第五話 「ねぇ、オレは。」
夜が続く、時刻は午前三時。
朝が来ないのが当たり前になっていた。
もはや朝が来ないのは身体も慣れてしまった。
うーん…でも、身体が起きた感じはしないなぁ…
なんか身体重たいし…朝日を浴びてないから、
寝た感じもしなくて疲れてるのかなぁ?
早く朝が来たら良いのに、なんて思いながら眠たい中、目をウトウトしながら身体を起き上がると、一瞬、目の前に何かが見えた。
なんだろう?と思い、眠たい瞼を頑張って開けると……
「マリアちゃんっ!!」
「わぁっっ!?」
「起きたっ起きたーっ!!」
くせっ毛の方の双子の兄、
楽(らく)が嬉しそうにはしゃぎながら、ワタシの目の前にいた。なんなら楽はワタシの上に乗っていた。
だ、だから重かったのか!?
てか…びっくりした、突然名前を呼ばれたから…。
驚くワタシを見て楽は嬉しそうにニコッと笑う。
「あ、あの……?」
「ねぇねぇマリアちゃん!今日はオレの日だよ!デートしよ!デート!」
「デ、デートっ!?」
楽はベッドの下から大きなカバンを取り出して肩に掛けた。そしてワタシの腕を引っ張る。
いやっ、待って!この双子、毎回、急すぎるって!
「ちょっ!!ま、待っ…」
「ねっ!樂(がく)いいでしょ!?」
「ん〜…………今日は寝かせて……。」
「うんうん!いいって事だね!行こ行こ!マリアちゃんっ!」
樂は布団にくるまって巨大マシュマロみたいに丸くなって、眠たそうに寝ていた。
珍しく樂が眠たそうだ……
「ちょっ!きゃぁっ!?」
と思っていると、腕を引っ張ても動かないワタシを見て、楽はワタシをお姫様抱っこする。
なんか毎回、ワタシって、この双子にお姫様抱っこされてない!?
……いや、抵抗はやめて、諦めよう。
「もうっ…どこ行くの?」
「今日はお菓子を持ってピクニックだよー!」
「ピクニック……?」
「うん!スイートタウンには公園があるから、そこでお話しながら、食べよ!」
「わ、分かった…」
「やったーっ!!わーいっ!えへへーっ!」
楽は物凄く嬉しそうに、スキップしながら廃墟のアパートを出て、森の中から、街へ向かった。
こんなに嬉しそうなら、悪い気はしない。
今日は「楽の日」だと思いながら、
ワタシは大人しく楽に掴まりながら、街へ向かった……
……街に着くと、やっぱり人は昨日と同じぐらい少ない…が、子供は昨日より沢山いた。
どうやら、小さなお店ならできる!と言った人間と怪物の大人たちが、小さなお菓子を子供たちに街の広場で配っていたらしい。
確かに近くには保護者らしき大人も多数いた。
じゃ今日は少し街は賑やかなんだ……!
それは、ワタシにとっては少し嬉しかった。
やっぱり…この街は賑やかで愉快じゃないと。
ワタシが嬉しくて微笑むと、
楽はそんなワタシを見て、同じように微笑む。
「何?マリアちゃん、今日は人がいて嬉しい?」
「うん、やっぱりこの街はそうじゃなきゃなって。」
「だね!オレもそう思うよー!
……あ、そうだ。」
「…ん?楽?」
楽はワタシを降ろし、
カバンから何かを取り出す。
そういえばそのカバン大きいなぁ……何が入ってるのかな?
