第10話 停止した世界で
栞姉さんと対面で座っていた俺は、違和感に引っかかっていた。
何かおかしいと、周りをキョロキョロと見渡していた時、ふと目に入った窓の外の景色で違和感に気づいた!
「○○タワーが二つある?!」
俺の住む県で有名なシンボルタワー。
俺の認識では、○○タワーは一つのはずだ!
二つ目が建設されたなんて、ニュースでも見たことがない。
俺が、こっちにいない間に建設というのも考えにくい。
ではこれはいったい、どういうことだ?
俺はすぐに栞姉さんを見ると、栞姉さんは笑っていた……。
「あら? やっと気づいたのね、太ちゃん」
「……あなたは誰だ?」
「栞よ、久保田栞。
太ちゃんの、久保田太一の二番目の姉よ。
ただし、この世界の、だけどね?」
「……この世界?」
何を言っているんだ?
この世界の、栞姉さん?!
「まさか……」
「あら、その表情はようやく気付いたのね?
太ちゃんが、別の世界に来てしまったんだってことに……」
「嘘だろ……」
「私だって、信じられなかったわ。
太ちゃんが目の前に現れてね?」
「……この世界、俺がいた世界に見えて、まったく別の世界だったのか……。
! この世界の俺は?!」
「いないわ。
……昨日いなくなってそれっきり。
今頃は、どこで何をしているのか……」
……この世界の俺がいないということは、タイムパラドックスの危険はないってことか?
でも、これからどうしたら……。
「それじゃあ、栞姉さんがここにいるのは……」
「たまたま太ちゃんを探しに来て、あなたが玄関から入ってきたから間違えちゃったのよ……」
「……間違えたということは、どこで俺があなたの知っている太一じゃないと?」
「ん~、あなたを抱きしめた時かな。
いつなら、すぐにはねのけるのにそのままだったでしょ?
そこで違和感を覚えて、あとは会話で確信したわ。
目の前にいる太ちゃんは、太ちゃんであって太ちゃんじゃないって」
……あれ? ちょっと待てよ。
異世界から帰ってきたとき、確かに俺は自分の世界に帰ってきたはずだ。
駅からアパートまでの通り道で見た、○○タワーは一つだけだった。
じゃあ今、この窓から見えている二つの○○タワーは……。
「あの! さ、さっきはどこに連絡を……」
「連絡?」
「はい、さっきスマホで誰かに連絡を……」
「おかしいわね。私、連絡なんかしてないけど……」
「いや、確かに誰かに連絡を……」
おかしいわねと困惑しつつ、栞姉さんは自分のスマホを取り出して、履歴を確認する。
すると、栞姉さんはますます困惑しだした。
「発信履歴はあるのに、番号が空白になっている……?」
「え?」
その時、音が消えた。
(え? ッ?! う、動けない!!)
俺は、指一本動けなくなってしまう。
何とか動けないか頑張ってみるが、何もできない……。
(ど、どうなって……ッ!)
いきなり、俺の目の前に金髪碧眼の美人が現れた!
そして、俺と目が合ったことが分かると、にっこりと笑顔を見せた。
―――聞こえてますよね? 久保田太一さん。
(ッ!! だ、誰だ……?)
―――よかった、意識だけの解除がうまくいった。
―――初めまして、私は※;#:¥です。
(……え?)
―――ああ、私の名前は理解できないでしょうから天使とご理解ください。
(天使、ですか?)
―――あら、信じられませんか? 翼を生やした方がいいかな?
(あ、いえ。今のままで、大丈夫です)
―――よかった~。
―――わざわざ、この世界に連れてきたかいがあるってものです。
動けない俺の前で、ギリシャ神話に出てくるような白い服を着た美人の女性が話しかけてくる。
ただし、天使と名乗った彼女の声は直接は聞こえず、俺の頭に直接響いていた。
(そ、それで、俺に何か……?)
―――あなたに、忠告をしておくように言われましてね?
(ちゅ、忠告?)
―――久保田太一さん。
(は、はい!)
―――異世界の力を手に入れたようですが、くれぐれもよく考えて使うように。
え? 異世界の力って、ダンジョンマスターのことだろうか?
よく考えて使えって、どういうことだ?
むやみに使うなってことなんだろうか?
(あの、それはどういう意味でしょうか?)
―――ウフフ、分かっていて質問してますね?
(あ、い、いえ、それは……)
―――まあいいでしょう。答えてあげます。
―――よく考えてというのは、世界を混乱させるようなことをするなということ。
―――ダンジョンという力は、善悪関係なく混乱を招きますから。
(は、はあ……)
困惑した表情で、天使は何かを思い出すように言っている。
もしかして、ダンジョンの力で混乱が起きたんだろうか?
(あの、ダンジョンの力で、何かあったんですか?)
―――こことは違う世界の話です。
―――異世界でダンジョンマスターとなった男が、世界を混乱に落としたのよ。
―――しかも今も絶賛、大混乱中よ。
―――本当に、どう収集をつけるつもりなのか……。
(そ、それはまた……)
―――だから、私が忠告するために派遣されたのよ。
―――いいかな? 絶対に、ダンジョンの力で世界を混乱さえないように。
―――分かったかな?
最後は、真剣な表情で注意された。
しかも、心の底から恐怖を感じるほどの威圧を掛けられて。
だから俺は、少し涙目で返事をした。
(は、はい! 分かりました……)
―――よろしい!
―――では、元の世界へ戻りましょうか。
そう聞こえた瞬間、俺の足元の床が消えた。
(え?)
そして一瞬の浮遊感の後、俺は落ちていった。
底のない暗闇へ……。
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