命がけの推し活

美杉。(美杉日和。)節約令嬢発売中!

第1話

 俺の腕に絡まりながら、彼女が幸せそうに微笑んだ。


 彼女とは交際三ヶ月。

 同じ大学に通う彼女は、茶色く明るい髪に大きな瞳。

 小さくて、くるくると動く表情はまるで子リスのよう。


 彼女から告白された時は、何かの企画か、と疑うほどびっくりした。


 俺は見た目こそ普通だが、隠れド陰キャだ。

 外ではこの中身を隠して、なんとか生きてきた。


「ゆぅくーん。ねぇ、週末はどーするの?」

「え、今週末? あー、俺ちょっと用事があって」

「えー! 彼女置いてどこに行くのよ。まさか、他の女じゃないでしょうね!」


 先ほどの天使のような笑顔はどこに行ったというぐらいに、表情ががらりと変わった。目は吊り上がり、その視線で人が殺せそうなほど鋭く、また絡んだ腕が、ギリギリと俺の腕を締め上げてくる。


 俺の可愛い彼女は、極度のヤンデレだ。

 俺の行動、言動。

 SNSやその全てに至るまで、常に監視されている。

 だからこそ、困ったことがある。


「あみっていう、かわいい彼女がいるのに浮気なんてするはずないだろ。帰ってきたらすぐ電話するし、行った先でも写メ送るよ」

「でもぉ」

「ちょっと実家に荷物取りに帰るだけだって」

「ホントにそれだけ?」

「本当にそれだけ。夕方までには帰るから」

「それなら、いいけどぉ。むぅ。浮気したら、絶対に許さないからね」


 彼女の許さないは物理的な意味だからこれがまた恐ろしい。

 ついこの前、同級生の女の子と少し話し込んだだけで暴れまわり、腕を引っかかれたっけ。


 猫みたいだと友人は言っていたが、あくまで可愛くとも彼女は人間だからなぁ。


「浮気なんてしないよ」

「あみ、知らない女とゆぅくんが一緒とか絶対に無理だからね」

「もちろん、分かってるよ。あみは可愛いなぁ」


 その言葉に、彼女はかわいく頬を膨らませた。

 そして俺はなだめるように、彼女の頭を撫でる。

 たったそれだけで、彼女はご満悦だ。


 もし俺の本当の目的を彼女が知ったら。

 そう思っただけでゾッとする。


 この週末、俺は当初からの目的だった推しのグッズを買いに行く。

 彼女によく似た、可愛いラノベのキャラクター。


 もちろん彼女には秘密だ。

 たかがキャラだと言えばそれまでだが、おそらく彼女にその言い訳は通じない。


 バレたら確実に異世界にでも逃げないとダメだろうな。 

 そんな風に思いながら鞄からスマホを取り出す。

 

 すると真っ暗な液晶画面に、自分以外の顔が映り込む。

 慌てて振り返ったものの、そこからの記憶はもうなかった――


 

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