と、思っていると、予想外の物を楽は取り出す。
「今日はたまたま持ってたんだよねぇー!マリアちゃん、見てて!」
「え、えっ?」
「いくよーっ!」
楽は飴玉のようなカラフルなボールを数個取り出すと、ヒョイッと投げたと思えば、ジャグリングをする。
何回か落としそうにもなりつつ、
頑張って不器用ながらも楽しそうにジャグリングをする姿を見て、ワタシはその楽しそうな楽に見とれていた。
そんな楽を見た、周りの子供たちも嬉しそうに近寄ってきた。
「わー!大道芸のお兄ちゃんだ!」
「今日はボールだけなの?」
「ねぇねぇお兄ちゃん!歌って歌ってー!」
「歌う?はーい!歌いながらやるねっ!」
楽は楽しそうに歌い始めた。
まるでお菓子がなくても、その場で一緒に踊ったり、一緒に歌ったり、一緒に遊んだりしてしまいそうな愉快な曲を楽は歌いながらジャグリングをする。
何度もボールを落としそうになっても、
慣れているのかすぐに持ち直して、続けてジャグリングをする。
子供たちは無邪気に嬉しそうに楽の周りに集まる。
「……凄い。」
ワタシはそんな素敵な姿の楽に見とれていた。
目が離せなかった、し、離したくなかった。
こんなに子供たちを喜ばせれる楽を見て、ワタシは凄く嬉しかったし、何より久しぶりに愉快で楽しい気持ちにもなった。
楽も子供たちを飽きさせないように歌う曲を変えたり、ボールのジャグリングを早くしたり遅くしたり、少し高くしたり低くしたり……など、とにかく楽しい時間が流れていった。
ワタシも楽をずっと見ていた。
楽って子供に好かれやすいのかな?
なんだが、子供たちに囲まれている楽の姿は、
子供たちを楽しませる「大人」という風にも見えた。
何より、子供を楽しませているのは「大道芸人」の姿が見れて、ワタシは新しい一面を見て、一緒に楽しんだ。
そうして数十分後……
楽はベターっと床に力尽きて倒れると、
子供たちは嬉しそうに楽に話しかける。
「もう終わりーっ!?」
「お兄ちゃんまだやってー!」
「面白いよー!楽しいー!」
「はぁはぁ…やっぱり樂がいないと大変だぁ…!」
倒れた楽を見て、
心配になったワタシはすぐに話しかけた。
「大丈夫?」
「うん!大丈夫!どうどう!?楽しかったっ!?」
「ふふっ…うん、楽しかったよ!楽!」
「っっっ!!??マ、マリアちゃっん!?今オレの名前呼んっ…………んっ?」
「ん?」
楽は少し遠くの泣いている男の子のミイラの子供を見つける。周りの子供たちも、その泣いている声に気づく。
ミイラの男の子が泣いてる…ど、どうしよう……
……と、ワタシが考えている中、すぐに楽は動いた。
「ええぇぇぇっえぇぇんっ……」
「ねぇねぇ、どうしたの?」
「うっうぅぅっ……ううぅぅぅっ……」
「うーん、そうだなぁ……あっ!ねぇねぇ、これ見て!」
「んぇぇっ……?」
楽はボールをサッカーボールのリフティングのように足と頭で、少しぎこちない動きだが、上手く落とさないようにボールを動かす。
ミイラの男の子はそれを見て、目を輝かせる。
それを見た楽は「もっといくよ!」と言った瞬間、
そのまま余ったボールでジャグリングをやると、
ミイラの男の子も、周りにいた子供たちも皆、楽に集まり、楽しそうな声になった。
泣き声はもう、聞こえない。
ワタシは楽しそうなミイラの男の子を見て安心して、子供たちのように一緒に楽しんだ。
楽は不器用だと聞いていたが、
こんな器用に出来るとは……本当に不器用なの?
それは後で本人に聞いてみよう……
と思いながら、また楽しい時間を過ごした。
数十分後、終わるとミイラの男の子も、子供たちも、みーんな笑顔になって、楽しそうに楽とお話していた。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「いいえ!ねぇ?どうして泣いてたの?」
「……お菓子が無くて…」
「あらっ、お腹が空いたの?」
「うん……」
確かにミイラの男の子からお腹の音が鳴る。
相当長い間、食べてないのかなぁ……?
