第7話 死んだ男

 まるで、こういうシナリオが用意されていたかのような状況、メディア連中の早すぎる仕事、それを受け入れる連中。


 すべてが俺にとってマイナスな方向へと進んでいる。


 それは、さっきプリンスが言っていた「世界に拒絶される」という言葉につながっているような気がするが、そんな事実を受け入れられるわけがねぇ。

 だが、ギルド本部の入り口を固める護衛の数は多く、俺を中に入れないという強い気迫が伝わってきた。


 今の俺にとって肉弾戦ほど面倒なことは無い、相手にするだけ無駄か。


 しかし、新聞屋の号外の件もそうだが、ギルドの陥落と俺の死亡という嘘が当然の様に世間に広がり、当たり前のように信じられているのが納得できねぇ。


 なんで、こんな事になっているのか。まずは、その手掛かりをつかむためにも俺は町へと繰り出した。


 だが、町にたどり着いたものの、俺の存在を気にする様子を見せる奴らは一人おらず、話題の中心は「新しい時代の幕開け」という見出しの号外新聞と活気づいていた奴らばかりだった。


 ひとまず、情報が集まりやすい酒場へと向かい、適当にカウンターへと座りって適当に飲み物を注文した。

 酒場で盛り上がる話は俺に対する侮辱の声と、新時代の幕開けに期待する声でごった返しており、最高に居心地が悪かった。


「おい店主、なんで今日はこんな盛り上がってんだ?」


 俺は見慣れた店主に話しかけてみると、奴は普段とは比べ物にならないほどにご機嫌で接客をしてきやがった。


「そりゃあもう、新時代が始めるからに決まってんだろっ」

「新時代?」

「あぁ、大手ギルド「グランバース」のメフィウスが死に、プリンスが率いる「スピネルハート」の傘下が後を継いだ、町の奴らは大層喜んでるぜっ」


 この店主、もっと愛想が無くてボソボソと喋る奴だったはずだが・・・・・・双子とかじゃねぇだろうな?


「お、おい、この状況が嬉しいってのかてめぇ?」

「そりゃ勿論、ところであんたあのメフィウスそっくりだな」


「本人だよっ!!」

「はははっ、あいつのフォンボーイか?悪い事は言わねぇからそんな真似事は早くやめるんだな、そうしねぇと客にぶん殴られちまうぞ?」


 こいつも俺の存在に気を留めない様子で、完全に俺が死んだと信じ切っているらしい・・・・・・つーか。


「なんで殴られんだよっ!!」

「そりゃあ、奴のせいでこの町はずいぶん窮屈な思いさせられたからな、そこにそっくりさんのお前を見つけたら、何されるかわかったもんじゃねぇって事よ」


 どいつもこいつも俺の事をさんざん言いやがって。俺がこの辺りを治めるのに、どれだけの無法者を相手にしてきたのかわかってんのかこいつらは。


「おい、俺はそんなに悪いやつだったか?」

「いや、特別悪い奴ってわけでもなかったが、奴の力のせいで使ってのが死活問題だったからな。それがなくなった今、世間は大盛り上がりってわけだ」


 俺がいなくなってせいせいしてるってか、そりゃ結構なこった。よっぽど俺が邪魔だったらしいなこのクソ野郎どもが。


「つまり、お前は本当にメフィウスが死んだと思ってんだな?」

「そりゃあそうだ、すでに全能の力が新たなギルドマスターに継承されてる上、グランバースがあったギルド本部は、スピネルハートの連中に占拠されてる。こんな状況が許されてるのはあいつが死んだからに決まってる」


 そうして、酒場の店主はのんきな顔で笑いながら他の客の注文を聞き入れていた。

 

