第9話 姉さんとの会話



都市伝説にあった異世界への道があった○○県の隣、そこの□□市にある×〇駅から徒歩五分のところに、俺が一人暮らししているアパートがある。


築三十年で結構古いが、二階建てで一部屋一部屋がマンション並みに広いので、即決で決めたのだ。

また家賃も、学生割があって月三万円と安いのも決め手になっている。


そのアパートに、俺は一日ぶりに帰ってきた。


「ただいま~」


玄関のドアを開けて、挨拶をして気づく。

俺今、一人暮らししてたなと……。

実家には、両親をはじめとして誰かしらいたから、挨拶が当たり前になっているようでなかなか治らなかった。


「おかえりなさい、太ちゃん!」

「!? ね、姉さん?」

「……よかった~、本当に無事だったぁ~」


そう言って俺の姉、久保田栞が抱き着いてきた。

俺の五つ年上の姉が抱き着いてくる。栞姉さんは、相変わらず過保護だよな~。


「ちょっと連絡できなかっただけだろ?

大袈裟だよ、姉さん……」

「そんなことないよ!

尚美ちゃんなんか連絡がつかないって、半分泣いていたんだからね」

「尚美姉さんが?」

「うん……」


仕事一筋のような印象しかない尚美姉さんが、俺のことが心配で半泣き?

……想像できないな。


「秋ちゃんも心配してたんだから……」

「へぇ~、あの秋穂がねぇ~」

「もう、太ちゃん呼び方!

太ちゃんの、たった一人の妹でしょ?」

「……あ、秋ちゃん」

「よろしい!」


この姉との会話で分かったと思うが、俺には姉が二人と妹が一人いる。

姉二人のちょっとだけ強い過保護も、俺が一人暮らしをする切っ掛けだったりするのだが……。



部屋に入って着替えを済ませると、リビングのソファに座って栞姉さんが用意してくれたコーヒーを飲むと、栞姉さんが俺の正面に座る。


「さ、何があったのか教えてくれるかしら?」

「何がって?」


栞姉さんにしては珍しく、真剣な表情で俺を見ている。

普段笑顔を絶やさない栞姉さんの真剣な表情、ジッと見つめられて居心地が悪くなる。

悪いことなんてしていないのに……。


「今までも、太ちゃんが一人暮らしを始めても、必ず一日一回は連絡が取れていたのに、どうして昨日は連絡が取れなかったのかな?」

「そ、それは……」

「電話でもメールでも、必ず連絡できていた。

なのに昨日は、電波すら届かない場所にいた。それもおそらく、一昨日からでしょ?」

「っ!?」


……一昨日は確か、朝出かける前にメールで連絡したから、心配していないと思っていたのに……。


「私と尚美ちゃんはね、必ず太一ちゃんのスマホに朝晩に挨拶メールを送っていたの。

ところがいつもなら送れるメールが送れなかった。

この日本ならどこでも受信できるのに、ねぇ~?」


な、何か栞姉さんの目が怖いぞ……。

……もしかして、疑ってる?

やましいことや、犯罪に手を染めたとかって……。


「……太ちゃん、秋ちゃんが教えてくれたんだけどね?

太ちゃん、この夏休みを利用して、どこかに出かけているわよね?」

「!?」

「それ、どこに出かけているのかなぁ~?」

「……」

「もしかして、私たちに言えないような場所なのかな?」

「そ、それは……」

「……」

「……」

「……」

「……あ、あの……」

「別に言えないなら言えないでいいんだよ?

私たちも太ちゃんが、都市伝説検証ツアーなるものを隠したい気持ちも分かるし……」


バ、バレてる~!!

俺が都市伝説にはまって、夏休みを利用して検証ツアーを結構していること、何故バレたんだ……。


「でもね?

そういうのを隠したいなら、旅費は自分で何とかしないとねぇ」

「ッ!」

「太ちゃん、お父さんに借りたでしょ?」

「そ、それは……」

「お母さんに詰め寄られて、即ゲロっていたわよ、お父さん」

「……」


お父さんに、旅費の一部を借りただけなのに、何で知っているんだ?

俺の都市伝説検証ツアー……。



「それじゃあ、もう一度質問するわよ?

昨日は、どこに行っていたの?」

「………い、異世界です……」

「……はぁ~」


栞姉さんが、思いっきり溜息を吐く。

呆れているような溜息だった……。


「……太ちゃん、間違いないのね?」

「ま、間違いないです……」

「本当に、間違いないのね?」

「は、はい!」


ジッと、お互い真剣な表情で見つめ合う。

そしてしばらくすると、栞姉さんはポケットから取り出したスマホでどこかに電話をし始めた……。


「……あ、もしもし、栞です。

今、話しました。繋がっていたようです。

……はい、……はい、本人が認めました。

……はい、都市伝説の検証で、……はい、……はい、分かりました」


そう会話をした後、通話を切る。

そしてスマホをテーブルの上に置くと、俺を見てくる。


「あ、あの……」

「ん? なあに?」

「姉さんは信じるの?

俺の、異世界に行っていたという話……」

「もちろんよ、太ちゃん!

太ちゃんは、大事な大事な家族でしょ?

太ちゃんの姉である私が信じなくて、誰が信じるっていうの?」

「……姉さん」


俺の言う、異世界に行きましたって話を、本当に信じてくれているようだ。

……でもさっきは、どこへ連絡を?

……何か、変な感じがするんだけど……。


何だろう?

栞姉さんの言い方に、何かが引っ掛かる……。

……何だ?


何が引っ掛かっているんだ?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る