー?」
「ずっとこっち見てくる…」
「えっ!あ…なんでもないよ。」
ワタシは咄嗟に目を逸らすと、
窓側にいた双子は無言で近寄ってくる。
やばい、やらかした…っ
「待って!話すからっ!」
「マリアっていつもそうだよね…」
「マリアちゃんっていつもこうだよね…」
窓側からベッド側へ、その後ろは壁だ。
隙間のないように近づいてくる双子は、
ワタシを完全に逃がす気はない。
こうなると双子は止められないのだ。
ベッドの上に双子が乗ってきたと思えば、
双子は片手ずつワタシの腰を掴み、
もう片手ではワタシの背中と頭を支えて、
そのまま押し倒す。
ワタシの上に乗ったと思えば、
完全に見下ろす形になり、そのまま近づいてくる。
この流れ、流石に理解してきた……っ!!
「本当に待って!!話すからっ!!」
「マリアちゃんって身体もマシュマロみたいにふわふわしてるね♡」
「本当だね、って事はアソコもマシュマロみたいに甘くて柔らかいかなぁ?♡」
「もう話すとか話さないとか関係ないのね……っ!?
どこ触って!!やめなさいっっ!!」
双子は嬉しそうにワタシの身体を触る。
こんな事に突然なるのは、
この双子あるあるになっていた。
だから決まってワタシは……
「マリアちゃん、今日こそは食べられようね♡」
「可愛い…マリア…早く食べたいなぁ…♡」
「…………本当にぃっ……やめなさーーーーーーーーーいぃぃっっっっっ!!!!」
バシーーーーーーンッと廃墟のアパートに響く。
「「ごめんなさい…」」
ワタシは双子にビンタして、その場を収めた。
双子も流石に反省したのか、
ベッドの上でしょんぼりしていた。
何故懲りないのか、この双子は。
毎回こうなるって分かっているはずなのに……。
ワタシもワタシだ、すぐに逃げればいいのに……
……毎回こうなってしまう。
双子や自分自身にも油断も隙もないのを思う。
この時だけは双子からには身の危険を感じるから、
とにかくっ…次こそはこうならないように気をつけっ……
「マリアちゃん、まだ怒ってるー?」
「マリア、もう怒ってないよね〜?」
双子は「次もしていいよね?」という、
まるで食べたかった甘いお菓子をねだる子供のようなうるうるした上目づかいで見てくる。
ほんとっ……この双子はぁぁっ……!!!
「…………ギュッてするならいいよ。」
「本当に!?やったー!!」
「マリアは優しいなぁ〜」
こうもお菓子を与えてしまうように許してしまう…ワタシもワタシだっ!!!
なんでかなぁ……ついつい、ううん……
……心の底からふと許してしまう。
本当に嫌ならワタシも怒るし、ビンタじゃ済ませない。けど、この双子なら……本当に、本当に不思議だけど……なんとなく、心から、許してしまう。
だから、双子にはこうやって甘えさせちゃっている。
……ワタシも双子に甘えれたら…。
「ん?」
なんて事を考えっ!?
「どうしたの?マリアちゃん?」
「また隠し事〜?」
「あっ、まぁ……なんでもないよ……っ」
「「ふぅん?」」
双子は「怪しい…」という目で見てくる。
だ、だって…言えるわけがないっ!
