第21話 在庫がなければ・・・

「結局、どう転んでも私は、詰んでいるということですね」

シーラは自嘲気味に言った。

「まあ、人の幸せをどこに置くかですかねー、皿洗いが悪いかどうかは分かりませんよ」

アンは…、いや、まだ評価を上げるのはよそう。

「あんたね、他人事だから、簡単に言うけどさ…無理だよ、私には…」

シーラはアンに文句を言うと力が抜けたのか床に座り込んだ。

「確かに私も、紅茶を取り上げられる人生なら、彼女と同じ意見かもしれません」

ロックが自分で淹れた紅茶を飲みながら、軽い口調で言う。

「嫁が紅茶に負けるの?」

「失礼な!妻は私の全てですよ、それに人と物を比較するものじゃないですよ、王女、いや室長」

ロックにまで、諭されてしまった。

「そうだ、室長様、私に殿方を紹介してくださいよ」

シーラが床に座り込みながら私に言った。

「はぁ」

私は彼女の言葉に、驚いたし、呆れた。

「どんな殿方でもいいです、室長が推薦された方なら」

「貴女、本気で言ってるの?」

「はい、お願いします室長」

確かに、誰でもいいって、言ったわよね、この私に。

…しかし

「ごめんね、殿方のそういうリストはないの」

思えば、片付いたカミラ、ナディアには殿方を探していない。

そうよねある程度、結婚したい殿方を抑えるのも…、難しいかな。

「えっ、嘘!」

シーラは驚いた。その気持ちは分かるけど、無いものはない。

「本当なんですよ、婚活支援なんて、そういう男女のストックがあった方が簡単ですよね、近々、私から進言しようと思っていました」

ロックが自席に戻って、ほらっと書きかけの提案書を私に見せる。

「やはりストック型ビジネスですよ、やっぱり」

ロックの口からストック型なんたらって言葉が出てきて唖然とする。

「お茶屋は、色んな種類のお茶をお客様のためにストックしていますよ」

それは正論なのだけど、さっき貴方、人と物を比較するべきじゃないって言ってないかな。

それでもロックの話に少し乗ってみる。

「お茶屋さんは、お茶をどこからか仕入れるじゃない?問屋さんとか農家さんから」

「そうですよ、それが?」

「人気になりそうなのお茶が、多数のお茶屋さんも気がついたら?

「そうですね、より高値で買う…、問屋に先に行って買っちゃいますね」

「ありがとう、ロック」

私は、彼に明日のお土産を買ってくるように指示を出した。

「貴方の奥様にも、お茶を一包み買ってあげる」

私がそう言うと、彼はうれしそうに出かけていった。

「お優しいのですね」

シーラは私に言うと、私はふふんと笑って答えた。

「功績があれば褒めるのは当然だわ」

「なんの事やら、さっぱり…」

「それが私が貴女を大嫌いなところよ」

そして私は、アンに振り向いて言った。

「ロックにそれが使えない理由を後で教えてあげて」

「後でって」

「今から、シーラに私の推薦する殿方を合わせるから手伝って」

「えっ、リストは無いって、おっしゃいませんでした?」

私はアンに頷いた。

「無いなら、直接仕入れればいいのよ」


アンとシーラに命じて支援室の椅子を二つ廊下に出してもらった。

遠くでこちらを不思議そうに見ている人がいるけど、決して近づいてこない。

「何をなさるおつもりですか?」

シーラは不思議そうに私に尋ねる。

私は、その一つの椅子に座って、空いた椅子にシーラを薦めた。

「ここで待つのよ、私が貴方に推薦する殿方をね。楽しみだわ、どんな殿方が通りかかるかしら」

「えっ、そんな…」

さすがにシーラは絶句する。

「ねえ、シーラ聞いて、いい殿方はリストには載らないものよ」

「室長は、私が大嫌いって…」

「そう大嫌い、それでも室長だもの。公務としてやるわよ」


いきなりの事なので、廊下に出された椅子に座ったまま、シーラとルールを決めた。

・目の前を通り過ぎる独身男性を誰であろうが私が彼女の事を薦める。

・シーラには断る権利は無く、速やかにその男性と結婚する。(3年間は離婚不可)

・シーラがもし私が薦める男性を断った場合、厳罰に処す。

これが大まかな決め事。

「さあ、終業の時間までに、殿方を見つけてあげる」

「本気ですか?これ、恥ずかしくないですか?」

そうシーラに真顔で訊かれたけど、そりゃ、恥ずかしいわよ。

「恋愛ってね、傍から見たらとても恥ずかしいものよ」

そんなことを、平然と言ってのけてしまった。

もちろん私の実体験ではないわ、以前読んだ何かの本の受け売りだけどね

「・・・」

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