第4話 頂点の底辺


カンカンカン___



 ギルドへの登録を終えて「サイコロ」のクランハウスにまた足を運んだのはいいのだが.....



「.....何してるんですか?」



 目の前で座り込んで作業をしている男性に声をかける。



「何って....見てわからない?修理だよ。君たち受験者が昨日ドアを雑に開きまくったせいで、蝶番がイカれて変な音出すようになっちゃったからさ」



 今、クランハウスの扉は完全に取り外されていて、中が外からでものぞけるようようになってしまっている。自分はやっていないのだが...なんとなく申し訳なくなってくる。



「え...と、すみませんでした。今日からお世話になります、シズクと申します」



「シズクさんね....よろしく。僕はリベリオン、リベでいいよ」



 そういう彼は「サイコロ」の中でもあまり名前を聞かないほうだ。確か補助系の役職だったはずだが....実際体格はあまりよくはなく、力比べなら勝つことができそうだ。白衣にも見える服に、伸びきった黒い髪はまるで研究者といった風貌をしている。



「わかりましたリベさん。ところで、メイさんに挨拶をしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」



「あー入ってすぐの階段を上ったところの正面の部屋だと思う。ボスは基本そこにいるから。あとはまぁ、君の場合はレインには気を付けてね」



 おそらく昨日メイの腕を切ったせいだろう。



「レインさんに.....わかりました。ありがとうございます」



 いわれた通りクランハウスに入り、その正面にある螺旋状の階段を上ると目の前にいかにもといったような大きな金属の扉が現れた。ノックが向こうに響くかはわからないが一応ノックしてみようと思い、右手を上げると、まだノックしていないというのに「どうぞ」という声が返ってきた。声の感じからしてレインだろうか。先ほど注意されたばかりのため、気を引き締める。



「失礼します」



 見た目の割に軽い扉を開けると、立派な彫り物がしてある木製の机の上に腕を組んで、昨日となんら変わりのない笑顔を浮かべているメイがいた。クランマスターらしくオーラを放っている感じは、相変わらずしない.......のは、レインの膝の上に座らされているせいかもしれない。視線に気づいたのか、アハハ...と苦笑いするメイ。



「ようこそー......レインのことは気にしなくていいよ?昨日のあれからずっとこんな感じなんだー」



「昨日は、その.....すいませんでした」



「謝ることないよ?だって私に一撃入れるのが条件なんだから、仕方なくない?」



「それは、そうなのですが.....」



 できるだけ気にしないようにしていたが、先ほどからレインの殺気がものすごい。まるで喉元に刃物を突き付けられているんじゃないかと錯覚するほどの鋭さ。故郷にいた時もここまで洗練された殺気を放つ者はいなかった。



「それで、私は何をすればいいんでしょうか」



「今すぐ!しn)ムグッ



 レインが何か言いかけたが、メイによって口をふさがれてしまう。しかし、改めて見るとメイもだがレインも容姿がとても整っている。しっかりと手入れされているのだろう肩下程度まで伸びた茶髪、シワ一つないメイド服に似た黒地に白い刺繍の入った服装、メイと似た金色の目。先ほどあったリベも少し整えたら男前になりそうな顔立ちだった。このクランは美形ぞろいなのだろうか。



「本来なら今まで通りでいいよーっていうんだけどね」



「今まで通り、ですか?」



「うん。今まで通りやりたい依頼をこなして、暇な時間は趣味に使っていいよーって」



 正直信じられない話だった。クランにはクランを指名して大きな依頼が来る。本来クランはその依頼に奔走することになるはずなのだが、それを一切しなくていいということなのだろうか....



「クラン宛ての依頼は私とレインだけでできちゃうからねー。ほかのメンバーは各々やりたいことやってるんだよね、みんな才能あるからそのほうがクランにも帝都のためにもなるし」



 確かに「サイコロ」のメンバーはいろんな分野において活躍している。戦闘から学問、発明に至るまで「サイコロ」の名前を聞かないものはないほどだ。先ほどのリベリオンも冒険者とは他方面で名が知られているはずだ。



「しかし、本来ということは、私は違うということでしょうか?」



「そうだね、シズクには私たちと同じようにクラン宛ての依頼をこなしてもらう」



「.......はい?」



 もちろん私だって腕に覚えはある。あるが......



「しょ、正直「サイコロ」のクラン依頼を、皆さんに加わるといっても私を含めた3人でこなすのは難しいと思うのですが.....」



「なにいってるのー?」



 そう言いながらニッコリとほほ笑むメイ。可憐な少女の微笑みだというのに、それはどう見ても悪魔の微笑みとしか形容できないほどに、恐怖を感じるものだった。




「依頼にはシズク一人で行ってもらうよー」



「はい?!?!?!」



「あ、あとシズクの特訓はレインがお願いねー」



「ムグ?!?!?!?」



「それじゃ、そういうことでー」



 それだけ言い残して机の紙の束から一枚を無造作に抜き取って、部屋から出て行ってしまうメイ。バタン、という音ともに部屋には私とレインしかいなくなってしまった。ちなみに、このやり取りの間、レインの殺気に肌を焼かれっぱなしだった。



 瞬間、さらに殺気が鋭く首筋をさしてきた..........かと思えば、ふっと殺気が消えた。



「はぁ.....相変わらず無茶なことばかり言いますね、メイ様は」



「あの......メイさんはどこに行ってしまったんでしょうか」



「さぁ?私も存じ上げません。依頼に出かけた、ということしか」



 そう言ってポンっと机の上の紙束に手を置くレイン



「ここにある書類は1枚1枚がすべてクランへの直接依頼になっています。それをメイ様はこなしに出て行かれたのでしょう」



「一人で?!」



「.....何か勘違いしているようですから申し上げますが、我がクランのメンバーは全員が一人でこれらをこなす能力を持っています。メイ様に任された以上、あなたにも最低限この程度はできるようになってもらいます」



 普通、難しい依頼はたくさんの情報を必要とするため、難しくなるほどに渡される書類の枚数が増える。しかし、レインは先ほど1枚1枚といった。それはつまり、情報がほとんど手に入っていないような危険度の異常に高い依頼だということだ。まぁ当然なのだろう。帝都1のギルドに充てた依頼なのだから。というかリベリオンも一人でこなせる......勝てそうとか思ってしまってごめんなさい。



 ガタッ



 椅子から立ち上がって部屋を出ていこうとするレイン。



「今から特訓でしょうか?」



「いえ、特訓は明日からにしましょう。明日の朝、ここに来てください。私は今から夕飯の支度をします。そうですね、あなたも手伝ってください」



「え、いや、私は宿でご飯をとっているので.....」



「何勘違いしているんですか、メイ様用です」



「え?いや、メイさんは今依頼に出たばっかりだから今日は帰ってこないんじゃ....]



「メイ様は何か理由がない限り依頼に半日以上をかけることはありません。ぼさっとしていないでついてきてください、厨房に行きますよ」



 


 ......................私はこのギルドに入ってから何回頭を抱えることになるのだろうか。




「帰りに頭痛薬を買いに行こう」

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