第23話 絡む謎
翌朝。
アデレートはルートヴィーズと共に出勤。
アデレートはミツに食事を与えながら、頭を撫でてやる。
ルートヴィーズはベッドメイキングへ二階に。
今日はあの黒ヒゲ男がチェック・アウトする日だ。
ルートヴィーズは目覚まし代わりにドアをノックしようとする。
ドアがわずかに開いている。
失礼ながらドアを開けると、そこからベッドが見える。
異常を察知。
ユグナの顔色が奇妙だ。
口から泡を吹いていたあとがある。
胸には短剣が刺さっていた。
ルートヴィーズは駆け寄り、肩をゆさぶってみる。
すでに息はない。
コンコン。
ノック。
「やぁ、おはよう。ルー・・・」
偶然通りがかったロイドが部屋をのぞきこんでくる。
血の気のひいた男の姿を見て、停止。
目を見開く。
ルートヴィーズは大きくかぶりを振る。
「どういうことだっ・・・?」
二人は急いで一階へと降りる。
ロイドは小荷物を持っている。
「まずいことになったっ」
「どうした?ふたりとも」
「まずいことになった。上で客がひとり死んでるっ・・・」
「は?」
「よりにもよってっ・・・」
「ひとが死んでる?」
「そうだよっ。まずい。俺が疑われるっ」
「ひとが死んでるって?」
「だからそう言ってるだろっ。俺はやってないからなっ。サツに見つかると本当にまずいんだよっ。俺はいなかったことにしてくれっ」
「誰が死んだって?」
ルートヴィーズは指を三本しめす。
「三号室?あの黒ヒゲ・・・」
アデレートはカウンターから出る。
ロイドは出入り口に向かう。
「記帳から抜いておいてくれっ」
「書いてない」
「え?」
「書いてない」
「ああ、ありがとう。俺は逃げるからな」
「どこに?」
「分からない」
「私の家に」
三人の視線が集まる。
廊下から出てきたリク。
ポケットから鍵を出して、ロイドに向かって放る。
ロイドはそれをキャッチ。
「いいのか?」
「早く行ってっ」
「リク、他の客を見ててくれ」
アデレートは二階へと小走りに向かう。
あとからルートヴィーズが着いて行った。
ロイドは急ぎ足で入り口から出て行く。
それを見ていたテーブル席のダグラスは、にやりと口元を上げた。
* * *
警察軍が到着し、当然泊まり客と店主、店員が疑われた。
事情聴取。
検視結果、黒ヒゲのユグナは毒を飲んだようだ。
自分の意思で飲んだのかは不明。
しかし抵抗のあとは特にない。
胸を短剣で刺したのは、死んだあと。
つまり誰かが刺したのだ。
しかも彼の身元を調べた結果、荷物からポリスであることが分かった。
何のために店に泊まっていたのかも不明。
しばらくは、客が寄り付きそうも無い。
* * *
「血色帽子が泊まってたそうだなぁ?ええ?おい」
―・・・夜。
店の雰囲気が落ち着きを取り戻しつつある頃、どこからそれを聞きつけたのか、《キンコウセン》が店に現れた。
アデレートは冷静を保ちつつ、聞く。
「どこからの情報で?」
バン、とカウンターを叩かれる。
「聞いてるのはこっちだっ」
「なんのことやら・・・記帳をごらんになられます?」
「つうことは記帳してねぇんだな?情報通りだ」
ひっかっかった。
その情報を知っているのは、あの時間、店にいた者だけだ。
客の中にスパイめいたことをしているヤツがいる。
アデレートは困り顔を作る。
目を観察される。
数秒の間―。
「ああ・・・なるほど。言うな、とか言われたわけか・・・」
沈黙。
「分かった。もういい。あいつで決まりだ。行くぞ」
数人が流れて行く。
アデレートは思った。
約束通り、何も話してはいない、と。
そして数秒後、アデレートは入り口に勢いよく振り向く。
ロイドの居場所を思い出す。
リクが、危ない。
* * *
数人の男達の群れ。
「ロイドさんは?」
「ヴィーキツの看板娘の家にいるらしい」
「どこからの情報だ?」
「客だよ」
「秘密基地がやられたことは?」
「もう耳に入ってるらしい」
「どこに隠れてたんだよ?」
「知るかよ。それよりもロイドさんが危ない。様子を見に行こう」
「女の家?」
「もう調べてある」
「なぜ?」
「あの女・・・」
「なんだよ?」
「いいから行くぞっ」
