第10話 三人と双子
「散々な目に合ったな」
ルーク御一行は時計台前広場と言われる公園のベンチに腰を掛けていた。
「あんな商人見たことないぞ。どうなってんだこの国は。」
「…あの杖欲しかったなぁ」
「元からだった…」
そんな話をしていると、ゴーンと鐘ような音が時計台から聞こえる。
「もう昼か?」
「う、うん、もう12時。」
「それなら」とルークは立ち上がる。
「気になってた店があるんだ」
そうして三人はとあるレストランへと向かう。
歩いて5分もしないうちにそこについた。
◇◇◇
ゴーンと目の前の鐘が大きく揺れる。金髪の髪を持った瓜二つの兄弟は同時に耳を押さえた。
「12時…お腹すいてきたなフマル。」
「うん、ほんと、そうだね。マレイン」
「腹が減っては戦はできぬ…最悪だな」
「うん、最悪だね」
そう言い合いながらも目の前にいる"敵"から視線を外さない。
「なんなのだ、お前たちは」
目の前の人間ならざるものが喚き散らす。
「入口のやつらはどうした?なぜこんなやつを入れた。」
「さぁ?弱いからじゃない?」
一応兄であるマレインが答える。
「さすがは残党だ。こんなに鍛錬を積む必要なんてなかったのかもしれない」
「まぁ無駄ではないと思うけどね」
嘲笑交じりに双子は話す。
「ふむ…我らが弱いと言うか。まぁそうだろうな」
「あ、認めるんだ」
「魔王様はもうとっくの昔に忌まわしき勇者によって倒された。もう魔王様を覚えている者も少ない。」
「で?君はまだ覚えてると?」
「姿はな。声などとうに忘れた。だがそんなものどうでもいい。魔王様は復活なされるのだ。」
「あっそ、3000年経った今でも復活できてないのによく言うよ」
「あぁ、この国の害虫は処理しないとね」
「あぁなんで俺たちがここまでしないといけないのかなぁ」
そうして双子は口にする。
「「あぁ、最悪だ」」
◇◇◇
三人は店に入ると真っ先に壁に目がいった。
「あれ、何?」
「俺の記憶が正しければ、料理師ノアの似顔絵だ。それも超精工な。」
するとどこからか店の店主が現れる。
「さーすがよくおわかーりで!そうです!何を隠そう!私はかの伝説上にしか残らない12の英雄の調理師ノアの子孫!アラーゼでございまーす!」
癖のあるしゃべり方で登場したアラーゼという男はどうやらノアの子孫らしかった。
「なぜそう言い切れる?」
「我が一族は親族図をむかーしからつけておりましてそれで証明ができるのでーすよ」
「そこは料理の腕とかじゃないんだ」
「それもありますがーね。端的にわかりやすいのはそちらでしょーよ」
はっはっはと上機嫌に周りの客すら目にとめず大声で笑う。
「いかがてすかな?このノア様が残したと言われーる超絶品料理なんてーのは」
これがこの店の商売の仕方なのだと気づく頃には既に手中にハマっていた。
「じゃあ私それにするー」
「じゃあ俺も」
「え?え?え?みんな、それにするの?じゃ、じゃあ僕も」
「かしこまりました!当店一番の人気メニュー!先代から伝わりし老店のビーフシチュー!少々お待ち下さーい!」
そういうと軽い足取りで裏へと戻っていく。
よくよく周りを見渡してみると全員がビーフシチューを美味しそうに頬張っているのが目に入った。
◇◇◇
「――で、俺達はいつまで遊んでやればいい」
時計台の最上部。普段なら展望デッキとして開放されているが今日は不思議と3人しかそこにいなかった。
「――っ!」
「なぁ、いつになったらお仲間呼んでくれるんだ?」
マレインが倒れた魔物の頭を強く掴む。そしてそのまま床へと叩きつけた。
「―ふぐっ!」
「全然情報も吐いてくれないね、どうする?もう殺しちゃおっか?」
「いやまだだ。まだこいつはやれるさ。なぁ?名も知らない残党よぉ」
マレインの目からは完全に光が消えていた。あるのは殺気、復讐の念、蔑み。ただ利用価値があるかどうかで生死を判断している。故にいつでも切り捨てられる。
「お前がお前の親玉の情報吐いてくれたらそれで終わるんだ。なぁ?楽だろ?なぁ!」
ガンッガンッと鈍い音が響き渡る。辺りには人間の血の色ではない深青色の液体が散乱していた。
「――できるわけ…な―!」
「黙れよ」
その瞬間ゴキッと先ほどまでとは違うあまりにも痛々しい音が轟く。
「―っあぁ!…グッ!」
魔王軍の手先である"それ"は折られた右腕を押さえ、声を押し殺す。
「はぁ、はぁ、やってる所業としては我らより酷いのでは、ないか…?」
「あ?なわけねぇだろ。だって俺らは殺しはしてないんだ、お前らと同類にするな。害虫。」
「ほんと、被害者面して…わかってるのかね?こいつらがどれだけ人を殺してきたのか。」
この場が完全に双子によって制される。時計台の階段には部下と思しき魔物が潜んでいるが足が動かないどころか声すらも出ない。ただ見ているだけで限界を迎える。
「――我が死んだ所で…残された魔王軍にはなんの損失にも、ならない。変わりは利くのだ。そんなもののために誰かが助けに来ることも、我が助かろうなどと思うことは、ない!」
残された体力でその魔物はそう叫ぶ。だか返ってきたのは予想だにしない言葉。
「なわけねぇだろ」
否定。それはまるで生きる希望を与えたかのように感じられた。だが真実は違う。そんな優しいものではない。
「ここは貿易国で最高峰の技術が集まる国だ。そこに残党共が来ないなんでことあるわけねぇだろ」
「――っ!」
「はぁ、もういい。フマル、あれやれ」
「…わかった」
そうしてフマルはその魔物と対峙する。目の前まで歩いていき、顔と顔がくっつきそうになるまで顔を近づけた。
「苦痛と共に堕ちていってね。『ブレインインスピット』」
その瞬間、魔物の目から光は失われ口が勝手に動き出した。
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