ワタシが心配で見ていると、楽は何かを思いつき、ミイラの男の子に話しかけた。
「じゃオレのお菓子食べる?」
「えっ!!いいの!?」
「うん!いいよ!」
楽はカバンを漁り、袋に入ったチョコレートを渡す。
「野菜は平気?」
「うん!大好き!」
「えらい!野菜が食べれるなんてえらいぞー!よしよしっ!」
「わーいっ!ありがとう、お兄ちゃんっ!!」
ミイラの男の子は更に嬉しそうな笑顔になった。
親もそれに気づいて頭を下げに来たが、楽は「気にしないでいいよー!」と言って、ミイラの男の子の頭を撫でる。
「じゃ、美味しいお菓子を食べて、元気になるんだよー!」
「はーい!本当にありがとう、お兄ちゃん!」
「すみませんっ!ありがとうございますっ!」
「いいえー!じゃ皆!今日の大道芸は終わりだよー!配られたお菓子を仲良く食べてね!」
「「「はーい!」」」
子供たちは嬉しそうに親の元へ走っていき、家へ帰って行った。配っていたお店の店員からも「全部配れたよ!ありがとう!」と楽はお礼を言われていた。
凄いなぁ……とワタシは楽を見ていると。
「マリアちゃん!行こっ!」
「あっ、う、うんっ!」
楽はボールを大きなカバンの中に入れて、
空いた手でワタシの手を繋いできた。
いつも手を繋いでいるからワタシは気にしないでいたが、楽は「さっきの事」が気になっていたらしく……
「ねぇっ!マリアちゃん!さっきオレの名前、呼んだよね!?」
「あ、うん。」
「わぁっ!!!!嬉しいぃーっ!!もう一回呼んで!」
「楽?」
「わ、わぁっっ!!!もう一回!」
「楽。」
「わぁーーっ!!もう一回!もう一回!」
「ふふっ、もう……楽?」
「わぁぁぁっ!!!嬉しいっ!!嬉しいぃぃーーーっ!!」
楽は嬉しそうにその場ではしゃぐ。
ふふっ、さっきとは大違いな態度だ。
あと、何回も聞く辺りは樂と同じなのも笑ってしまう。本当に仲良いんだなぁ……。
「楽ってお兄ちゃんなんだね。」
「ん?確かに、オレは樂のお兄ちゃんだよ?」
「ふふっ、そうじゃなくて……まぁいっか。」
「えー!?何っ何っ!?」
「ふふふっ……」
楽は思ってたより「兄」なんだと思った。
子供たちにとっては大きくて楽しい「お兄ちゃん」なんだと思った。
樂にとっては「大切な兄さん」なのだろう、とも思い、楽は誰からも「兄」として愛され慕われる存在なのだと感じた。
いつも一人で無邪気にはしゃいでは、
弟の樂に冷静にツッコまれてたから……
こういう一面は意外だったかもしれない。
そうすると、楽は嬉しそうなワタシを見て、優しく微笑む。
「えへへっ、マリアちゃん嬉しそう!」
「えっ?そうかな?」
「うん!えへへんっ!嬉しいなぁー!」
「ふふっ、楽も嬉しそうだねっ。」
「もちろんっっ!嬉しいよぉー!」
楽は嬉しそうに手をブンブン振り回す。
ふふっ、こういう所は子供っぽいなぁ。
ワタシは楽と楽しく笑顔で会話をしながら、
楽の行きたい、と言っていた公園へ向かった。
公園に着くと、やっぱり人は居なかった。
今日は街の広場しか賑やかじゃなかったなぁ……。
ちょっと寂しい、と思いつつも、
楽がいるから自然とそこまで寂しくなかった。
そうすると、楽は「あそこに座ろ!」と言って、空いているベンチに指を指す。
ワタシは「いいよ」と言いながら楽とそのベンチまで歩き、ゆっくり座った。
楽はワタシとのデートだからなのか、
何かの様子を隠すように話しかけてきた。
「あ、マリアちゃん!お菓子食べよっか!待ってね!今取り出すからー!」
「うっ……ん?」
ん?楽、もしかして……?
「楽?」
「何ー?」
「今、無理してる?」
「っ!!!」
楽はお菓子を取り出そうとした手を止める。
なんなら、楽は身体ごと動かなくなった。
……図星か?
