第6話 楽しい楽しい宿屋での出来事

「えーここで別れるのやーだー一緒の部屋にするのぉ!」


 ルーク、ミヤ、シルタの三人は宿屋に来ていた。

 そこで男二人、女子一人に部屋を分けようとしたのだがミヤが駄々をこね始めた。


「お前も一応女だろ!なんかほら見られたくないもんとかなんかひとつぐらいはあるだろ」

「特にないですぅー二人になら別に見られてもなんも問題ないしぃーあと一応って何よ!」

「あの…ミヤ、ぼ、僕が困るんだけど…」

「はぁ?それでもあんた男?」

「今の御時世、そ、そういうのあんまりよくない…」

「はっきり言いなさいよ!」


 そんな具合で話は一向に進まない。

 ミヤは別に男二人と一緒の部屋にいたいわけではなかった。単純に寂しがり屋なのだ。というかここまで来て一人部屋というのも少し寂しい気はする。


「ねぇルーク一緒の部屋にしてよぉーねぇー」

「だからあんまそういうのよくねぇって」

「別にあんたら二人が私のこと襲うわけないんだから関係ないでしょ」

「え、え、今の悪口…?悪口だよね…そうだよね…やっぱ僕ってここままじゃよくないのかなぁ…変わらないとなのかなぁ…」


 別にそんなことはないと思う、今の調子で全然大丈夫だと思う。ルークとミヤは心の中で同じ事を思った。


「部屋はどういたしましょうか…?」


 宿主に困惑顔で聞かれてしまう。

 それに対し、ルークはため息混じりに答える。


「同部屋でお願いする。3人部屋を…」

「かしこまりました。こちら鍵になります。」


 そうして鍵が手渡され三人は奇しくも同じ部屋へと向かう。


「勝ったわ」


 ドヤ顔でルークを見る。

 …何を勝ち誇っているのだろうか。


「104…104…ここか」


 クラシックな作りの廊下に合う木造の扉が目に入る。

 ドアノブに鍵を差し、ゆっくりとひねる。カチャリと言う音がした後ドアノブを握り回す。

 キィともすんとも言わずその扉はすぐに開いた。

 約30m²ほどの大きさの内装が目に飛び込む。

 至って普通の大きさに家具店にいけばありそうな椅子と小さな丸い机、なんか雰囲気を感じる照明に、大きなベッドが3つ並んでいた。


「つーかーれーたー!」

「ぼーくーもー」


 そう言うとミヤが左のベッドに飛び込み、それに次いで右のベッドにシルタが飛び込む。


「俺真ん中か。」


 椅子取りゲームならぬベッド取りゲームでもしているのだろうか。

 そう思いながら荷物をベッドの横に置く。


「お前ら寝るならちゃんと歯磨きして着替えてからにしろよー」

「「はーい」」


 いつからルークは母親になったのだろうか。この前までは父親だったはずなのだが。

 そうして特にハプニングもなく全員が着替え終わりベッドに横になっていた。


「……何もないこととかあるんだ」


 ボソッとルークが呟く。

 そのときルークは思い出していた。あの3000年前の出来事を――


 昔、かの12人は夜になる度騒いでいた。

「今日も飲みますよぉ」

 ふらふらとした足取りで教徒アポローがグロークにダルがらみする。

「こっちくんな!酒くせぇ!」

「はっはっは、いいじゃないですかいいじゃないですか。酒におぼれようと、うぷっ、女におぼれなければ」

「前と言ってること違くない!?」

 グロークは声を荒げそう言った。

「えー女におぼれてみなよぉ」


 パーティ随一の変人、誘惑のハイネがさらに場を混沌とさせる。


「男は女に堕ちてからの方が魅力的なんだからぁ」

「ハイネ、そろそろ自重してくれないか…あと服ちゃんと着て」


 パーティのリーダー的存在アテネが、肩…どころか鎖骨あたりまで丸出しのハイネに訴える。


「えー、そんなの個人の自由でしょー。あ、アテネちゃんも着こなししてみる?」

「しないから…あとそれ着こなしなの…?」


 そんな会話の隅で武闘家ルークは回復の魔女ディアーナと楽し気な会話を繰り広げている。和気あいあいと、話は途切れるところを知らず、アポローやハイネの暴走に目もくれず談笑をする。


「俺から妹を、奪う気かぁ!?!?」


 酔ったアポローが間に入り込む。


「……兄さん邪魔、ルークさんと話せない」


 その目には殺気が宿っていた。だがそんなことはつゆ知らず、アポローは騒ぎ立てる。


「ルークお前なぁ、兄からの許可もなく妹と付き合うなどぉ。ましてやぁ俺は司教だぞぉ!愛の誓いなんてさせねぇからなぁ!」

「付き合ってるつもりはねぇよ。ただこいつが勝手に言ってるだけだ。」

「はぁ!?俺の可愛い妹を見捨てる気か!?」

「どっちもハズレじゃねぇか…」


 こんなことが毎夜起こるなどというとんでもないパーティだったが、その騒ぎ具合ももう記憶の彼方である―――


 「ねぇルーク起きてる?」

 そんな声でルークの意識は現実に戻される。


「あ?あぁ起きてるが…どうかしたのか?ミヤ。」


 毛布にくるまりながらミヤの方に体を向ける。


「あ、よかった目つぶってたから寝てたのかと思って。シルタはもう寝ちゃったから」


 確かに聞き耳を立てればすぅすぅと寝息のような音が聞こえる。


「それで何だ?なにかあったか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。折角こういうところに来てるんだしさ。聞きたいじゃん……恋バナ」


