006 春菜の部屋には、チェキの専用スペースがある
うちの家は一階がレストランで、二階が住まいになっている。親は店が忙しいから、いわゆる放任主義。今日はいつものメンバーが泊まりにくる。
この日も、美里と理香と咲子が揃った。ルールは一つ、「新しいパジャマをお披露目すること」。
「じゃーん、見て! 猫柄のワンピースだよ」
「私はサテンのキャミソール~」
「咲子のは……えっ、大人っぽ!」
笑い合いながら写真を撮って、最後はチェキで記念撮影。飾りつけられた壁には、過去の写真がびっしり貼ってある。日付や落書きのコメントまで込みで、思い出の宝庫だ。
美里がふと一枚を指差す。
「ほら、光一と春菜、ほんと兄妹みたいに写ってるね。保育園からは咲子も一緒で、三人ずっと仲良しって感じ」
「そうそう。私と美里は小学校からだからね」理香がうなずく。
咲子は「懐かしいね」と笑った。彼女の両親も共働きで、保育園の遅くまで残っている居残り組だった。私と光一も同じようなものだから、自然と一緒にいる時間は長かった。
光一は私より一つ上で、保育園の頃から運動神経が抜群だった。かけっこはいつも一番で、誰より目立つ存在だった。
咲子は鈍くさくて泣き虫で、よくいじめっ子グループにからかわれていた。おもちゃを取られたり、砂場のバケツを隠されたり。私はよく咲子を庇って、「可愛くない女」なんて言われたりした。
――ある日のこと。砂場で私の作ったお山をいきなり壊されて、驚いた私たちが上を見上げると、いじめっ子たちにぐるりと囲まれていた。
怖くなって、「イヤ!」と泣声を上げた瞬間、誰かの手が振り上げられた。
そのとき、光一が走ってきた。
「やめろ!」と大声で叫んで、私の手をぐっと引っ張る。
「春菜にちょっかい出すな!」
光一の驚くほど強い声で、いじめっ子たちは一気に退いた。咲子も一緒に助かったけど、光一の目は、確かに私だけを見ていた。
まだ涙目のまま「ありがとう」と言った私に、光一は少し照れながらも、はっきり言った。
「俺、春菜が泣かされるとムカつくんだ」
――あの瞬間、胸の奥がぎゅっと熱くなった。小さな頃からずっと、守ってくれるのは光一だった。
両親から「春菜はしっかりしているから大丈夫だよね」と言われても、光一だけはそんなことは言わなかった。
咲子がぽつりと笑う。
「……光一って、昔から頼りになるよね」
理香が不思議そうに首をかしげた。
「でもさ、光一って咲子のことは絶対好きにならないんでしょ? あんなに女好きなのに」
咲子があっけらかんと言う。
「うん。“めそめそしてて女々しいのはタイプじゃない”ってハッキリ言われたことある」
美里がにやにやしながら口を挟む。
「光一が女好きっていうのはちょっと違う気がするけど。でも、やっぱり光一の特別は、ずっと春菜なんだね」
私は慌てて笑って返す。
「なにそれ、ロマンティックすぎ。そんなわけないじゃん」
……でも、ほんとは信じてる。
光一は、誰よりも私を大切にしてくれている。だから私は、その「特別」の意味を、光一の口から聞ける日まで、――待っていてあげようと思う。
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