ワタシは楽の手を握る。
「いいよ、楽?家に帰る?」
「……ち、違うっ……!」
「何?」
「っ……その……オレ……っ」
「うん。」
「……だ、誰かに甘えるの苦手だから…っ!マリアちゃんに甘えたいって思っても、その……恥ずかしくてっ!」
楽は顔を真っ赤にしながら、下を向く。
「え、でも……いつも樂と甘えてたのは?」
「あれはっ…樂が甘えるの上手いから、それに合わせてた……本当はそういうの苦手…。」
「そ、そうだったんだ……っ!」
それは意外すぎる…っっ!!!
楽も樂も甘え上手だなぁ、と思っていたが……双子揃って上手いのかと思ったら……ううん、これは楽が「兄」だから苦手なのかなぁ?
よく聞く話だ、上の子は甘え下手、という言葉だ。
逆に下の子は甘え上手とは聞くが、
この双子は完全にそうなのだと感じた……。
ふふっ、そんな意外な話が聞けるなんて、嬉しいなぁ。
と思っていると、楽は口を開く。
「だからさ?」
「うん」
「オレ……っ」
「うん?わぁっ!?」
「甘えられるのは、得意なんだー!」
楽はワタシをギュッと抱きしめてきた。
ワタシの頭を撫でて「よしよし」と言いながら、
おでこにちゅっ、とキスをして、嬉しそうにする。
「らっ、楽っ!」
「いいよ、マリアちゃん。」
「えっ?」
楽はワタシを離し、ワタシは楽を見る。
そうすると、ワタシは動けなくなる。
まるで「年上のお兄さんが年下の女性を優しくする」ように、大人の優しい微笑みをしていた。
「今日ぐらいは、オレはマリアちゃんのお兄ちゃんになるよ。」
「っ……」
「だから、今はオレに甘えてよ。」
「……わ、分かった…。」
「ほら、おいで!マリアちゃん?」
ワタシは楽に引き寄せられるように楽の胸元に顔を近づける。そうすると、楽は嬉しそうにワタシの頭を撫でて、髪の毛もサラ〜ッと指を通し、そのまま優しく頭を撫で続ける。
その時、楽は嬉しそうに優しい歌声で歌いながら、
ワタシの頭にちゅっ、とキスをして、
唇を離したら、そのまま続けて歌い続けた。
それが子守唄の様な感じがして、ワタシは眠くなってきた。
やばいっ…このままじゃ…寝てしまう……っ
けど楽の暖かい体温と、
優しい大きな手での撫で撫で、
そして優しい歌にウトウトしてしまう。
楽はそんなワタシを見て、
ワタシを一旦離したと思えば、膝枕してくれた。
そして楽の着ていたフードが付いている大きな上着を、脱いで、ワタシの上に掛けてくれた。
楽は優しく歌いながら、ワタシを眠りに誘う。
楽が着ていた暖かい体温を感じる上着と、
楽が優しく頭を撫でながら、歌を歌う。
その安心感にワタシは……寝てしまった。
気づけば数時間経ったのだろう。
ワタシは目を覚ますと、歌声は聞こえなかった。
…あれっ、楽も寝たのかな?
と思い、公園の景色だった頭を楽の方へ上へ向けると、楽とすぐに目が合った。
「お、起きてたの?」
「うん、起きてたよ!」
「楽も寝なかったの?」
「寝ないよ!だって、マリアちゃんの寝顔を独り占めできるんだもん!」
「そ、そっかぁ…」
ワタシは起き上がろうとすると、
楽は起き上がりやすいように支えてくれた。
「ありがとう、楽。」
「いいえー!」
「久しぶりかも、こんなに安心して眠れたの…」
「そうなのっ?」
「うん、本当に楽は甘えさせ上手だね。」
「えへへんっ!ありがとう!これ、いつも樂にさせてたから、マリアちゃんにも出来てよかったー!」
「え、樂にもさせてるの?」
「うん、樂は甘え上手だから、よく「やって」って言ってきたから!させてたよ!」
流石甘え上手の樂だ…楽に甘えていたのは納得する。
……あ、そういえば…
「あ、楽って不器用なの?」
「えっ!?なんで!?」
「いやっ、樂が「自分は器用だけど〜」って言ってたから……楽は不器用なのかなぁって思って……
でも、今日の大道芸は器用にやってたよね。
本当は器用なの?」
楽はその言葉を聞いて「うーーんっ」と言いながら、頭を悩ませた後、話をしてくれた。
「あ、あー…あーーーっ……と、それはね…オレはその、本当にめちゃくちゃ不器用だから…昔から一人で練習したし、器用な樂にも教えてもらったから、やっとできるようになった……かな?
