第5話 情報の在処
「そもそもとしてなんでお前があいつらの事知ってるんだ」
ルークは地面に腰を下ろし情報屋に向かって対峙する。
「俺は情報屋としていろんなとこに旅させてもらってる。一般に知られていないことも小さな村で人々の間で噂されてることもあれば伝説としてその地に名や特徴が刻まれている。それらを集めて合わせた結果見えてきたものだよ。」
いつの間にか彼の手の中には【12の英傑情報まとめ】と書いてある紙切れがあった。
おそらくここに彼らの英雄譚でも残っていると容易に推測できる。
だが今やるべきことはそれを見ることじゃない。
「率直に聞く。ジターネはどこにいるんだ。」
「…それがまだわからないんだ。ここらへんにいるって目星はあるんだがいかんせんその場所がな」
「…?何ー?なんか危ないところ??」
ミヤが緊張感の無い、いつもの声で聞いてくる。
「あぁ、そうさ。その名は『禁書の眠る森』最強格の魔物、ゴールドテール種が住み着いてる森さ」
聞いたこともない種族にミヤとシルタの頭の上に疑問符が浮かぶ。
「ゴールドテール。その名の通り金色に光り輝く尻尾を持つ魔物だ。」
ルークが話し始める。
「昔戦ったことがあるが、強いくせに肉は硬すぎるし味も最悪でな、食えたもんじゃない。もし食べるならワンランク下のシルバー種の方がよかったな。」
「いや味のことじゃなくて…」
「あ?戦い方か?あんなの右ストレート一発で終わりだ。ちょっと反動くるがな」
右手の拳を固めシャドウボクシングのような動きを見せる。
流石は伝説に残る武闘家である。
本来、ゴールドテール種とは一級魔術師もしくは一級剣闘士3人ほどでようやく倒せる魔物である。
現に今のミヤとシルタ2人がかりでも倒せないであろう。
「さ、流石だな、英傑さんは…ははは」
乾いた笑みとはこのことなのだろう。情報屋の目は一切笑っていなかった。なんなら光が消えていた。
「もしそこに行くなら先に獣族村を訪れたほうがいい。あいつらはその森の近くに縄張りを置いてる。きっと何かの役に立つはずさ。」
「え、あなたも来ないの?」
ミヤが尋ねる。それに対し情報屋は肯定、そして話す。
「俺には情報収集以外にも"売る"仕事があるんでな。まだここにいるさ。ま、気が向いたら応援しに行ってもいいがな」
だが顔が物語っている。めんどくせぇこと言うなと。
「情報屋ってのはどの国でもどんな場所にでもいるもんだ。困ったらそいつらに聞くといい。商売相手としては不服だがな、一応ほとんどの情報屋同士は面識がある。俺の名とルーク、お前の名を名乗れば察するだろう。」
「?まだお前の名前聞いてないんだが…」
「あーそうだったなすまんすまん。信用してるやつにしか言わない主義なもんでな。」
そうして情報屋は一拍置いて告げる。
「こほん、俺は……オータナアリアの情報屋、盗み聞きのスレクトだ。」
「………盗み聞き…?」
「そこに突っかかかるなよ…それに情報屋には必須のスキルだろ。ただ俺はそれが異常に発達してるだけで…」
何やらブツブツと呟き始めた。地雷でも踏んでしまったのだろう。
「あんたらいつまでそこに突っ立ってやがる。ほら行け。情報は十分上げたはずだろ。」
手をパッパとまるでのけ者扱いされる英傑。
だがそんな姿でも何故だが嫌な気持ちになる者はいなかった。
「そうかよ、じゃ、行くかミヤ、シルタ」
「はぁ〜い」
「や、やっと食べ終わった…」
どうやらシルタはずっともちゃもちゃとイカ焼きを食っていたらしい。
そうして三人は歩き出す。次なる目的地、獣族村そして禁書の森へ向けて。
「あ、地図かなんかくれね?」
「勝手に持ってけ!英傑!」
乱暴に暗闇から地図が投げ渡される。
「お、おう、ありがとな。」
こうしてようやく明確な目的地ができたのだった。
――余談だが、都市アリタス並びにミヤ達の住む村スラグ。それらが所属する国、すなわち住んでいる国が東の国オータナアリアである。
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