第11話

次の日、俺はいつも通りダンジョンに潜った。

もちろんDランクダンジョンだ。


なんでCランクダンジョンに潜らないのかって?

前も言ったと思うが、俺は今ライセンスを持っている。

昨日ダンジョンをクリアしたことで、ランクが上がったのはシンデレラ状態のライセンスだ。


配信は好評だったようで、すでにチャンネル登録者は十万人を超えた。

切り抜き動画?というものもたくさん上がっているらしく、ミンツイや掲示板ではいまだに話題となってるようだ。


「攻略する前に、昨日ゲットしたスキルポイントを使うか」


昨日倒したボスのおかげで、俺のレベルは三十レベルになった。

現在使えるスキルポイントは二つだ。


〈スキルツリー〉

途端に大量のスキルツリーがずらっと並ぶ。


昨日の戦闘で分かったことがある。

力じゃ敵は倒せない。

身体強化がAランクになってパワーやスピードが大幅に上がったが、一撃は重くなかった。


武術スキルがないからだ。

今のところ、力任せに剣を振り回してるだけに過ぎない。

だから、一つは【剣士】スキルを取った。


試しに剣を握ってみると、昨日とは違って手に馴染んでるような感覚がした。

ちょうどゴブリンを見つけたので早速切りかかってみた。

昨日よりも少ない力で振り下ろされた剣は、ゴブリンの首を跳ね飛ばす。


「力の消耗も少ないし首もあっさり切れたな」


改めて武術スキルの大切さを感じる。

【剣士】を取って正解だった、そう思いながら下の階層へと降りて行った。




「よし、戻ってきた」


特に問題もなく最下層まで進んだ。

レベルも二つ上がり、明らかに少し前より身体能力が高まったことを実感した。

ボスもそこまでかからずに見つかったので、早速ボスへ攻撃を開始した。


【魔力精製】


オークが振り下ろした棍棒を避けながら魔力を練る。

昨日みたいに無属性魔法で足場を作るなんて高度なことは今はできない。

だから今日は違うことを試すことにした。


【風魔法・ウィンドカッター】

そう呟くと、背後に魔法陣が二つ現れて風の刃がオークの目を襲った。

Cランクの初級風魔法。

本来ならそこまで威力はないが、俺が放ったウィンドカッターはオークの目をがっつりと抉った。


「魔力精製本当便利だな」


二日連続で目を傷つけられたオークに少し同情しながらも、容赦はなしに切りつけた。

流石に一度じゃ死なないが、何回か斬ると体力バーが零になった。


「よし、攻略完了」


あっさりと攻略できてしまって少し物足りないが、今日も夜に少しだけ配信する予定なのでおとなしく帰ることにした。

魔石を証拠として持ち帰り、帰還のゲートをくぐる。


いつもの窓口で紬さんにライセンス更新を申し込み、少し雑談した後スーパーに寄った。


「パスタが安いな...ナポリタンでも作るか」


主婦のように厳選しながら買い物をして、帰ろうと自動ドアを潜った。

その時だった。


向こう岸の歩道に見覚えがある顔が見えた。

忘れるはずがない。

一か月ぶりのその姿に、心臓が苦しくなった。


「はぁ、はぁ」


息が詰まり、うまく呼吸が出来ない。

幸い向こうは自分に気づかなかった。

気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。


玄関のドアを開けると、いつもの匂いに少し安心する。

だが家についても吐き気は止まらず、トイレでえずく。


しばらくして落ち着いてきたので、ソファに横になった。


出会ってしまった。

その事実が恐怖心を煽る。

髪も服も違ったからか今回は気づかれなかったが、次は分からない。

そんなことを想像して怯える。


「よし、寝よう」


起きてるといろいろと考えてしまうので、寝て気持ちをリセットすることにした。

幸か不幸か、中学の時は学校にいきながら家事をやっていたので睡眠不足を補うためにどこでもすぐに寝れるようになっていた。

目を閉じると、だんだんと意識が朦朧としてくる。

一分後、すでに俺は眠りについていた。





「.............きて。凛君起きて」


体を揺すられながら耳元で喋りかけられ、俺は目を覚ました。

頭を起こし壁にかかってる時計を見ると、すでに時刻は七時を回っていた。


「おはようございます」

「おはよう。昼寝なんて珍しいね」


すでに銀色に変化している髪を後ろに回して、紬さんにおはようという。

ふと、買い物から帰ってきてから何もしてないことを思い出す。

だが、テーブルをみると作った記憶がないナポリタンが二人分用意されていた。


「パスタが買ってあったからナポリタン作ったんだけど大丈夫だった?」


どうやら紬さんが代わりにやってくれたようだ。


「あ...俺もナポリタンにしようと思ってたんですよ」

「そうなの!すごい偶然だね」

「そうですね」


なんてことないことなのになぜか少し嬉しくなった。


「いただきます」


久しぶりの紬さんの料理は、俺のと違ってなにか暖かい物を感じる。


「代わりに作ってくれてありがとうございます」

「いいのいいの。いつも作ってもらってるからさ」


お金を払えてない分俺がやらなきゃいけないことなのに、何にも気にしてない様子でナポリタンを食べている。

全てがあの人とは大違いだった。


なんてことないことを喋っているとすぐに食べ終わってしまう。

食器を洗い、風呂に入って一緒にテレビを見てくつろぐ。





迷っていた。

今日のことを言いたかった。

でも、言えば紬さんに余計な迷惑をかけてしまう。

それが怖くて、言うのを躊躇う。


時間は待ってくれない。

悩んでるうちに、いつのまにか配信をする予定だった時間が近づいていた。


今日は質問に答える配信をする予定だからダンジョンには行かなくていい。

カメラを家の中で起動し、準備をする。

紬さんはカメラの映らないところで見守っている。


切り替えるために、悩んでたことは胸の中にしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る