* * *
自宅。
アデレートは髪を拭きながら、窓を開ける。
夜風にあたる。
嫌な予感がしている。
客の誰が喋ったのかは分からないが、リクが危険だ。
そして警察軍にそれを言うわけにはいかない。
気になってしかたがない。
上着を着る。
「ルー、ちょっと出てくる」
隣の部屋にいたルートヴィーズが出てくる。
どうしたの?と言いたげな顔。
苦笑。
おでこにキス。
「きっと大丈夫だから・・・」
* * *
ルートヴィーズは窓からアデレートが歩いて行くのを見届ける。
ぼうっと立っていると、ガラスに映った人影に気づく。
振り返る。
そこには、タイリ殺しの犯人が立っていた。
* * *
「ただいま」
「ああ、お帰り」
リクの帰宅。
ロイドとリクは微笑み合う。
「疲れてるだろ?何か飲む?」
「ええ。ありがとう」
ロイドがコーヒーを淹れている最中。
手荒なノック。
ロイドの表情が一変、腰のガンに手をかける。
「誰?こんなおそくに」
リクが聞く。
「《レイガフ》」
「なに?」
ロイドがドアを開ける。
見知った顔。
どうやら本物の《レイガフ》らしい。
「どうした?」
「ここは危険ッス」
「どういうことだ?何故ここを知ってる?」
「客から情報買ったんですよ。たぶんあいつ、《キンコウセン》側にも情報売ってる」
「誰だ?」
「ダグラス、って客ッスよ」
「ダグラス?知らない・・・」
「きっと《キンコウセン》がここを襲いに来ます。あいつらの中じゃ、レネス
「人数集めろ。リク、ここは危険だ」
「どこに?」
ロイドは数秒の思案。
「見つけやすくて、見つけにくい所」
* * *
ノック。
「リク?」
ノック。
「寝てるのか?」
銀髪の青年はドアノブを回してみる。
ドアが開く。
不審感。
嫌な予感・・・。
「リク・・・?」
灯りの消された部屋に入る。
「リク?いないのか?無用心だぞ」
ドアを閉めようとした瞬間、後頭部に衝撃。
アデレートは転びそうになる。
咄嗟に後ろを振り向くと、大きな人影。
「レネスさんを殺ったのはお前だなっ?」
「待てっ。違うっ」
「灯りをつけろっ」
「俺はリクが心配で来たんだっ」
後頭部に鈍痛。
なにか固いもので殴られたらしい。
「声が違うな。ふたりはどこへ行ったっ?」
「知るか。リクはいないんだな?もうここに用はない」
「待てっ」
アデレートは不利を感じて、窓の方へと走る。
「待てっ」
窓を開け放ち、そこから外に出る。
背中越しに灯りがともった。
振り返らずに走る。
「あの銀髪っ・・・ヴィーキツのマスターだっ」
* * *
ぬるりとした感触。
後頭部を押さえていた手を、走りながら見てみる。
夜なので分かりにくかったが、大量の出血をしている。
アデレートは思わず舌打ち。
もしかすると、《レイガフ》側だと思われたかもしれない。
リクの居場所は、きっとロイドが作るだろう。
俺はこれからどこに?
・・・店は?
危険だ。
しかし、自宅もすぐにバレるだろう。
情報を売っている客がいる。
そうだっ。
今度はルーがあぶないっ。
ルートヴィーズッ。
* * *
《キンコウセン》側。
「あのマスターもヤツら側かもしれねぇ」
「おいっ、店にかくまってるんじゃねぇのかっ?」
「行くかっ?」
「そうしようっ」
* * *
「おい、見たかっ?」
「あれ、この間の・・・」
「なんでこんな時間にヴィーキツの・・・」
「タイミングが良すぎるぞ」
「なぁ、なんでロイドさんが賞金稼ぎの女に襲われた時、あの喋れねぇヤツが側にいたんだよ?」
「どういう意味だよ?」
「・・・なんか怪しいぞ」
「あの女・・・さっきの話本当かよ?」
「そうだよ。三人しかいない店で、二人がロイドさんの危険に関わってるぞ」
「そしてマスターまでっ・・・まさかヴィーキツッ・・・」
「ロイドさんに手を出すものには制裁をっ」
「そうだっ」
「おい、やるかっ?」
「当たり前だっ」
「《キンコウセン》に制裁をっ」
建物の影に隠れていた《レイガフ》のメンバー達は、武器を手に《キンコウセン》を潰しにかかった。
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