第23話 勇者のスープと平和の宴
――
王都の凱旋
魔王が倒れたその日、王都はかつてないほどの歓声に包まれた。
兵士たちも民衆も、誰もが信じられないという顔をしていたが、やがてその表情は喜びに変わっていった。
「魔王が……本当に倒れたんだな」
「勇者様のおかげだ!」
広場では人々が互いに抱き合い、涙を流しながら喜びを分かち合っていた。王女セリーナは城のバルコニーに立ち、朗々とした声で民衆に告げた。
「王都の皆さま! 勇者佐藤健一殿とその仲間たちが、ついに魔王を討伐しました! 今日この日を、王国の新たな歴史の始まりといたしましょう!」
人々の歓声が天を突き抜ける。ルナちゃんはその光景を見ながら、俺の隣でぽつりと呟いた。
「お兄さん、なんだか信じられないね。あの魔王がいなくなっちゃったなんて」
「ああ。でも現実だ。俺たち、本当にやり遂げたんだな」
ロイドさんは腕を組み、満足そうにうなずいた。
「まったくだ。だがまだやることは山積みだ。まずは……勇者のスープで祝杯だな」
――
平和の宴
夜になると、王城の大広間で盛大な宴が開かれた。
王族も兵士も民衆も、身分の隔たりなく同じテーブルで笑い、歌い、飲み、そして食べた。
もちろん、料理の主役は俺のスープだ。
魔王討伐のために生まれた《勇者スープ》は、この日、平和の象徴として人々に振る舞われた。
「勇者様、このスープは何という名前なのですか?」
兵士の一人が興奮気味に尋ねてくる。
「そうだな……今日は特別だから、『平和のスープ』ってことにしようか」
そう言って俺は大鍋をかき回し、熱々のスープを次々に皿へ注いでいく。
民衆はその香りに目を輝かせ、一口飲むたびに笑顔になっていった。
ルナちゃんはテーブルの上に立ち、得意げに胸を張った。
「みんなー! このスープで元気になったら、明日からは平和な毎日が待ってるからねー!」
兵士や民衆から歓声があがる。
ロイドさんはグラスを掲げ、力強く宣言した。
「勇者様と仲間たちに乾杯! そして平和に乾杯だ!」
グラスがぶつかり合い、笑い声が大広間に響いた。
――
勇者の決意
だが、宴が進む中で、俺は一人考え込んでいた。
(魔王は倒した。けど……これで終わりじゃない)
王国の各地には魔王軍の残党がまだ潜んでいるはずだ。
そして何より、この世界には他にも数多くの国や種族が存在している。魔王がいなくなったからといって、すべてが平和になるわけではない。
その時、王女セリーナが俺のもとに歩み寄り、静かに言った。
「勇者様。あなたのおかげで王国は救われました。ですが……これからの時代を導くのは、あなたのような力を持つ者たちです」
「……わかっています。俺はまだこの世界のことをほとんど知らない。でも、もっと旅をして、もっと多くの人たちを救いたいと思っています」
セリーナは優しく微笑み、俺の手に小さな鍵のようなものを渡した。
「それは古代遺跡への鍵です。かつて魔王が封印したと言われる失われた知識が眠っています。あなたが行けば、必ず未来の力となるでしょう」
俺はその鍵を見つめ、ゆっくりとうなずいた。
――
新たな旅立ち
翌朝。
宴の余韻が残る王都を後にして、俺たちは新しい旅へと出発する準備を始めていた。
ルナちゃんは荷物の中に鍋や食材を詰め込みながら、楽しそうに言った。
「お兄さん、次はどんなスープ作る? 今度はもっとすごいのができるかもよ!」
ロイドさんは地図を広げ、険しい顔で言った。
「古代遺跡は東の砂漠の向こうだ。魔王軍の残党が潜んでいる可能性もある。気を引き締めろよ」
「もちろんだ。でも俺たちならきっと大丈夫だ」
俺は笑い、鍋を背中にしっかりとくくりつけた。
こうして俺たちの新たな冒険が始まろうとしていた。
魔王のいない世界で、勇者のスープは今度こそ人々の未来を切り開く力となる。
そして俺は心の中で静かに誓った。
――必ず、この世界をもっと良い場所にする。
香ばしいスープの香りが、再び俺たちの旅路を包み込んでいった――。
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