第2話 月面到着
月へついた。
ここからでも地球は肉眼で見える。真っ暗な闇のなか青く輝きながら頭上に君臨するそれは、私たちに微笑みかける女神のようだ。どこまでも深い慈愛を感じる。
かつてアポロ11号が初めて着陸したという月の大地に足をおろす瞬間には、胸が高鳴った。かつて、その成功は命がけの英雄行為であり、むしろ蛮行と呼ぶほうがふさわしかったかもしれない。今、全自動操縦でここまで来られるようになった人類の科学の進歩はめざましい。
とはいえ、いつまでも感慨にふけってばかりもいられない。月についたら、まずやらなければならないのは、酸素ボンベの残量が充分なうちに、先発の宇宙飛行士たちが築いた基地へ移動することだ。宇宙船のなかにいれば、酸素は一ヶ月は持つ。だが、ここの装備は完璧とはいえない。永住の地にはできないのだ。
「ここがもう月だなんて、なんか嘘みたいだなぁ。さ、みんな、出発するか」
言いだしたのは、
亜蘭は女性一人ずつに所定の荷物を背負わせている。コロニーにつくまでの食料や酸素ボンベの予備だ。くわえて、コロニーで育てる植物の種子や、液体水素、機械部品、薬品、衣服の補充など。その他もろもろ。
もちろん、男にも荷物は用意されている。これがビックリするぐらい大きいのだが、背負うと予想を遥かに超えて軽い。月の重力が地球の六分の一だからだ。宇宙船内では無重力になるため、体に加圧する重力ベルトをつけていた。筋力の低下を抑え、身体機能を保てる。この加圧装置をオフにすることで、地球ではスーパーマンかスーパーウーマンじゃないと不可能な量の荷物を誰でも運べる。
「最終的には宇宙船も解体して基地に運ぶんだ。基地の材料になる」と言ったのは、最年長の
「ここがノービレ・リム1だから、シャクルトンまで、さほどの距離じゃない。うまく南極付近に着陸してくれた」
それでも数十キロはあるのだが、前述のとおり、月の重力は軽い。きっと、今日じゅうには基地につける。
「わっ。スゴイ。こんなに跳ねる」
「ウサギみたい」
女の子たちがはしゃぐのもムリはない。これだけの荷物を背負っているにもかかわらず、ふつうに歩くだけでピョンピョンと体が浮く。誰が一番高く跳べるかだの、最初は楽しくやっていた。
合コン移民なんて言われようと、同年代だけで
女の子は来生詩音、紅村柚子香のほか、
もう一人——というか、一体、ロボットがついてきている。船内で宇宙船のオート操縦から地球との交信まで、すべての機械操作をになってくれたAIのアイだ。アイは乗船時には船と一体化できるが、ふだんは独立して移動可能な分離型AIだ。一隻ごとに高度なAIを搭載し使いすてにするより、分離稼働式にすれば、何度でも再利用できる。
いずれは地球と月を往復できる宇宙船で大勢の移民を運ぶ。そのときアイは地球行きの便で回収される予定だ。それまでは、おもに月面での作業要員だ。
「ところで、コロニーとは連絡とれたの?」
私はリーダーのウラシマをふりかえった。ウラシマは首をふる。
「いや、まだ。着陸後すぐにアイがコンタクトとってるはずなんだが」
言いつつ、彼がアイを見ると、ひと昔前のSF映画に出てきそうなレトロな寸胴型のロボットは頭部にならんだセンサーをピカピカ光らせた。
「まだ連絡とれません。ずっと交信はかけています。磁場の影響ではないようです」
どうにも謎だ。地球を出るときには、月基地から管制塔に定期連絡が届いていた。だが、私たちの船からの呼びかけにはまったく応えてくれない。こちらの船が出発することは管制塔が伝えてる。私たちの到着は知ってるはずだ。定時以外の連絡をすべてシャットアウトするなんてありえないはずだが。
「月は成層圏がないから電波が乱れやすいんだろ。太陽風の影響を受けやすい。おれらが行ってしまったほうが早いよ」
なんて、亜蘭は言うが、どうにも不安がぬぐえなかった。もしかして、我々が一般人だから歓迎されてないのだろうか? いや、それならまだしも、もっと別の理由が……?
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