第32話 アリスと終戦

 先の二つの話はここに集結する。それは、アリスが想像された世界から、元の世界に帰ってきた時であった。

 突如、世界に亀裂が走った。そこから、アリスとジェスターが放り投げられた。

 

 アリスは、辺りを見回して、自分たちをフラマ、ルーク、ルクスの三人が囲っていることに気づく。また、奥にステラが倒れ伏しているという状況から、勝ったのだろうと。

 それが、自分の予知した未来だということになにより驚いた。

 アリスは未だに自分の固有魔法が何かよくわかっていない。分かっていることと言えば、不思議な魔法、不思議な世界というだけだ。

 ならば、予知や停止などの時間に関係する魔法も使えてもさほど不思議ではないのかもしれない。

 だが、それは人知を超えた力だ。神の領域と言っても過言でないほどの力だ。

 

「ハハ、ハハハハハハ!賭けに失敗したか!」


 そう言いながらも、とても愉快そうにジェスターは笑った。

 ステラが倒れているため、実質一対四である。その状況で笑ったのだ。

 アリスは、そんなジェスターにやはり恐怖を感じる。


「さぁ、やろうか。第二ラウンドだ!!〈賽〉」


 ジェスターは愚者のカードを頭上に投げた。そして、いつも通り賽子となって回る。

 出た目は「肆」だった。効果は自動回復に身体能力強化等だ。

 そして、駆けた。その先にいたのは、ステラであった。

 その時、そこにいた者は気づいた。ジェスターは辺りを見た時から戦う気はなく、ステラを回収して逃げる気なのだと。

 そうはさせまいとルークが動き、〈アルバ〉を発動させる。

 ジェスターにそれが当たり、スピードが落ちる。

 だが、ジェスターもそこで終わる人間ではない。ステラのいる部屋の端の方に行きながら、懐からナイフを数本出して、それを自分の前に投げた。

 そして、そのナイフは爆発する。それによって、教会のジェスターのいる一部が崩れて落ちてゆく。 


「させるかぁぁぁ!!〈火塵魔剣〉」


 ルクスは残る力を振り絞り、〈火塵魔剣〉を生成させて炎の斬撃を放つ。

 それが、ジェスターに当たるかと思った矢先、〈火塵魔剣〉の斬撃とジェスターの間に一人、割り込んで〈火塵魔剣〉の斬撃を切り裂いた。


「はぁぁぁぁぁ、間に合った。ったく、分霊よこしたってのにこのざまかよ」

「すまんすまん、相手をなめてたは」


 そして、そのままジェスター達を乗した瓦礫は地面に衝突した。その勢いによって出た埃等によって生死は分からない。


「念のために一回撃っときます?」


 フラマはルークにそう聞いた。だが、ルークはくびっを横に振った。


「いい、どうせもう逃げている。魂を感じれなくなった」


 アリスはジェスター達の落下地点を見ながら、この戦いを思った。


(はぁ、本当に最後の最後まで運のいい奴)


 最後のあれは、きっとジェスターにとっては大当たりだっただろう。

 この戦いはジェスターにとって良い戦いだったのだろうか。彼らの目当ては、ソロモンの指輪。


(そういえば、【正義】はどうなったのだろうか)


 アリスが気にしている【正義】は、この国の地下に幽閉されているウロボロス教団幹部のことである。

 敵に寝返ったステラが言っていた可能性だが、その可能性は十分にあり得た。

 だが、それ以上にこの戦では失った物は多いだろう。

 

「とりあえず、サナティオと合流してけが人がいないかとか見て回るか」

「ルークさん、動けそうにないんで休んでていいですか?」

「あぁ、あれだけのことをしてくれたんだ。強制はしない」

「私、ルクス君が心配なのでここに残っておきます」

「あぁ」


 ルークは外を見て回り、ルクスとフラマはここに残ることとなった。

 じゃあ、アリスはどうするのかって?そりゃあ決まってる。


「神威も心配ですので、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」

「あぁ。一人じゃ心細かったし嬉しいよ」


 そうして、ルークとアリスは外へと歩き出した。

 外はひどい有様で、あちらこちらが爆破されており、残骸が散乱していた。その下敷きになったであろう聖騎士兵の死骸、思い出の詰まっているであろう品々が見るも無残な姿となっていた。

 これが戦争である。敵の全てを関係ない者含めて不幸にする人為的な厄災。

 それにしても、意外と聖騎士兵は死んでなさそうであった。こんないいかったをするのは、命を軽々しく扱っているようで好きではないのだが、たったの数名程度であった。ほかの者は、足や手を負傷していた。


(それではまるで、彼らが人死にを嫌っているようではないか)

(いやでも、思い出せ。ハーメルン、彼は多くの人を殺し.....いや、待てよ。ただ、寝ていただけだったような気が....)


 アリスは考えれば考えるほど頭が混乱していった。だから、いったん考えることをやめて神威を探す。


「一応、幹部たちと戦ったと言われているところから行くか」

「分かりました」


 アリスは、神威が無事であることを祈るばかりであった。

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