第18話 秘密のルート

 マスベのギルド本部を後にした俺たちは街へと向かい、エスカの服を仕立てに行こうとしていると、その道中でコカゲが話しかけてきた。


「あの、メフィウスさん仕立て屋に行かれるのですか?」

「巨人族の服を作ってくれる知り合いはいねぇからな」


「でしたら私がお店を紹介します」

「どういう風の吹き回しだ、てめぇは俺の監視をするだけじゃなかったのか?」


「いえ、グルーグ様がひいきにしている店の方が都合がいいと思いまして」

「都合がいい?どういう意味だ?」

「行く先々でトラブルを起こされては困るのです」


 コカゲとかいうガキンチョはずいぶんと大人びた様子でそんな事を言って見せた。生意気だが冷静な言葉は納得せざるを得ないものだった。


「あぁそうだった、俺はすでに死んでいて、いつ殺し屋がやってきてもおかしくない状況だったな」

「はい、面倒は嫌いです」


「そりゃあ気が合いそうだ、じゃあさっそく店に案内してもらおうじゃねぇか」

「はい」

 

 そうして、コカゲの案内で連れてこられたのは、ヴォルト王国の西側に存在する貧民街だった。


「貧民街とは・・・・・・まぁ身を隠すにはもってこいだが、同じだけ危険な奴らも多そうだな」

「そうでもありません、ここの方々は働き者で真面目ですよ」


「なんだ、随分と知った口だな」

「はい、グルーグ様はこの場所をとても気にかけておられますので、私も何度も訪れています」


「へぇ、あの類の男はこういう所とは縁遠いと思っていた、意外だな」

「さぁこちらへ」


 貧民街へと足を踏み入れると、そこらで子どもが楽しそうに遊びまわっており、

女達は楽しそうに談笑している様子が見えた。


 それは、ヴォルト王国の中心街と何ら遜色ない光景に見えた。いや、むしろこっちの方がにぎやかで明るくさえ見えた。


 これまで足を踏み入れたことのなかった場所なだけに、イメージしていた場所と違ったことに感心していると、コカゲは一軒の家の前で立ち止まった。

 そこは仕立て屋らしく糸と針のシンボルを施した看板が掲げられており、コカゲはその店へと足を踏み入れた。

 

 俺達も後をついて店の中に入ると中は案外きれいに掃除されており、並んでいる服や装飾品も決して悪くはないものに見えた。


 そんな店内を散策していると、カウンターに人がいる事に気づいた。


 カウンターで肘をつきながら俺たちの事を見つめていたのはかなり目つきの悪い女であり、耳にはピアス、指には銀の指輪、首には派手な金のネックレスを付けた明らかなるヤンキー女がいた。


 そして、それが俺の知る貧民街の女そのものであり、俺は思わず興奮した。


「そうそう、貧民街の女ってのはこの目つきなんだよっ」


 俺がそういうと目つきの悪い女は俺をにらみつけてきた。


「はぁ?」

「見てみろこの鋭い目つき、幼い頃から嘘と偽善を見てきたやつ目だ、そうだろう女ぁっ!?」


「・・・・・・あんたが誰で何を勘違いしてるのかわかんないけど、あたしは昨日から徹夜なだけだし」

「・・・・・・は、徹夜だと?」

「そうよ、いきなりやって来たかと思えば目つきが悪いとか、失礼にもほどがありすぎるんだけど」


 そうして、目つきの悪い女はそっぽを向くと、コカゲがやってきた。


「あのブランさん私です、コカゲです」

「あぁ、コカゲちゃんいらっしゃい」


 ブランと呼ばれた目つきの悪い女は、コカゲに対してはずいぶんと優しい顔を見せていた。そしてコカゲは俺の事を指さしてきた。


「実はこの方が例の人でして」

「あぁ、この人がそうなの?」


 目つきの悪い女ブランは俺の事を再びにらみつけてくると、ため息を吐きながら立ち上がり、奥の部屋へと向かっていった。


 その間もコカゲはずっと俺を指さしており、俺はその指を払いのけた。


「おい、随分と仲がよさそうだなお前」

「はい、幼い頃からお世話になってます。ブランさんはとても優秀な仕立て屋さんですから、あなたの服を仕立ててもらっています」


「俺の服だと?ここへはエスカの服を調達しに来たんだぞ」

「それは知っていますが、」


「なんで俺の為に服なんか用意すんだよ」

「あなたは特別諜報組織のトップです。それ相応の恰好をしてもらいたいというグルーグ様の意向です」


「なんだその意向は、俺にそれを着ろっていうのか?」

「はい、なんでもそれが制服だそうです」

「制服だと?」


 ブランが再び戻ってくると、そいつは黒のスーツと黒のフロックコートを持ってきた。


「ほら、こいつが注文してたものだ、とっととそのオンボロを脱いでこいつに着替えな」

「オンボロだと?」

「そうだよ、鏡見てみ?」


 ブランは俺の事を指さしながらそう言った。その言葉に俺は近くにあった鏡で自分の姿を確認してみると、確かに見るも無残な格好をしていることに今更気づいた。

 

 思い返せば、ダンジョンで遭難してから今に至るまで、身なりに気を遣う暇がなかったな・・・・・・まさかここまで落ちぶれていたとは。


「確かにこいつは、駄目だな」

「ようやく気付いたんだ、ほら、更衣室があるからそこで着替えな」


「あぁ、だがその前にここにいる巨人女の服を見繕ってくれ、金ならあるだけ出す」

「巨人族ならちょうどいいのがあるよ」

「そうか、なら頼む」


 そうして、俺はブランが持ってきた服に着替えるために更衣室に入った。


 さっそく着替えてみるとサイズや丈がぴったりであり、その不気味な仕事ぶりに強い違和感を感じたが、それ以上に想像以上の着心地に満足しながら更衣室を出た。


 すると、そこには信じられない光景が広がっていた。

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