今も不器用だから、手こずるけどね……。」
「へぇ〜、じゃ本当は出来なかったの?」
「うん、全く。」
「へ、へぇ……」
楽って努力家なのかな?
思えば、楽は甘え下手なのもあるし、何事も一人でやってきたのかな?その辺は樂は器用に人に甘えたり、頼っているのを感じたかも。
だって、樂は「お姉さん」にお金の事で頼った事があるらしいし、楽からはそういう話は聞かない。
何より、大道芸は器用が求められるモノ。
樂は「器用」だから「できる」とお姉さんに言われてたんだし、その中で「不器用」だから「やりたくない」と最初に言っていた楽の発言にも納得はする。
けど、樂とやっていて「楽しい」と思うようになったのだろう、不器用ながらも子供たちも笑顔にさせるぐらい、楽しそうにやっていたのを見て、それは楽の「努力の結晶」なのだと思った。
そう思うと、ワタシは楽は凄いなぁ……と感じた。
そんな楽に、ワタシは楽の頭を撫でる。
楽は驚き、ワタシの顔を見る。
「マ、マリアちゃっ!」
「楽は頑張ってるんだね。」
「えっ?」
「よしよし、じゃ、今はワタシが「お姉ちゃん」になるね!楽、よしよし!いつも頑張っててえらいね〜!」
「っっっ!!!!!!」
その時、楽は見た事ないぐらい驚く。
え、そんな驚かれるような事した?と思い、申し訳なくて手を離そうとすると、楽はその手を掴み、少し鼻が詰まったような声で、話しかけてきた。
「マ、マリアちゃん……?」
「ん?何?楽?」
「今、お姉ちゃんって言った?」
「うん、言った。」
「……マリア…………………ちゃん。」
「ん?今、途中で何か言った?」
「…………っ…」
楽はワタシの手をギュッと両手で握り、
楽の胸元に引き寄せられた。
……こんな悲しい表情の楽、初めて見た。
ワタシ、何かしたかな?
さ、流石に急にお姉ちゃんだなんてまずかった!?
ワタシがアワアワしていると、
楽はそんなワタシに気づいて、表情を明るく戻す。
「ごっ!ごめんねっ!マリアちゃん!」
「あ、あのっ、本当に嫌だったら言っ……」
「嫌じゃないっ!!む、むしろ…………ううん…
その…っ………マリアちゃんは、
なんでお姉ちゃんになろうとしたの?」
え、なんだその質問??
とりあえず、ワタシは思った事を楽に伝えた。
「え、その……楽がお兄ちゃんらしさを感じたから、ワタシもお姉ちゃんになって、楽を甘えさせようかなぁって……っ?」
「……それだけ?」
「うん、それだけ。」
長い沈黙が続く。
気まずい時間だけが過ぎていく。
う、うーん…楽がこんなに黙ってるのも珍しい。
何より、楽はいつもお話をしてくれてる印象が強かったから、こんなに黙ってしまうのは、逆にワタシからしたら気まずさを感じた。
それに……楽がこんなに驚いたり、取り乱すのは初めてだ。
本当に嫌な事してないよね?ワタシ??
流石に心配になっているワタシは、楽に謝ろうとした時……突然、楽は勢いよくワタシを抱きしめた。
ベンチに置いてあったカバンが落ちるぐらいの勢いだ。
流石に驚いたワタシは話しかけようとした……時。
「ら、楽っ!?」
「……マリアちゃん。」
「な、何?」
「今は……このままで居させて?」
「…………う、うんっ。」
……今なら、楽の感情の隙間、見えるかな?
ワタシは横目で楽を見る……
……が、やっぱり……。
(楽も、見えないなぁ…)
それにしても、これは楽は甘えているのだろうか?
そうだとしても、かなり寂しそうな顔をしているような気がする……楽、何かあったのかな?