 酒場は俺の死を喜ぶ声であふれ、新たな時代の幕開けに喜ぶ様子を見せていた。 


「おい店主、じゃあ新時代ってのは何なんだ?」

「あぁ、今世界各地で功績をあげている連中がいてな、そいつらの事だ」


「そいつらってのは?」

「通称『E7《イーセブン》』これからは奴らの時代だ、これまでの『全能』を覆す『特化型能力者』による世界は目を見張るものがあるぜ」

「何言ってっかわかんねぇよっ」


 頭悪そうな面して難しい言葉を連呼しやがる酒場の店主に苛立っていると、店主が俺の側にある号外新聞を指さしてきた。


「ほら、その号外にも書いてあるはずだぜ」

「なんだと?」


 俺は号外に目を通してみた。


 『新時代の到来・E7の時代来る!!!!!!!』

・新進気鋭の冒険者集団、特筆した能力で世界に革命を起こし続ける選ばれし者たち、彼らの功績はこれまでの停滞した文明を覆す素晴らしいものである。

 

 

 読む気が失せるほど気持ちの悪い見出しと、金の匂いがプンプンとする絶賛コメントの数々に、俺は最後まで目を通すことが出来なかった。


「なんだこのクソ新聞、俺の時はもっとひどかったろっ」

「しかし、メフィウスが生きてたら間違いなくこの時代は来なかった。それは断定できる」


「なんだてめぇ、そりゃあどういう意味だ?」

「ほら、あいつのよくわかんねぇ力があるだろ、MPを根こそぎ持っていくやつ、あれをされちゃあ皆困るんだよ」

「それの何が悪いっ?」


 俺が叫ぶと、酒場の明かりがちかちかと点滅し始めた。その様子に店主の男が何かを思い出したかの様に喋りはじめた。


「そうそう、こういう感じであいつの機嫌一つでインフラがだめになっちまうんだ」

「だったら、昔からあるロウソクとか使えばいいだろ?」


「魔法の方が安全に決まってんだろ」

「そりゃあ」

「つまりよ、魔法の根源であるMPをかき乱すあいつがいなくなったのは、俺たちにとって最高の出来事だったんだよ、おい、お前ら盛り上がってるかぁっ!!」


 店主の一声で酒場は一気に盛り上がった。で盛り上がる人々の光景に、俺はいてもたってもいられなくなり、そのまま酒場を後にした。

 

 もはや、この世界は俺の居場所なんてないのか?


 そんな事すら思える状況の中、俺は町はずれにある廃墟へとやってきていた。


 そこは、かつて俺がギルド「グランバース」を結成した「始まりの場所」であり、かつての仲間たちの姿が思いおこされた。


 あいつらは今どうしているだろうか?


 プリンスの話じゃ故郷に帰ったとか言ってたし、今もこの街歩いててもギルドメンバーの一人にも会いやしねぇ。 

 いや、あんな奴ら元からただの役立たず、おまけに裏切り者だっていやがったんだ、感傷に浸る理由なんかねぇ、それにあの雑用係も・・・・・・


「俺になんの用だ」


 人が柄にもなく感傷に入り浸っているってのに、そんな事すらさしてもらえないらしい。

 そうして俺は振り返り、酒場を出るときからずっと付きまとってきていた奴らへと目を向けると、そこには如何にも近接戦闘が得意そうな肉体派の戦士が数人揃っていた。

 だが、そいつらを率いているのは細身で顔を奇妙な仮面で隠した男であり、そいつが俺に話しかけてきた。


「やはり生きていたかメフィウス」


 どうやら、こいつらは俺が生きているという事を認識しているらしい。不思議なもんだな。


「誰だお前、プリンスの送り込んだ殺し屋か?」

「これから来る新時代に貴様は不要だ、死んでもらう」


「おいおい人違いじゃねぇか?メフィウスは死んだんだろ?」

「そう簡単に死ぬような奴でない事くらいわかっている」


「そうか、それで俺をやりに来たってのか?」

「貴様の手の内はすでに研究済みだ、おまけに全能の力も失っている。ここですべてを終わらせる」


 そうして仮面の男は率いている肉体派の男たちを俺にけしかけてきた。

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