第4話 情報屋と英傑談
都市アリタス。その都市の大きさは現在一番の土地と勢力を持っている国、北の国と比べても遜色がないと言っていいほどに発展し、
「ひっろーい!」
ミヤは一人で騒ぎ出し、シルタは挙動不審で辺りをキョロキョロしていた。
「え、お前ら来たことあるんじゃないのか…?」
先程の会話からそう推測したルークは尋ねる。
「小さい頃一回だけね。だからほとんど記憶にないの」
どうりで初見の様な反応をするわけだと、納得したルークは告げる。
「今回来たのははしゃぐためじゃないんだからな。そこんところ見誤るんじゃないぞ。」
まるで父親かのような発言をするルーク。実際に彼自身も父親になったかのような感覚を味わっていた。
「わかってるってー。情報収集でしょー?あ、あそこの魔法店気になる」
「……話聞いてたか?」
そうしてミヤの思うがままに歩は進んだ。
「いらっしゃい。」
カウンターには年老いたじいさんが座っていた。
その近くには古めかしい杖が立て掛けてあり数百年受け継がれてきたものだと察することができる。
「あ!あの杖欲しい!ねぇ買って買って!」
商品棚に置かれている杖を指差しぴょんぴょん跳ねて見せる。
「し、身体強化剤…うへ、ちょっと欲しい、かも…」
「お前らなぁ」
やはり目的を既に見失っているらしい。
そう思ったルークは一人、じいさんの元に歩いていく。
「なぁ、人を確実に殺せる薬ないか?」
「……はい?」
じいさんの顔が引きつっている。
どうやら話しかけ方を間違えたらしい。
「えーえっとなぁ…ふ、不死の薬。不死の薬は知ってるか?」
「あー、聞いたことはある、数千年前に存在したとされる伝説の薬だろう?」
「あぁ、それについての情報が欲しくてな」
「うぅん…すまない、私にはよくわからないね」
じいさんは申し訳なさそうな顔をして軽く頭を下げた。
「いやいやいや!頭を上げてくれ。今のはちょっとした質問なんだ。気に留めないでくれ。」
「そうは言っても期待に応えられなかったのは事実……あぁ、代わりといっちゃなんだがあんた、情報屋には行ったのか?」
「情報屋…?」
「あぁ、どんな情報でも売ってくれるところさ。伝説の剣のあり方だったり他国の情勢事情だったりな。それこそあんたの求めている答えを持っているかもしれない。」
「………それは、どこに?」
「店を出て左に行くと広間がある。そこから一番近くの酒場の路地だ。」
「…?路地にあるのか?」
「彼にも色々と事情があるんだろう――」
「ねぇ!ルーク!」
するといきなり背後から声が掛けられる。
「この杖買っていいかしら!?」
手にはミヤの身長と同じくらいの大きさをした杖が握られてあった。
「………やめとけ、それは粗悪品だ。ほら行くぞ」
そう言ってルークは店を出る。
それに次いでミヤとシルタも駆け足で店を後にした。
◇◇◇
三人は先程の店主に言われた場所へと一直線で向かう。道中の広間に大きな噴水があった。途中、ミヤにあのレストラン行きたいだとか防具屋行きたいだとか言われたがルークはほぼ全てを無視した。…レストランには行ってみた。絶品だった。
そんなこんなで酒場の前に辿り着く。
「ここの横の路地だよな?」
「うん、
「…飲み込んでから喋ってくれ…いや俺が今聞いたのが間違いだったか…」
ミヤの手には串焼き鳥とイカ焼きが握られてあった。さながら持っているものだけを見れば祭りのようだがそんなことはなくアリタスでは常に売っているものの定番だった。
ちなみにこれはルークが買い与えたわけではなくいつの間にかミヤが勝手に買ってきたものだった。
「る、ルークはんもたへればいいほに」
ちなみにシルタも同じ物を頬張っている。
散財でもしたいのだろうか。
そうして二人が食べすすめるの横目に、ルーク達は路地に入った。
「思ったより広いな」
路地と言うから狭いものかと想像をしていたが人が横に三人並んでも余裕がある幅だった。
「――なんか用か」
するといきなり薄暗い路地から声が聞こえる。
よく目を凝らすと人が一人座っているのが見えた。
「…お前が情報屋か?」
