【G'sこえけん】マセガキ呼びのダウナー孤狼お姉さんとのお話

性癖のサラダボウル

プロローグ

『追憶:出会い』


(薪と草葉を踏む音)


 やぁ、おはよう、少年。


 私の上着の寝心地はいかがかな?


 ははっ、”お前は誰だ”か。


 まずは行き倒れていた哀れな孤児に、


 分厚い毛皮のコートを恵んでやった慈悲深いこの私に、暖かい感謝の一言でもくれていいんじゃないか? 


 お姉さんは寒くて寒くて凍えてしまいそうだよ。


 ははっ、素直だな少年。


素直な子は大嫌いだ。


 

……うおおぉ!? 何いきなり抱きつこうとしているんだお前っ……!


 はぁ? 寒くて凍えそうって言ってたから? 


 ……焚火は起こしてるんだ、冗談に決まってるだろう。


 はぁ……、素直な子供はこれだから嫌いだ。


 ……宵が明けるまではここにいろ。


 その後はついてくるなり、野垂れ死ぬなり好きにすればいい。


 ついてくるならまあ……、飢えさせはせんよ。


 ……そう、疑った目で見るな。


 なに、私は獣人だが、無垢な人間の少年をとって食うほど飢えてない。



 ……んあ? 


 そのセリフはちょっとエッチぃ?


 ……おまえ、さてはただのマセガキだな?


 まぁ、ただの素直よりはマシか……、


 おい、マセガキ。有無はいわさん、ついてこい。


 ──お前は今から私の子だ。



【現在:昼下がりの安宿】


 (鳥のさえずり)


 ……あぁ、飲みすぎた。頭が痛い……。


 おい、マセガキ、水だ、水を持ってきてくれぇ……。


(水の音、足音、飲む音)


 ……もう昼か。


 なぁ、マセガキ? さっきから師範師範と私を呼ぶのはなんだ?こそばゆいからやめろ。


 昨日、私がそう呼んでほしいといったあ? ……酒の席の話だろう、真に受けるな……。


 いやですって……、なんだぁ? お前は私に嫌がらせがしたいのか?!


 マセガキ呼び?


 それについては妥当だろう。

 

 何しろお前は私の水浴びを覗き、


 貸したコードの匂いを嗅ぎ、


 尻尾をもふり、


 好き放題してくれてるんだからな。


 というか今も! 私の脱いだ服を抱えてぇ、一体どこに行くつもりだあ!


 ……あ、洗濯……、


 あぁ、いつも助かるよ……、


 これからもよろしく頼む……。


 ◇─◇

 

 (足音と、ドアが開く音)


 ああ……、戻ったか、マセガキ。


 もう少し寝ていていいって? 


 ああ、もちろん、


 言われなくてもしばらくはダラダラとするつもりだ。


 …………おい、なに私の寝床に潜り込もうとしてるんだ。


(心音、吐息)

 

 やめろ……、匂いを嗅ぐな、


 ……酒臭いだろぉ……。


 


 はぁ~……、お前というヤツは……


 私なんぞを好むもの好きな上、


 女の寝床に潜り込むマセガキ。


 これと憎いぐらいの素直さが両立しているのだから、やはり度し難い……。


(ごそごそと耳を掻く音)


 ……なんだマセガキ? 耳が痒いのか? 


 どれ、私がかわりに描いてやろう。


(荷物を漁る音)

 

 耳かき耳かき……、ほら、お前が露店で買ったのがあっただろう? 


 この前は耳かきしてくれなかったって……、


 そうだな、


 人の耳の扱いは私には分からんからな。


 ……まあ、案外なんとかなるだろうと考え直した。 


 痛かったらっ、すぐ言うんだぞ……、


 (すぐそばで身じろぎの音)


 ほら、耳かきもみつかった。 


 私の膝に来い。


(ふとももと擦れる音)


 入れるぞ。


(耳かき)


 ん、ふぅ…………、どうだ? 


 うまくできているか?


 ……そうか、それは良かった。

 

(耳かき)


 ……お前を拾ってから、もう一年か。


 ただの一年。


 私たちそれぞれの人生の、


 長いこれからの時間を考えれば、明らかに短い時間だ。


 その中のほんの僅かな余暇でさえ、


 無為に過ぎ去ったことが惜しくて仕方がない。


 充分、いろいろなことがあったはずなのにな。


 ……おかしいな。

 



 ふふっ、調子づいたことを言うな。


 一生、横で添い遂げるなど、あと数年経ってから言え。


(耳かき)


 奥にいれるぞ、痛かったら言え。


(えぐい音)


 ……すっすまん!、……大丈夫か?


 ……大丈夫か、そうか、よかった。


 続きは……、そうだな、反対の耳にしよう。


 安心しろ、今度はうまくやる。


(ガサゴソ音、太ももと擦れる音)


 ……ん、遠慮なく腹に顔を埋めよって……。


 んん?! ……頭を、動かすな……!


(叩く音)


 次は無いからな……。


 ……ほら、耳かきを入れるからじっとしていろ!


 まったく……。


(再び耳かき。)


 なぁマセガキ、もう一度、私を師範と呼んでくれるか?


 ああ、もう一度だ。


 ……もう一回。


 ふふっ、やはりこそばゆいな。


 ……まだ、酔いが残ってるらしい、忘れてくれ。


 自分にいろんなことを教えてくれたじゃないか、って?


 ……そうだな。


 しかし、私はお前の師範ではない。


 師範とは弟子に、正しい生き方というのを教えるものだ。


 あいにくと、私はそれを知らない……。


(耳かき)


 なぁ、もうそろそろ、この国を離れないか?


 近頃大きな戦争もあると聞くし、いろいろときな臭くなってきた。


 ……どこか。


 大陸の端の国にでも行って、しばらくゆっくりと過ごそう。


 

 ……ああ、そうだな。


 戦争には蛆がわく、まとめて潰すには良い機会だと、確かにそう教えた……。


 蛆の潰し方を教えたのも私だな……。



 ……お前のいた孤児院を襲った賊を殺した、私も父母の仇をようやく討てた。


 

 ……もう、十分じゃないか?


(何かを殴る音)

 

 すっ、すまんっ! 


 そうだ、そうだな! 


 十分じゃないな……。


 わかった! わかったからどうか落ち着いてくれ!



 耳かきの続きをしよう! 


 また途中だろう……、な? 


(また太ももに頭を置く音、しばらく耳かき)


 そろそろ奥に入れるぞ? 


 今度は痛くしないからな。


(耳かき 奥の音)


 ふふ、そうか、気持ち良いか。


 ……それはよかった。


(耳かき、またいくらかの時間が過ぎて)


 ……マセガキ? おい、おい。


 眠って……、いるのか?


 おい、起きていたら返事をしろ。



 …………はぁ~、私も、まだ眠いな……。


(ガサゴソ音、心音と吐息。)


 ……なぁ、マセガキ。


 私は正しい生き方など、お前に教えてはやれないよ。


 正しい生き方はお前自身で見つけてくれ。


 私はただ、お前が取り返しのつかない道に堕ちないよう体を張って止めるだけだ。


 もうお前に、人を殺す道を選ばせない。


 四肢を切り落としてでも、お前を止めてみせるよ。


 (心音と寝息)

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