第24話 紗夜、覚悟の戦い
『つまり、失敗した場合...私たちも死ぬし、陽太も一緒に死ぬってことよ』
ルカの声が震えていた。
はるかは迷った。月光が作り出す陽太の影を見つめながら、手が震える。自分の命だけなら、迷わず差し出せる。でも、失敗したら——助けるはずの陽太まで、自分のせいで死なせてしまう。
砂を握りしめる。冷たい砂粒が、指の間からさらさらと零れ落ちていく。
その時——
ドォォォン!
はるかのすぐ近くで巨大な衝撃が起こった。砂塵が竜巻のように巻き上がり、視界を奪う。
ゆっくりと砂煙が晴れていき、そこに現れたのは——
「紗夜先生!」
ボロボロの紗夜だった。紫の翼は千切れかけ、全身に無数の傷。血が砂に染み込んでいく。
紗夜は苦しそうに顔を上げる。
「なぜ...こんなところにまだいるの!早く逃げなさい!」
必死の形相で叫ぶ紗夜。でも、はるかは動けなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。陽太の命、自分の命、紗夜先生、レン——全てが混乱して、体が金縛りにあったように動かない。
「なして...なしてこげなことに...」
涙が頬を伝う。月光がそれを銀色に光らせる。
「泣き言を言っても仕方ないでしょう!」
紗夜の叱咤が響く。血を吐きながらも、紗夜は力強く言い放つ。
「あなたは陽太くんを助けたいんでしょう!なんとか、ここを逃げ切って、その方法を見つけて!」
「じゃっどん、先生ば死んでまう!」
はるかが叫ぶ。
紗夜の瞳が、一瞬優しく和らぐ。
「私にとっても、陽太くんは大事な人よ」
血の混じった唇が、微かに微笑む。
「だから、あなたに託したの」
その時——
スーッ...
音もなく、レンが空中から降りてきた。月を背にしたその姿は、まるで死神のようだった。
「おお、そこのカスも一緒にいてくれるとは」
レンが嘲笑を浮かべる。
「探す手間が省けたよ」
「あんたなんかに...陽太くんを渡さない!」
紗夜が立ち上がる。よろめきながらも、その瞳には強い意志が宿っている。
そして——
紗夜の全身から、今まで見たことのないような濃密な紫のオーラが噴出した。砂が激しく舞い上がり、空気が震える。
『まずい』
ルカの声が、はるかの心に響く。
『あの人、死ぬつもりよ!』
「先生、やめて!」
はるかが叫ぶが、紗夜はもう聞いていなかった。
紗夜が手刀を構え、レンに向かって一直線に突進する。全魔力を、全生命力を、その一撃に込めて。
「こんなもので僕が倒せるかぁぁぁ!」
レンも手を前に出し、紗夜の攻撃を迎え撃つ。
「はぁぁぁぁ!」
紗夜の絶叫。
二つの力が激突した瞬間——
ドォォォォォン!
凄まじい衝撃波が発生した。砂丘が爆発したかのように砂が巻き上がり、嵐のような風が吹き荒れる。月光さえも歪んで見えるほどの、圧倒的なエネルギーの奔流。
はるかは陽太を庇いながら、必死に砂嵐に耐える。
やがて、嵐が収まった。
月光が、残酷な光景を照らし出す。
レンの手刀が、紗夜の腹部を貫いていた。
「が...は...」
紗夜の口から、血が溢れる。
レンが紗夜を振りほどく。紗夜の体が、人形のように砂丘に転がった。
しかし——
「はぁ...はぁ...」
レンも膝をついた。額から血が流れ、呼吸も荒い。紗夜から受けたダメージは、レンにとっても深刻だった。
「おとなしく...あのカスを差し出せば...こんなことをせずに済んだのに...」
はるかは、砂に倒れる紗夜を見つめる。
——私にとっても、陽太くんは大事な人。だから、あなたに託したの。
紗夜の言葉が、心に響く。
はるかの中で、何かが決まった。
覚悟。
何があっても陽太を救い出す。そして、自分も必ず生きる。
はるかは自分の爪を立て、手首を切った。
「つっ...!」
赤い血が、月光の下で黒く見える。
その血を、自分の口に含む。鉄の味が広がる。魔力の源である、サキュバスの血。
そして——
陽太の唇に、自分の唇を重ねた。
口移しで、血を注ぎ込んでいく。ゆっくりと、確実に。
「バカな!」
レンが叫ぶ。動こうとするが、ダメージで体が動かない。
「下等な人間などに!女王候補が!」
はるかは構わず、血を注ぎ続ける。
すると——
二人の体が、淡い光を放ち始めた。
月光とは違う、温かな金色の光。それは徐々に強くなり、砂丘を照らし出す。
はるかの意識が、陽太の中に引き込まれていく感覚。
暗い、深い闇の中を落ちていく。
『お願い...陽太くん...』
心の中で必死に呼びかける。
『答えて...』
闇の奥から、微かに——何かが応えようとしている気配を感じた。
【お礼】
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