こんな事……言えないよ。
なんだか、これも心の底から感じてしまう。
この双子の前ではそういう感情は控えよう、なんて思ってしまう。
多分、だからああやって迫ってきても、
ビンタして収めようとしてしまうのかもしれない…
本当は?…本当はなんて、言えない。
この感情もよく分かってない。
なんなら、最近は深く考えると頭が痛い。
ワタシは何者なのかも……
双子が何者なのかも……
……考えてしまう。
ううーんっ、もう考えるのはやめとこう。
でも、いつかは理解したい感情ではある。
向き合わないといけない事なのも、分かっている。
だけど……今は、この双子に振り回されよう。
その方が、ワタシは落ち着くし、楽しいし…
……まぁ、今さっきのような出来事は、絶対に止めるが。
「マリアちゃんー!」
「マリア〜」
「んっ?何?」
「今日は、この辺の近くをお散歩しよっ!」
「森の中、人間も怪物も普段来ないから……静かで心地いいよ。」
森の中かぁ……確かに、それは楽しそうかも。
「ふふっ…なら行こっか。」
「ほんとっほんと!?やったー!行こ行こ!」
「じゃチョコレートも持っていってピクニックする?」
「そうしよーっ!えー!なんのチョコレートにしようかなぁー!」
「あっ、楽兄さん…それはボクのチョコレートだよ!もう…。」
双子は楽しそうに散歩に持っていく、
チョコレートを探していた。
そんな様子が子供のように楽しそうに、
話し合いながら、分け合っている姿を見て、
ワタシは微笑んでしまう。
「……ふふっ」
そんな双子が「可愛い」と思ってしまう。
だからチョコレート屋のお姉さんもお兄さんも、
双子には優しくて甘いのかなぁ、なんて思う。
ワタシも結局は、同じように甘やかしてしまうし。
……そういえば、この双子は何歳なのだろうか?
人間なら自分自身が指定した年齢で止まっているはず…怪物なら人間より、年齢は更に長い……
……そういえば、ワタシって何歳だ?
思えば、考えた事がない。
何年生きてきたのも、分からない。
それは、ワタシが常に命を狙われ続けたからだ。
今でもある逃げ癖は、双子の前では出ない。
それは、双子がワタシを守ってくれるからだ。
だから今は安全だが、過去は危険だった。
どんな時も一緒にいてくれる人間や怪物なんていなかった。だから、何年それが続いたかなんて、考えたくなかったし、考えなかった。
むしろ、「親のような存在だった人間」は、
「黒魔術を使う悪い魔女」だったのだから、
今も正直、この双子も怪しく思ってしまう。
双子とそれぞれデートはして、
双子それぞれの事は理解した。
が、双子の目的は未だに分からない。
ワタシに執着する理由……
それはまるで、見た目は綺麗なチョコレートだが、一度、味わないと、切って確認しないと中身が分からない……という感覚だ。
双子を信じるか?双子は裏切るのか?
……どちらにせよ、今のワタシには分からない。
とりあえず、今は双子との時間を大事にしよう。
悪い人たちではない、というのは何となく思う。
けど、それを信じる具材がない。
ううん、これ以上考えたって意味は無い。
「マリアちゃん!行こっ!」
「ほら、マリア?手繋ご?」
「……うん。」
だから……今は。
今は、この楽しい時間が続きますように。
そう、思い、感じて、願うしかなかった…………。
廃墟のアパートを出て、森の中へ入る。
夜だから森の中は凄く暗いが、ワタシの両手には双子の片手でギュッと握られていたから、安心できた。
そして、森の中は思ったより、
自然いっぱいで、草や花、木で生い茂っていた。
楽はチョコレートの入ったカバンを持ち、
前へ前へガンガン進む。
そこに樂が器用に植物を避けて獣道を歩く。
ワタシは植物にぶつかったり当たったりしながらも、双子に置いてかれないように進む。
それを見た双子は歩くのを止めた。
(何かいたのかな?)と思ったワタシは状況が分からず止まっていると、双子はその場でジャンケンしだした。
「さーいしょは」
「ぐ〜」
「「ジャンケンっ!ポンッ!!」」
「……樂が勝った。」
「よしっ!」
「わぁぁーーーんっ!!!負けたぁーーーっ!!」
いや、なんのジャンケン?
