第四話:上弦
野球部の指導を終え、疲労感を抱えたまま森は帰宅した。玄関に入った瞬間、部屋の空気の静けさに安堵する。
だが、その安堵の奥底にはどうしても落ち着かせることのできないざわめきがあった。
夕飯を簡単に済ませ、片づけを終えた森は、習慣どおり風呂場へ向かう。服を脱ぎ、それを洗濯機に放り込みながら、自分の身体を見下ろす。
大きな胸、厚みのある肩、腹の肉。124キロの重さを持ちながらも、鍛え上げた筋肉が確かに骨格を支えている。生徒からも同僚からも「頼もしい」と言われる肉体だ。
だが今夜は、その身体がいつも以上に重たく、熱を帯びているように感じられた。
湯船に浸かると、汗と疲労がじんわりと抜けていく。肩まで沈めて目を閉じる。だが──脳裏に浮かんだのは、今日の体育教官室の光景だった。
伊達利寛。童顔に口髭を生やした、明るく快活な男。レスリング部の監督であり、同僚。
あの男が、汗に濡れた肌をさらし、挑発するようにシングレットを引き上げていった姿。
(……やめろ。思い出すな)
そう言い聞かせても無駄だった。半勃ちのはずなのに生地を突き破りそうなほど上を向き、反り立っていた肉棒。
腰を通すときのあの揺れ、そしてシングレットに押し付けられ、はっきりと浮かんでいた形。
その映像が、今も焼き付いて離れない。
「……っ」
森は湯の中で、自分の股間を見下ろした。湯気の中、膨張し始めた肉がはっきりと主張を始めている。
大きな手のひらで覆えば、指の間から力強くはみ出してしまう。湯に浸かりながらも、熱は収まらない。
逞しい太腿に挟むようにして、森は手を動かした。
重みを持つ自身の肉棒を根元から握り込み、湯の抵抗を受けながら上下にしごく。水面が揺れ、ぴしゃりと跳ねる音が風呂場に響く。
「はぁっ……伊達……」
口を突いて出た名前に、森は思わず顔をしかめた。だが止められない。
瞼の裏に浮かぶのは、赤黒く反り立つ伊達の肉棒。あの角度、硬さ、存在感。
「くそ……っ、あいつ……」
否定しようとする言葉とは裏腹に、快感は加速する。大きな胸を上下させ、背中をのけぞらせながら、森は荒々しくしごき続けた。
やがて、熱が腹の底から押し寄せる。
指先に力を込め、最後の一撃のように強くしごいたその瞬間──
「うあっ……!」
声とともに白濁が弾け飛んだ。湯の表面に浮かび、瞬く間に広がっていく。
森は息を荒げ、肩で大きく呼吸した。
「……はぁ、はぁ……やっちまった……」
風呂場の静寂の中で、自分の荒い息だけが響く。罪悪感と、どうしようもない満足感が入り混じる。
伊達の肉体を思い浮かべただけで、ここまで昂ぶってしまった──その事実が、胸に突き刺さる。
湯を抜き、シャワーで身体を流す。だがどれだけ熱い湯を浴びても、頭の中から伊達の姿は消えなかった。
布団に入ったのは、それから一時間後だった。
照明を落とし、暗闇に包まれた自室。畳の匂いと布団の柔らかさが心を落ち着かせる……はずだった。
だが、閉じた瞼の裏に再び伊達の姿が蘇る。
丸みを帯びた胸筋、詰まった腹筋に乗る脂肪。そして、あの堂々とした半勃ちの肉棒。
「……っく」
布団の中で無意識に股間へ手を伸ばしていた。既に勃起は始まっており、パンツと布団を押し上げるほどになっていた。
森は思わず顔をしかめる。だが指を動かすのを止められない。
「伊達……やっぱり、触りてぇ……」
昼間は強引にいなした。職務の自覚もあった。生徒が来るかもしれない、という口実で自分を押しとどめた。
だが今は、自宅の布団の中。誰も見ていない。誰にも知られない。
森の想像は次第に暴走を始める。
もしあのとき、手を払いのけずに受け入れていたら──
あの小柄で逞しい伊達を押し倒し、その童顔を赤くさせながら唇を塞ぎ、自分の分厚い胸で圧し潰していたら。
その映像が脳内で鮮やかに展開される。伊達の太い脚を抱え、尻を割って深く突き入れる。抵抗しながらも、やがて快感に声を上げる伊達。あの肉棒が硬く反り返って自分の腹を突き、汗まみれの身体同士が滑る。その圧倒的な感触が、現実以上に濃厚に浮かんでしまう。
「っは、ああ……やべぇ……っ」
想像の中で腰を振りながら、現実の森も手を上下に動かす。先ほどの風呂場よりも速く、より激しく。
肉が粘液をまとう音が、静かな部屋にいやらしく響く。
「いくぞ……っ、伊達……」
低く呻きながら、快感が一気に突き抜ける。腰が跳ね、白濁が再び迸った。布団や腹に飛び散り、温かく、重たい匂いが広がる。
「……っ、はぁっ……はぁ……二度も……」
大きな胸を上下させ、額に浮かんだ汗を拭う。
疲労感と虚脱感が一気に押し寄せてくるが、その奥には満たされた熱も残っていた。
布団に沈み込みながら、森は小さくつぶやく。
「……伊達……お前、本当に……」
言葉の続きを飲み込み、目を閉じた。
暗闇の中、森の瞼の裏にはまだ伊達の笑顔と、挑発的に揺れる肉棒が焼き付いている。
眠りに落ちる直前まで、その姿が消えることはなかった。
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