「あぁ、いかにも、だ。それで何が欲しい。この国のことか?それとも他国?好きなものを聞くといい。」
「なら遠慮なく聞かせてもらう。」
ルーク達は真剣な顔つきで告げる。
「飲んだら絶対死ぬ薬ってないか?」
「…………?スマン、聞き間違えかもしれない。もう一回言ってくれ…。」
「飲んだら絶対死ぬ薬ってないか?」
情報屋の顔を見ると先程の魔法店の店主と同じような表情をしていた。何かおかしかったのだろうか。
「んな子供が考えたような薬があるわけねぇだろ正気かてめぇら。」
「だったらそれに似たようなのは…」
「ない!ないないないない!そんな子供騙しなんて仕入れてねぇ!」
「な、なん、だと…っ」
情報屋は声を荒ぶらせたがすぐ落ち着きを取り戻す。
「絶対死ぬ…"絶対"なんてこの世には存在しない。いずれも可能性ってのは付き纏う。そういうもんなんだよ。」
「そう、か。」
ルークは顔を俯かせる。唯一の希望とも言えた光がたった今消え去ったのだ。また孤独な生活が待っている。また横にいる人と同じ時間を過ごすことができない。
ルークにとってはその一言があまりにも大きすぎた。
「な、なぁ、だったら死者と話をできるようなのは…」
少なくともこれがルークの最後の願いでもあった。
だが情報屋は非常にも現実を突きつけてくる。
「あるにはある、が。ここは情報"屋"だぞ?金を払え。金貨10枚な。それで売ってやる。」
「はぁ?金貨10枚ってあんた…焼き鳥100本以上食べられるじゃない!」
ミヤが声を荒げながら訴えかける。だが相手はれっきとした商売でやっているのだ。引き下がるわけはない。
「おいおい、俺は命賭けて情報を漁ってくんだぜ?それくらい安いもんだろ」
「…でもその値段は―」
「こっちも商売でやってんだ。それをわかってないようなら嬢ちゃん……口を挟まないでくれるか?」
状況をようやく理解したミヤはルークに優しく声をかける。
「る、ルーク、ねぇ。まだ何かはあるかも。さっきこの人も言ってたじゃん。"絶対"はないって―」
「―は、今ルークっつったか??」
いきなり情報屋が話に割り込んでくる。
それを不快に思ったのかミヤは軽く睨んだ。
「す、すまねぇ、話を切っちまったのは。だが今、ルークって言ったのは間違いじゃない、よな…?」
「…俺がルークだ。何か問題でも…あるか。」
元気の無い声で返事をする。
「ルークってあの、伝説の12の英傑、武闘家ルークか!?」
さっきまで細かった目を限界まで開きルークを見つめる。
「え、え?伝説!?ねぇ、ルークあなた伝説なの!?」
「あ?あぁもう2000年以上も前の話だがな。12人もいたが今はもう俺しかもう残ってねぇよ…唯一長生きのウィルムも死んじまったし…」
「……お前以外全員…死んだ?」
何も疑問に思うところなどないだろう。だって2000年以上も前の話なのだから。
12人の英傑とはまだルークが人間だった頃の仲間達である。
「お前が本物なら。俺は…、お前の知り得ない英傑たちの情報を渡すことができるっ!」
「何を言い出すかと思えばなんだ、あいつらのこと俺より知ってるだと?笑わせる」
「いやそういう話じゃない。俺なんかよりルーク、お前の方があの英傑達について知ってるだろう。俺が言ってるのはお前の知り得ない、お前の仲間の情報だ。」
ルークはとりあえず話に乗ってみることにした。
「………それでその情報ってのは金貨何枚なんだ。」
「伝説に残る英雄様から金なんて取らねぇ。いや、取れねぇ。俺からお前にやれる情報は一つ。禁忌の魔女の生存だ。」
「「禁忌の魔女…?」」
情報屋は人差し指をピンと伸ばしそれを突きつけてくる。
それに対しミヤとシルタは完全に蚊帳の外。なんの話をしているのかわからなかった。
だがその瞬間、またルークの瞳に光が灯る。
「じ、ジターネが生きてる…だと?」
禁忌の魔女、もといジターネ。それは約3000年前にあった魔王討伐隊―現在では12の英傑―の死んだはずの仲間の名だった。
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