ワタシは双子の突然の行動に理解できないでいると、楽はガッカリして、樂は嬉しそうにワタシに近寄ってきた。
「じゃ……マリア、ちょっと失礼。」
「えっ!?ちょっ!?な、何っ……きゃっ!?」
樂はワタシをお姫様抱っこする。
ワタシを樂の身体へ引き寄せ、おでこにチュッとキスをして、楽に「ふふんっ」と、自慢げに見せつけていた。
楽はそんなワタシたちの姿を見て、
「うわぁっ!!いいなー!!」と、かなり悔しそうにしていた。
あぁ……そういう事かぁ……。
多分、ワタシが歩くのが遅かったから、
双子はワタシのお姫様抱っこジャンケンをしていたのね。納得だが、双子の中での世界すぎて、他人のワタシには突然の事だったし、分からなかった。
まぁ、双子が楽しそうだからいいかぁ……
……と思ったワタシは大人しく樂に掴まり、森の中を歩いた。
そうすると、辿り着いたのは……
「あっ!ここなら、休めれそうだねー!」
そこは、上から月明かりが綺麗な、
木もちょうど円状に綺麗に切られていて、
草も花もない、芝生の広場のような場所だった。
「ここ、誰かが来てた跡があるね。」
近くにはお菓子の袋が落ちていた。
これ……いつもの街の「スイートタウン」で売られてるお菓子の袋だ……。
「ほんとだ!てか、ここって芝生になってる……
草を誰かが刈ってるのかな?」
「こんな森の奥に?……でもありえるか。」
「とりあえず、ここでのんびりしよっか!
まぁ、危なかったら殺せばいいし!」
いや、ダメでしょっ!?
と、思うが、双子にはそれが通じない。
流石、悪い悪戯者を殺す「快楽殺人鬼」だ。
「そうしよう……マリア?降ろしても大丈夫?」
「う、うんっ!」
「……本当は降ろしたくないけど。」
「えっ?」
「なんでもな〜い。」
樂は心残りがありそうな顔をしながら、
ワタシを芝生の上に優しく降ろす。
少し不満そうな顔をしているが、
気にしないでおこう。
双子はワタシを挟むように両隣に座り、
隙間なく、ピッタリくっついて、手を繋ぎ、
頭をワタシの両肩に乗せて嬉しそうに笑う双子。
本当に嬉しそうだなぁ……
ワタシの何がそんなに良くて、
そこまでの事をするのか……分からない。
けど、この時間は幸せに感じる。
両隣や手から感じる双子の暖かい体温。
双子の同時にする呼吸の息、
双子が同時に鳴る心臓の音、
双子の嬉しそうに微笑む声、
その心地良さは、
いつの間にか自然と感じるようになっていた。
……安心する、不思議だ。
双子に出会ってから数週間経っていた。
その中で、双子から感じるモノをワタシは受け入れようとしているのかもしれない。
それは……
(…初めてだなぁ、こんな気持ちになるの。)
ワタシは静かなのに、うるさい音が聞こえた。
それは、ワタシから聞こえる音。
双子には聞こえない、ワタシだけの音。
あるいは、声なのかもしれない。
あぁ、この気持ちも、感情も、とあるモノも、
分からないままなら、幸せだって……ふと思ってしまう。
ワタシは我儘だ。
この双子になら、
この全てが理解されて、許されそう、
なんて考えてしまうからだ。
そんなモノ、今までの人生には無かった。
優しくて、暖かくて、心地良い、幸せなモノ。
ワタシが初めて、ううん、感じていたかったモノ。
双子がワタシにだけ、伝えてくれたモノ。
静かな時間だけが過ぎていく。
本当に森の中は静かで、虫の声、動物の歩く音。
人間や怪物の気配もない、自然の世界。
そして、そこにワタシと双子が寄り添っている。
この安心する時間は、いつまで続くのだろうか?
この幸せな時間は、いつまでなのだろうか?