ワタシは楽が甘えたいんだと思って、楽の頭を撫でると、楽はビクッ!とするが、そのまま抱きしめる力を更に強くして、鼻をすする声が聞こえた。
あれ、楽…泣いてる?
本当にどうしたのだろう?
ワタシは心配になる、が、楽は全く離す気はない。
もしかしたら、楽は今の姿を見られたくないのかもしれない、なんて思ったりもした。何となくだけど。
「マリアちゃん……」
「…………。」
「……ねぇ、オレは…オレはね、マリアちゃんの事、大好きなんだよ……愛してるんだよっ……」
「…………うん。」
「だから……本当に、離れないでねっ……!!」
楽が言う、その言葉の意味はなんなのか?
ワタシは考える事をやめて、
楽の頭を撫でながらギュッと抱きしめ続けた。
気のせいだろうけど、ワタシの肩がひんやりする……うん、考えないでおいてあげよう。
大人の大きな身体の楽に包み込まれように抱きしめられながら、その時間を過ごした。
さっきとは違う時間だ……。
あんなに楽しかったり、
安心したりした時間とは違う……
……寂しくて、悲しそうな時間。
楽はワタシの行動に何を感じて、
今、抱きしめているのだろう?
今のワタシには理解はできないが、
楽はその気持ちをいつか話してくれるだろうか?
……樂も同じような気持ちなのだろうか?
双子は…どんな気持ちでワタシと一緒にいるだろうか?
分からない……けど。
「楽、大丈夫だよ。」
「んっ…マリアちゃん?」
「ワタシは、いなくなったりしないから。」
「っ!!!」
「なんか、そう、心から思うんだよね……。」
「……そっかぁ…っ!」
楽が抱きつくのをやめたと思えば、
楽は「待って!」と言ってワタシから離れて、
顔をワタシの反対方向に向き、顔をゴシゴシして、
楽がこっちに振り向くと、無邪気な笑顔になっていた。
「マリアちゃんっ!」
「楽?」
「えへへっ!一緒にお菓子、食べよっ!」
「……うん、食べよっか!」
楽は落としたカバンに付いた葉っぱを振り払いつつ、中に入ったお菓子を取り出す。
それはいつも食べている野菜のチョコレートだ。
けど、取りだしたのは一つだけだった。
あ、そうか……ミイラの男の子にあげたんだっけ?
楽は一つしかないチョコレートを見ていると…何か思いついたらしい。
「うーん、チョコレート一つしかない……そうだ!」
「ん?何っ……んぅっ!?」
楽はチョコレートを口に含むと、その含んだチョコレートをそのままワタシの口へ入れてきた。
そのまま楽はチョコレートを、コロコロと飴玉のように転がすように口の中で舌で器用に舐めている。
ワタシは訳が分からず混乱して、チョコレートが楽の方へ行くと、そのままチョコレートが入らないように口を閉じようとして逃げようとしたが、楽はワタシの腕を掴み、逃がさないように舌で閉じようとした口を開けて、器用にチョコレートを転がす。
そしてワタシの口の周りに、ヨダレとチョコレートが混ざったのが隙間から垂れてくると、楽は口を離し、そのままその液体を舐めて、楽は舌を出すと、ワタシは身を任せるままに口を開けると、更に残ったチョコレートを舐めて転がす。
もうチョコレートの味なのか、
楽の唾液の味なのか分からないぐらい、
口の中が液体でいっぱいになり、
なんだか不思議な感覚にもなったワタシは動けなくなり、身体の力が抜けて倒れそうになると、楽は口を離し、ワタシの背中を支える。
そのままワタシを引き寄せて、ギュッと抱きしめる。ワタシは頭がボーっとして動けない姿でいると、楽は嬉しそうに微笑む。
「マリアちゃん、腰抜けちゃった?」
「ん……」
「えへへっ…んふっ…アハ、アハハっ……可愛い♡」
楽は嬉しそうにワタシの頭を撫でる。
ダメだ、本当に頭が回らない…ボーっとする……。
……けどっ!!
