第3話 女装男子、思い直す。

メイドは、大前提で女子力が必要。

でも......分かってしまった。

知識も必要だということを。


メイドの仕事が始まる今日。

メイドの泊まる寮では、分厚い本を読まされていた。

主に、寮での過ごし方とメイドの仕事について。

寮での過ごし方は、なんとなく分かった。


5時起床。5時半に出社。点呼、朝礼を行い6時からは朝食を作る。

8時からは屋敷の掃除や洗濯。

その後はゆっくり過ごして17時から夕食を作る。

そして、風呂掃除をして22時頃就寝。

これが、僕達下級メイドの1日。


メイドの中でも、上級、中級、下級に分かれている。

上級は、ご主人様やその親族達の専属メイド。

中級は、昼食を作るのと庭の手入れ、頼まれた買い出しなど。

下級よりも仕事量が少ないが、給料は高くなる。


「うーん、仕事量が多いなあ〜。」

「まあ、そんなもんだよ。

大きな屋敷だから。」


ロミエール家は、異世界でトップを争うほどの財産がある。

魔術書や魔術の専門学校を作ったり、有能な騎士の軍団を指揮していたりと、普通に凄い家だ。

つまり、屋敷も大きいということで。

仕事量が多くなる、ということだ。


「......アリアと隣の部屋になれて良かったよ。」

「ね‼︎ 私も嬉しい‼︎」


下級メイドって案外ブラック......と思ったけれど、この世界の法律は知らない。

人間界は労働の法律がいくつかあった気がするけど......。


「......あなた達。

もう仕事が始まるわよ。」


後ろから、怖そうな高身長のお姉さんが。


「あっ、すみません、リーダー。

すぐに行きます。」


......そういえば、この人、リーダーだったな。

リーダーの仕事はメイド達をまとめること、いわゆる人間界での上司にあたる。


「そういえば、君。」

「......僕ですか?」


妙に顔が強張っている気がする......。

僕、何かしたっけ......?

昨日は、アリアと買い物に行って、部屋を教えてもらって、部屋を可愛らしく装飾して、整理整頓して、寝ただけだけど......?


「部屋を装飾するのは良いけれど、

あれはやり過ぎよ。」

「えっ!? すみません......。」


神様からもらっていたのは100万ポイント。

下級メイドの給料は月20万ほど。

寮代はもともと給料から引かれていて、必要なのは食費ぐらい。

だから、昨日の時点で5万ポイント弱を使って憧れていた部屋にしてみたけど......。

壁紙を淡いピンク色にしたのと、アロマを炊いたのが駄目だったか。


「......それに、あなた、あまり勉強が

できないでしょう。」


ギクッ。

......ヤバい。

10歳という知能がバレた......?


「......きっと、腕前が良くてここに

来たはず。

昇進するのも案外すぐかもしれないわ。」


......それって、中級メイドになる、ってこと......?

そしたら、僕の仕事ぶりが良い、っていうことになる......。

男、ってことをどんどん見逃してもらえることになる。

......けど。

アリアと一緒にいられなくなる。

......嫌だ。 それは、嫌だ。


「......まあ、今日の仕事ぶりを楽しみにしているわ。」


そう言い残して、リーダーは去っていく。


「......リオン?」

「な、なんでもない。」


......そうだよ。

迷惑だよ。

たとえ友達だって、ずっと一緒ってわけじゃない。

......それは、僕が1番良くわかってる。


「行こ、ご主人様の館へ。」

「......うん。」


アリアは、僕にちょっと心配の目を向けている。

......大丈夫だよ。

そう思いながらにこやかに笑ったつもりだった。

......けど、僕でもわかってしまった。


顔が引きつっているな、と。


......浮かれ過ぎだよ。

第2の人生を送れない人も沢山いるはずだから。

これは神様のご厚意なわけであって、

神様がいなかったら、僕はここにはいない

存在であったのだから。


きっと......。


「......リオン? 具合悪いの......?」

「......大丈夫だよ。」


アリアに今の顔を見られないように、スタスタ歩く。

後ろから、小走りしてアリアがついてくる。


......この生活も、いつか終わりを告げる時がくるんだ。


寂しい。 嫌だ。


人間界で死ぬ時、そんなふうに思わなかったのに、本当に都合が良くて、ずるい人間だな、

自分って。


......過去に捕らわれすぎて、トラウマ......になっている僕。


でも、やっぱり、独りは嫌いだ。


......こんなことを考えている場合じゃないか。


......今は、目の前にある仕事をしないと。


ある程度の決心がついたところで、僕は後ろを振り向く。


「一緒に、行こう。」


アリアに向かって手を伸ばす。

すかさず、アリアは僕の手を握った。


......いつまで、このぬくもりが続くのだろう。


ネガティブに考えることは、自分自身の悪い癖だと思ってるけど......でも。


......そう思ってしまう。


もし、アリアが僕が男、ってことを知ってしまったら、きっと......。



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