……あぁ、この時間がずっと止まらないでほしい。
今までの不安な夜も、危険な日々も、悲しい涙も、
今は感じなくていい、しなくていい、思わなくていい。
この双子なら、ワタシの我儘も受け入れてくれる。
何故か…それは信じてしまう。
これは不思議なモノだ、初めてのモノなのに。
「……ありがとう、楽、樂。」
「っ!マリアちゃん?」
「どうしたの?急に?」
「ふふっ、お礼をしたかっただけだよ。」
「「………」」
双子は顔を合わせて、不思議そうな顔をするが、
ワタシの安心した顔を見て、何かを感じたのか、
ワタシの頭を撫でて、頬にチュッと両方からされて、嬉しそうに頭をスリスリしてきた。
「いいえー!マリアちゃんっ!」
「どういたしまして、マリア。」
双子の嬉しそうな姿に、ワタシも嬉しくなる。
「……じゃ、チョコレート食べる?」
「うんっ!そうしよっそうしよ!!」
「何持ってきたっけ?楽兄さん、マリアの分あるよね?」
「あるよーっ!お兄ちゃんに任せなさーいっ!」
「大丈夫かなぁ……」
チョコレートを入れたカバンの中を見ると、
楽は「あれっ」と言い出す。
樂は「あぁ……やっぱりか。」と言い、呆れた顔をする。ワタシは(なんだろう……?)と思い、楽に近寄ると、楽は悲しそうな顔をする。
「どーしよっ!カバンに穴空いてた!!」
「えっ?って事はチョコレート落としちゃった?」
「そうなるぅぅっ……う、うぅぅぅっ!!どうしよーーーーっ!?」
まさかの出来事。
まぁ、あんな森の中を歩いてたら、カバンに穴ぐらい空くかぁ……
ワタシはどうしたらいいのだろう、と悩んでいると、樂が自身の両方のポケットを漁る。
「……楽兄さんならすると思ってたよ、ほらっ。」
「っ!!!!が、樂ぅっ!!」
樂の両方ポケットから、
大量のチョコレートが出てきた。
「あっ、いつの間に……?」
「最初から落ちてた、し、なんならマリアと楽兄さんがデートしてる日から落ちてたよ?」
「えっ!?」
ん?って事は……
「もしかして、あの時、公園に来てたのって……」
「チョコレートを追って来た。」
あ、だからあのタイミングで来てくれたんだ…
いや、そもそもそんなに詰め込んだチョコレートが数個しかないんだから、楽はあの時から落とした事に気づくはず……もしかして、わざと隠してた?
いやいやっ…楽はそんな事、しないよね……っ?
「あ、あぁ……なるほどね…?」
「え、ええっ!?なっ、なんで樂はっ!分かってたのに言わなかったのーーーっっ!?」
「面白かったから…」
「それだけーーーっ!!??酷いよ樂っ!一人だけ楽しんでてっ!!」
「え、そこっ?」
うん、気づいててもこうなるのは、楽だ。
でも、今日もデートの時と同じカバンなのだから、今日だって落とすって思うはず。
なのに、持ってきたのは何故……?
やっぱり、双子はワタシに何か隠して……っ
「ふ、2人とっ……」
「てか楽兄さん、なんでそのカバンにしたの?」
「その…帰り道が分からなくなるかなぁって……」
「言い訳しないの、本当は?」
「………どうせ樂が拾うって分かってたから、少なくなったチョコレートでマリアちゃんとチュッチュッできるし良いかなぁって……」
そんな理由でそのカバンにしてたの??
楽ってば、そんな事を思って……
てか、いや…それは良くないでしょ……
「っ!!それ良い!」
いやっ、良くないってっっっ!!!???
「でしょっ!?普通に食べても普通に美味しいチョコレートだもん!特別に食べたいよね!!」
「うん!食べたい!」
おい、何を言い出すか、この双子は……っ!!
「いやっ!?ワタシは普通に食べたいですが!?」
「「えっ?」」
「当たり前でしょっ!!」
ワタシは双子から離れる。
このままじゃ、本当に食われる。
森近くへ逃げようとするワタシを見て、
双子は嬉しそうに近寄ろうとした時…………
…………双子は焦った顔をした。
なんだろう?と思った瞬間、身体が宙に浮いた。
その時、ワタシはすぐに察した。
「「マリアちゃんっ!!/マリアっ!!」」
「……やっと捕まえましたよ、人形さん。」
「っ!!!!!あの時の魔女っ!!!