 やはりそうくるかと若干備えていたルークはあらかじめ用意しておいた言葉を告げる。


「俺は恋なんかしたことない。そんなものとは無縁の生活をしていたもんでな。」

「えーそんなことないでしょー。ほら全盛期はどうだったの」


 ルークは全盛期がなんなのかいまいちよくわからなかったがとりあえず3000年前の頃だろうと推測する。


「付けまわってくるやつは、いたな…俺の彼女面かのじょづらして。」

「えー!彼女いたのー!?」

「いやだからいねぇってそいつが勝手に言ってたことだ。あともうそいつ死んでるし」

「あ、そっか、そうだよね、なんかごめん」

「いやいいんだあのうるさい夜がもう訪れないんだからな」

「……」

「……」


 なぜだかわからないが雰囲気が一気に重くなる。


「そうだ、ミヤ。お前こそ好きなやつとかいないのか?」

「え?いるわけないじゃない。」


 あまりにも即答。シルタとのいちゃつき具合はなんなのか疑いたくなるような否定だった。


「もう夜も遅い。さっさと寝ろ。」

「えー、もうちょっと話そうよぉ」

「別に恋人なんていなかったっての。いい加減寝ろ」

「あとちょっと、ちょっとだk――」

「スリープ!!」


 あまりにもうるさかったためルークは瞬時に状態異常魔法の睡眠スリープを唱えた。


「…まぁ別にあいつらのことが嫌いってわけじゃねぇけどな…ディアーナ…。」


 そうして何やら思い出にふけるようにルークも目を閉じていった。


―――――――――――――――――――――――


「――っは!知らない天井!」


 ルークと話していたはずだがいつの間にか眠ってしまったらしい。

 私はゆっくり体を持ち上げ周りを見る。

 朝日が部屋に差し込み気持ちがいい。


「あれ?ルークは?」


 真ん中のベッドだけ空いている。時間を確認すると7時くらいだ。朝っぱらからどこかに出かけているのだろうか。シルタに聞いてみようかと思ったがまだ寝ている。さすがに起こすのは気が引けたため好都合だと思い着替えることにした。

 来ていた部屋着をたたみ、マジックポケットへとしまう。昨日のうちに用意しておいた着替えを手に取り、ワイシャツに腕を通し、短めのスカートを履く、お気に入りのコートを着て、最後に私の白髪に合うと言われ買ってもらったネイビー色の髪留めを付けて完成だ。


「やることやっちゃったなぁ」


 シルタでも起こしてやろうかと思ったが意外にも寝顔がかわいいため観察するだけにとどめておく。


「にしても無駄にいい肉体してるわねこいつ。ちょっとくらいわけてくれないかな。」


 筋肉質の女子、うん、とってもいいと思う。

 なんだかタックルですべてをなぎ倒せそう。


「うぅん」

「あ、シルタおはよう」


 唸り声をあげながらシルタが動き出す。


「さっさと着替えちゃいなさい―――」

「うわああぁぁぁぁああ!!!」


 目をカッと開きいきなり声を荒げだす。悪夢でも見ていたのだろうか。到底正気とは思えない声を出す。


「ちょ、シルタ寝ぼけすぎ…きゃぁ!」


 シルタの屈強な肉体に押し負け床へ体を叩きつけられる。

 そのままバランスを崩しシルタが上に乗っかってくる。

 重いな、乗っかられた第一印象はそれだった。見た目通りと言えばいいのだろうか、全身ががっちりと硬かった。

 次に感じたのは己の豊満とは言い難い膨らみかけている胸の圧力。シルタの体によって押しつぶされているのだと理解する。体が火照るような、不思議な感覚が私を襲う。

 その衝撃で気が付いたのかシルタが正気に戻る。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!」

「日本語しゃべって!?」


 まだ意識がはっきりしてないのかシルタが暴れ始める。


「ちょっと、動かないで!…ん、変な感じ…する!」


 そうしてシルタが横に回転し、ようやく二人は離れた。


「――あ、ご、ごめん、ミヤ。僕なんかしちゃったかな」


 あれを記憶がないで済ませるのかと一瞬驚愕したが朝起きたばっかりということもあってかそんな体力などなく、床にバッタリと倒れ伏した。


―――――――――――――――――――――――


「朝のジョギングおーわりっと」


 午前5時に起き、身支度を整えランニング、午前7時を過ぎ、ルークは宿屋の前に戻ってきていた。


「そろそろあいつらも起きたよな?」


 走ったことで熱くなった体を冷ますために服をパタパタする。

 部屋の前まで来るとバタンという何かが落ちるような音が耳に届く。もう起きているのかとルークは扉を開け、驚愕する。

 息が乱れ、顔を赤らめている男女が倒れている。

 まさか事後かとルークは思ったがベッドが荒れた様子も服が汚れているようにも見えなかったため違うのだろうと推測した。


「…お邪魔だったか?」

「え?お邪魔?ど、どういう、こと?」


 シルタが頭に疑問符を浮かべながら問う。


「いや何もなかったんならいいんだ。」

「何もなかった…なかったわよ…多分」


 ミヤが顔を赤らめながらそう答えた。


「そう…なんだな。うん、わかった。……シルタ出かける準備をしてくれ、朝飯食べに行くぞ」

「あ、わ、わかった…」


 そうして多分何もなく宿での一泊は終わりを告げた。

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