13 プロテスト。⑤

 ファーストエスケープを獲得した【ラブ・サイダー】を見て、当初の予定通りトップからゲームを作ることを決めた僕は、トップ側のデブリにあるクックルを狩り終えたあと、相手のトップライナーがエスケープから戻ってくるところを狙って、ラインに奇襲を仕掛ける。


 イージーゴアがミッドに顔を出したのを見て、2対1が確定した瞬間、デブリから飛び出して相手トップライナーを包み込むように、スロウがかかる毒の空間を発生させる。それを見たラブ・サイダーが毒の空間に突っ込んでいき、簡単に相手をエスケープさせることに成功する。


 直後、僕はデブリピット内のマシン・オレンジにピンを指さす。


 マシン・オレンジはトップ側のデブリのピットのなかに発生する重要な中立モンスターだ。三体のオレンジ色のモンスターが湧いているのだが、それを獲得すると、少しの賞金と経験値、それからスターを削るのに有益なパッシブスキルをもたらしてくれる。もちろん、相手もこれを狙ってくるので、トップ側で有利を作れたら、ぜひとも獲得したい中立モンスターだった。


 ピンを焚きマシン・オレンジを獲得しようと指示を出したつもりだったけど、ラブ・サイダーはトップスターを攻撃しようと、ボールを押し始めていた。これがラブ・サイダーがタイマンに強くても、ゲームで勝てない理由だった。



『マシン・オレンジを食べたいから、トップも手伝って!』



 オープンVCをオンにして名指しで指示を要求すると、ラブ・サイダーはボールに対する攻撃をやめて、こちらについて来てくれる。そして二人でピットのなかに入り、マシン・オレンジを攻撃する。ミニマップを見ると相手のデブリはマシン・オレンジを諦めて、ミッドの有利を活かし、ボット側でゲームを作ることにしたようだ。



『どうして、これ食べたいの?』

『これ食べると、経験値とお金とスターを壊しやすくなるバフを貰えるから』

『それだけ?』

『……相手を倒したことで僕たちにはスターを壊すかオレンジを食べるかの選択肢が生まれたわけでしょ? で、どちらの選択が良いか考えると、ここでスターを壊す意味はあまりない。理由はオレンジを食べたらバフを貰えて、のちのちスターは壊れるから。これに加えて、オレンジを食べる選択肢は相手の機会損失にも繋がる。スターを壊すのは、機会損失には繋がらない』

『……むずかしい。ちょっと前に1000円の200円引きと、20パーセントオフ、どちらが安いか聞かれたけど、分からなかったの』

『どちらも同じ値段だね』

『……そうなんだ。じゃあ、1キロの鉄と、1キロの綿毛ってどっちが重い?』

『両方同じ重さだね』



 雑談混じりにオレンジを三体獲得することに成功する。相手にはボット側のピットで一体目のドラゴンを取られたけど、ラブ・サイダーのひととなりを知れた分、ワースだった。


 ワースというのは価値があるとかそういう意味の言葉だ。コミュニケーションが重要になるこのゲームにおいては、味方の性格を把握するのがゲームを組み立てる上で重要だった。



『再出撃の後、トップとミッドを交換する。理由はトップで作った有利をドラゴンに活かしたいから』

『よく分からないけど、ミッドに行く』



 再出撃をして戦艦ハルケーに帰還する。ジャンクと視界を取るためのソナーを購入して、ユニバースに出る。そのタイミングでちょうどエスケープタイマーからサンデーサイレンスが復活する。



【わたしトップ行くね】



 ミッドに向かうラブ・サイダーの意図を理解した美咲からチャットが届く。やっぱり美咲はゲームIQが高い。彼女にはトップラインというドラゴンから離れたラインで、LIPスライムを押さえつけてもらう必要がある。苦しい役割を押し付けることになるけど、美咲じゃないとLIPスライムは止められない。


 当然、美咲は自分の役割を理解している。


 覚悟の決まった美咲のチャットにいいねで反応をして、またファームのためにデブリのフルクリアに戻った。

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