楽っ!!樂っ!!」
ワタシは逃げようとするが、
魔女の魔法によってワタシは宙に浮かされていた。
ジタバタするワタシを見て、双子はすぐにチェーンソーを持ち、魔女に向かって切ろうとした……が。
「効きませんよ。」
「っ!!防御魔法かっ!」
「…こんなのっ!!」
「……こんな事で時間を使う訳にはいかない。」
魔女は双子に光線の魔法を放った。
が、双子はそれを避けて、防御魔法を割ろうとチェーンソーを向ける、が、ビクともしない。
「……早く大魔女様にお連れしないといけないのに……このままじゃ、貴方たちは着いてきますね。」
「マリアちゃんをっ!!離せ!!」
「マリアをっ!!返せっ!!!」
「…………けど、その方が都合がいい。」
魔女は双子に「怪我させない」程度に、
魔法で地面に叩きつけた。
地面に落とされた双子は、
宙に浮いて捕まっているワタシを見て、
「絶対に助けよう」と、すぐに起き上がった。
魔女はそれを見てニヤリと笑い、
宙に浮いたまま移動して、森の中を駆ける。
双子も追うように走って森の中を駆け抜けると……
「っ!あれはっ!」
「そう、あれは私たちが住む……魔女だけの街…「マジックタウン」です。」
「待てーーっ!!」
「マリアっ……!!」
双子も離さないように走って追いかけてきた。
ワタシは双子を見て安心する、が捕まっている以上、今は怖くて仕方がない。
「楽っ!樂っ!」
「ちゃんと追ってきてますね……良かった。」
良かった……?何を言うんだ、この魔女は?
「っ!!アナタっ!何が目的!?」
「私はただ、大魔女様……ヒペリ様の命令に従っただけです。まぁ、双子は「追ってきただけ」にしましょうか。」
何を言うのか、この魔女は…っ!?
言ってる意味が分からないワタシは怒りを露わにして、魔女に話しかける。
「何を言ってっ!!」
「これで、計画通りですよ。」
「……なんのっ?」
「……………我々の。」
この魔女、何か企んでる?
それとも、大魔女が企んでいる?
分からないが、今は逃げる事はできない。
地面だったら逃げれたのにっ……!!
マジックタウンに着くと、魔女はそのまま、
奥に見える大きな屋敷に連れて行こうとする。
きっと、そこに大魔女がいるのだろう。
ワタシは大魔女に捕まってしまうのか……っ?
魔女たちがワタシに言っていた「特別な魂、命、そして身体」を、どうする気なのだろうか?
双子もワタシを追う、が、街の魔女たちが家から出てくる。
ダメだっ!双子が……楽と樂がっ!!
ワタシは咄嗟に双子に向けて声を出す。
「楽っ!樂っ!」
「「マリアちゃんっ!?/マリアっ!?」」
「関係の無い人は殺しちゃダメっ!!!」
「「っ!!」」
「それだけはっ!!約束してっ!!」
双子はワタシの言葉に驚く。
魔女は関係無しにワタシを連れてこうとする。
そして、家から出てきた魔女たちは武器の杖を双子に構える。
「「マリアちゃんっ……!!/マリアっ……!!」」
「ワタシはっ…………二人を信じてるっ!!!」
「「っっっ!!!」」
涙が溢れてくる、止まらない。
この感情はなんなんだろう?この気持ちは何なのだろう?ワタシは、何をしたくて、どう思ってそう言っているのか?
けど、何より心からそう思い、感じて、口に出す。
「信じてるっ……からっ!!!!」
ワタシはそのまま屋敷へ連れ去れた。
双子は魔女たちを避けるように走って追いかけるが、飛んでいる魔女には追いつかない。
「「マリアちゃんっ!!!/マリアっ!!!」」
双子が魔女や家によって見えなくなる。
ワタシは連れ去られる、が……
(楽と樂なら……っ)
……そう、何故か思える。
魔女はそんなワタシたちを見て、クスッと笑う。
「良い関係なのですね?」
「っ!誘拐した癖によく言うっ!」
「いえ、貴女たちが羨ましいと思いまして。」
「えっ?」
「あぁ、いえ、独り言です。」
魔女はそのままワタシを屋敷へ連れていく。
屋敷に着くと、そこはボロボロで汚い廃墟のような場所だった。
そして、魔女はワタシは逃げる癖があるのを理解しているのか、宙に浮かせたまま、奥の部屋まで連れていった。くっ、賢いな……この魔女……っ!
そうして、屋敷の奥へ進むと…………
「あらっ!連れてきてくれた?」
「はい、大魔女様……ヒペリ・リス様。」
「……アナタが、大魔女……っ!?」
そこには、他の真っ黒な魔女とは大違いの姿で、
ピンク一色で作られた服に、ふわふわのフリルやリボン、そしてかなり目立つ、丸みあるのスカート。
そして、フワッと薔薇が香る笑顔は、
どんな人も魅了するような美しくて可憐な姿の……
……マカロンのような少女だった。
「初めまして、お人形さん?私はヒペリ・リス。
この街の魔女からは大魔女様って呼ばれてるわ。」
まるで優しく迎える気のない、苦いお菓子のような笑顔だ。
これだから、命を狙う者はっ…!!
「…………」
「まぁっ!そんな睨まなくていいのよ?痛いようにはしないもの!」
「……目的は?」
「…そんなの、お前には関係ないでしょ?」
そう大魔女…ヒペリは言うと、ワタシを連れてきた魔女に目を合わせたと思えば、そのままこの部屋を出ようとした。
「なっ!!ちょっ!どこに連れてっ!」
「ヒペリ様、とりあえずこの人形は傷がつかないような場所へ監禁しておきます。」
「ええっ!そうしましょっ!流石アタシに使える魔女ね〜!」
「……とても光栄です。」
部屋を出ると、魔女はまだワタシを宙に浮かせたまま、屋敷の地下室へ向かう。
そこは、ベッド一つしか置いてない牢獄だった。
どこが傷つかないような場所なのっ!?
てかっ、本当に目的が分からない……っ!!
ワタシはジタバタ動いて逃げようとする、が……
「やめてっ!!離してっ!!」
「すみません、そうにはいかないんですよ。」
「〜っ!何が目的!?」
「……さぁ?ヒペリ様は、私にすら、教えてくれませんから、知りませんね。」
私を牢獄に入れると、
ベッドの上まで移動させ、宙に浮く魔法を解いた。
あ、意外とベッド柔らかい……
確かに傷つかないかもしれない………
でも、そうなると……?
「……アナタの目的は?」
「……さぁ、言ったところで、どうするのですか?」
「っ!!…アナタ…さ…?」
ワタシは見た。
この目で……感情の隙間を。
「アナタ、喜びがないのね。」
「……何を言っているのですか?」
「あの大魔女に「光栄です」って言っといて、全く嬉しそうじゃない。」
いや、むしろ……この魔女は……っ
「何を見て、何を知って、その判断を?」
「……その以上に、怒りが強い。」
「…………」
「使えてるわりには、かなり不満そうに感じる。」
「……厄介な魔法を使えるようですね?」
「っ…!」
やばいっ、流石に見抜かれたかっ!?
……が、魔女は檻の前に座り、
杖を置いて、ワタシに話をする姿勢になった。
「……なら、貴女が死ぬ前に、語りましょうか?
大魔女様…ヒペリ様の過去…いいえ、この街のマジックタウン……そして、隣街のスイートタウンでの過去を。」
「えっ?」
「そこから語らないと、私の感情は見抜けませんよ?……特別な魂と身体を持つ、お人形さん?」
「っ!……分かった!聞きます!」
ワタシはその魔女の前に行き、
檻の前で二人で座って話をする事になった。
「長くなります……これは……
……ヒペリ様が…まだ、14歳の頃のお話です……。」
そこから、ヒペリたちの過去は始まった。
ワタシはそれを聞く事にした。
ヒペリたちの過去、加えてこの魔女の目的。
次に始まるのは、ヒペリたちの過去から。
そして、最後はどうなるのか……
この世界の物語は、
まだ序盤に過ぎなかったのであった………
七話へ続く。
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