第16話 アリスと襲撃の始まり

 アリスと神威は噴水のある広場に行った。リラックスできそうな空間だった。

 事件はそこでおきた。

 突如それは現れた。邪悪で、邪険で、嘲笑する、そういう人間が。


「やぁ、シエルの国民そしてこの国の頂点に座る者共。私は、ウロボロス教団愚者担当にして、クレイジーサーカス団長のジェスター・クラウンというものだ。君たちに2つ要望がある。」


 男は淡々と道化のように言い放ち、間を開けた。

 彼らはもう来たというのか?あれからそんな時間は経っていないというのに。

 ジェスターは続きを話し始める。


「一つ目、地下牢獄に幽閉されているウロボロス教団幹部【正義】の開放」


 一つ目のこれは昨日、アリス達がステラに聞いたことと一緒だった。


「二つ目、この国に管理されているソロモンの指輪の引き渡しだ」


 彼らはきっと人を殺すのにためらいなんてないのだろう。否、楽しむやつもいるだろう。逆に、やりたがらない奴もいるだろう。

 彼らは、己が楽しければそれでいい、道楽主義のテロリストである。


「そうだな〜、時間は1時間後だ。良い答えを期待している。あぁ、あと一つ、早く決断したほうがいいですよ。ではまた」


 そう言って男は指をパチンッと鳴らす。

 すると、それに反応するかのように噴水は爆発した。男の姿はない。

 二人はこのことを報告するため、急いでステラのいるであろう中央の教会へと飛んだのだった。


 中央の教会に着くと、慌ただしい様子だった。そこの中心で冷静に指示をとっている人がいた。ステラだ。

 ステラは、二人が今来ることを知っていたかのように声をかけてくる。


「やぁ、待っていましたよ」


 ガブリエル―神の言葉を告げる天使、つまり、予言を授ける天使ともとれる。

 つまり、ガブリエルの魔法は予言だろう。前も、予言を受けたと言っていたし。

 だから、二人が来ることを予言していたのだろう。


「先の犯行声明は聞いていたかな?」


 先の犯行声明は聞いた。けれども、二人が聞いたのがここまで聞こえるとは思えない。


「あぁ、彼らはあちこちで犯行声明を放ったのですよ」


 アリスが求めているであろう解を、心を見たかのように答えた。


「そうでしたか。しっかりと聞きましたよ、目の前で」


 ついでに言えば噴水の爆発付きだったが。

 アリスは、爆発とジェスターの声を思い出し身を震わせる。


「よし、それならそこの説明は省きましょう。彼らの要求には何一つ答える気はないですね。なので、戦います」


 要求にこたえることはできないから、倒すか。だが、まぁそちらの方がいい。分かりやすい。


「詳しい配置はまぁ、省略するとしまして、アリスさんは劇場に向かってほしいです」


 劇場―そこに何があるというのだろうか?


「これらのことを言う前に前提情報を言うのを忘れていました。予言で、時計塔、噴水、劇場、十字架のオブジェ、そして此処に来ることがでましてね」


 何がとは言わない。強い何か、きっと、クレイジークラウンの幹部、または、ジェスターだろう。


「劇場には先にソムニウムを向かわしている」


 ソムニウム。確か、あのよく寝ていた子。【治夢】。副シスター長。ラミエルの契約者。

 ラミエル―幻想を支配する天使。幻想つまりは夢ともとれる、そして、彼女はシスターだ。

 夢で人を癒すことで【治夢】。

 人の夢に干渉する能力か何かだろうか?

 つまり、その彼女を向かわせるっていうことは、夢に関する魔法を使う者か。

 そうアリスは、思考をまとめていく。


 なら...


「何故、私をそこに...?」

「適材適所っていうやつですよ。まぁ、行けば分かりますよ」


 ステラが言うのならば、何かがあるのだろう、己の認識していない何かが、とアリスは思った。


「それで、拙者はどちらへ?」

「神威さんには、十字架近くの住人の避難をよろしく頼みたいのです」


 きっと、魔法の特性上の有利なかったのだろう。故に、避難か。

 いや、避難を悪く言うつもりはない。大事なことだし、人の命に直にかかわる重要な仕事だ。

 だが、アリスと比べてしまったのだろう。神威は、なんとも言えないような顔をしていた。


「そんな不服そうな顔をなさらないでくださいな」

「いえ、別に...ただ、アリスとの差がひどいなぁと」

「適材適所ですよ。アリスさんの魔法に用があっただけですよ」


 有利不利の問題だ。故に、神威の炎が有利になる状況はないということなのだろう。


「分かったでござるよ、拙者は避難役をしてるでござる」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」


 ステラは、頭を深く下げる。

 二人はそれを見て、ステラに背を向け、それぞれ目的地に駆けだした。

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