第6話 証人
岸本に来てもらった。二十三時。コンビニ袋の音が部屋の角に響く。
「録る。全部録る」
机の上にスマホを二台。古いスマホは隅。岸本の端末でもアプリを立ち上げる。
俺の画面には、例の灰色がある。岸本の画面には、ない。
「寝たふりをしよう。おまえ、動いたら起こす」
岸本は床で体育座り、俺はベッド。灯りを落とす。
時間が薄くなる。いつのまにか眠りの浅瀬に足が入る。
——肩を強く揺さぶられる感覚で目が覚めた。
岸本が低く言う。「おまえ、立った」
俺は起き上がり、喉の後ろが冷えるのを押し込んだ。「俺は寝てた」
「立って、ドアのすき間を覗いてた。スマホを持って。ずっと笑ってた」
笑って?
灯りをつけ、古いスマホの映像を巻き戻す。早送りの中に、俺が立ち上がる姿がある。ドアへ。すき間に顔を寄せ、画面のない側のスマホを持って、息をかけるみたいに近づける。
岸本が顔をしかめる。「なぁ、もう病院行こう」
その言葉を、俺は受け取れなかった。
俺の画面でStream+を開く。あなたへのおすすめ——灰色の顔が、さっきよりはっきりしている。目のくぼみ、口角の上がり。
「見えるか?」
「何も。……おまえ、手、震えてる」
俺は笑っていない。はずだ。
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