「ら、楽っ……」
「んー?」
「こ、この食べ方……禁止っ!」
「えー!なんで!?」
「味が分からなくなるっ!」
あと普通に食べ方が汚いし……。
口の周り、ヨダレとチョコレートでビショビショだよ…どうしてくれるんだ。
と思い、説得しようとした、が。
「……なんで?」
楽は更に嬉しそうにワタシを見つめていた。
「はぁっ、えっっ…」
「もしかして……舐め合ってると、えっちな気持ちになるから、分からなくなるの?♡♡」
「いやっ、ら、楽っ?」
楽は抱きしめていたワタシを、
近くにあったカバンをワタシの後ろのベンチの奥に置き、そのまま抱きしめながらワタシをベンチに倒させる。そして、ワタシの頭はカバンの上に乗っかり、ワタシの身体の上には楽が乗っていた。
「実はチョコレートもう一個あるんだよね……」
「っ!?待って!楽!本当にやめよう!!??」
「えー?オレはしたいけどなぁー?」
「本当にっ……おかしくなるからっ……!」
「おかしくなったマリアちゃん、もう一回見たいなぁ♡」
「ダメです!!」
「えー?いいでしょー?マリアちゃんも嫌がってなかったし♡♡」
楽はチョコレートを取りだし、
口に咥えて、ワタシの顔に近づく。
「ほら、マリアちゃん♡あーんっ♡」
「っ!!…ら、楽っ……ん…
……んん??」
「あっ…」
「……楽兄さん、何してるの?」
そうか、そんなに時間が経ったのか……!
た、たたっ、た、助かったーー!!!!
「もごっ…んぐっ!樂っ!これはっ!」
「楽兄さん……ズルいなぁ?ボク、そこまでしてないのに…」
あ、樂が嘘泣きしてる…
でも楽には効かなそう…
「いーや、嘘だねっ!樂甘いの嫌いなくせに、口の周りにわあため、ついてたもん!」
「えっうそっ?」
「あ!慌てた!やっぱりそうだー!」
「うっっ!うぅぅ〜〜!ずるいっ!ボクもマリアとチョコレート食べる!」
樂がワタシの近くに来たから、流石にこれはまたやられるっ!と、思ったワタシは双子を止める。
「待って!二人とも、もうっ!帰るよ!!」
「「えぇ!?」」
「あと、チョコレートは一人一個ずつね!」
「「…はーい/…は〜い」」
「ほんと、もうっ……」
油断の隙もない……そう思いながら、
双子と一緒に家に帰った。
また眠たい…あんなに寝たのに。
ワタシはベッドに入り、
眠ろうとすると、また双子の会話が聞こえた。
「マリアちゃん、自分の事、お姉ちゃんって言ってたよ。」
「えっ、ほんと?でも……」
「うん、覚えてない。」
「そうだよね……。」
ん?あの時の事を話してる?
「…もう、オレたちの事も、覚えてないのかなぁ?」
「でも、楽兄さん…マリアが言ってたんでしょ?
……いなくなったりしないって。」
「うん……」
そういえば、そう言った。
けど、あれは……なんでか分からないけど、
心の底から感じた事を口にしただけ。
……なんでか分からないのに。
「それってもしかして……あっ。」
「マリアちゃん?起きてる?」
「………」
バレたかな……?
ワタシの様子を見て、楽は今日のワタシがした事を思い出し、ふふっと、微笑む声が聞こえた。
「…まぁいっか、オレもそういう事してもらったし。樂、オレたちも寝よ?」
「うん、そうだね。」
双子はワタシを挟むように眠る。
最初は狭いと思っていたベッドも、今はこの狭さが安心する。
ワタシ、この双子の事を安心するようになったんだ……
最初は「怖い」って思ってたのに…
今は、安心する存在になっていた。
不思議なものだ…一日ずつ一緒に居ただけなのに。
ワタシは双子の手を握ると、
双子はワタシの手を嬉しそうに握る。
楽はワタシの手を胸元にギュッと握り、
樂はワタシの手を口元にギュッと握る。
ワタシもそんな双子の体温を感じて、安心して眠る。
こんな平和な日々がずっと続くといいのに…。
そんな事を思いながら、
双子の暖かい体温と共に、ワタシは眠った。
六話に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます