あなたの檻はあたたかい

甘夏紅茶

第1話 見知らぬ部屋

ん…なんか頭痛い…。


頭痛って感じの、ズキズキする痛みじゃないけど、なんかズンと重い…。


頭を抑えながら瞳を開くと、見慣れない光景が広がっていた。


白色の壁に溶け込むようなアイボリーカラーのラック、整理整頓されたポーチや本、そしてコロンとした形のミニテーブル…。


これって…部屋?でも部屋だったらこんな物が少ない訳ないよね…?

SNSで見るかわいい女の子だって、推しや好きなものに、足の踏み場もないぐらい囲まれているのに…。


何ここ…なんなの…?



「あら、おはよう。調子はいかが?」


背後から声を掛けられ、思わずビクッってなった。


恐る恐る振り返ると、そこにはロイヤルブルーの部屋着に包まれたお姉さんが立っていた。


部屋着の青色が、肩につくぐらいのサラサラとした髪を際立てている。


きれいな方だな…。


思わず見惚れていると、笑みを浮かびながら顔を覗きこまれた。


「怖がらせちゃってごめんね。後ろから声を掛けられちゃ、そりゃびっくりするよね。

私はあなたに危害を加えようとはしてないから、安心してね。」


落ち着きのある声で話しかけられながら、そっと頭を撫でられた。


赤の他人に触られたはずなのに、不思議と悪い心地はしなかった。


むしろ、ホッとするような…。

フワッと香る香水のせいかな。


「体起こせそう?今からホットココア飲もうかと思ってたけど、よかったらいっしょにと思って。」


声を掛けられ、わたしは喉がカラカラな事に気づいた。


無意識に喉に手を当てたわたしの様子を見て察したようで、お姉さんはふふっと笑みをこぼしながら、キッチンに行ってくるわねと席を外した。



再びひとりの時間に戻り、わたしはこわばってた肩の力が抜けた…かと思いきや、そうでもなかった。

思いの外リラックスしてたようで。


なんなら、しっとり体を包み込むようなベッドで寝たからか普段より身体は軽くて…。


これまでわたしはてきとーに声かけてきた人の部屋に転がり込んで、追い出されるまでてきとーに居座って感じだったから、布団がないことだってざらにあった。


食べ物なんてもらえないことの方が当たり前で。


温かい食べ物(ココアは飲み物だけど)を見ず知らずの他人に用意するなんて、このお姉さんは何者なんだろう。



いったい何を考えているのか。



というかそもそもなんでわたしはこんなとこにいるんだっけ?


…昨日の事を思い出してみよう。


わたしはいつも通り、街で声掛けられるのを待ってたよな、たしか。


んで昨日はたしかキャップを深く被ったお兄さんに声を掛けられて…。


そうそう、いつもおじさんに声掛けられてばっかだったから、若い人が声掛けてくるって珍しいなって思ったんだよな。

しかも勧誘とかじゃなさそうだったし。

身なりも小汚さとか感じなかったから、なおさら不思議には思って…。


そしてホテルに誘われたから一緒に行って…。


それで…、あれ、あの後何したっけ……?




「飲みもの持ってきたよ。」


声を掛けられ、ハッと我に返った。


「少し具合悪そうだけど…、どこか痛む?

丁寧に運んだつもりだけど、怪我させちゃったかしら。」


「あっ、いえ、それは大丈夫です!」


普段のわたしなら敬語なんて使わないし、そもそもまともに会話なんてする気ないけど、お姉さんの優しい雰囲気と口調のせいでついつられて返事しちゃった。


それならよかった、と微笑むお姉さんからココアを手渡され、少し緊張しながらも口にした。


甘くてコク深い、優しい味だった。


「そうそう、ここに来るまでの説明がまだだったわよね。ココアを飲みながら、リラックスして聞いてくれたら嬉しいわ。」


お姉さんはこう切り出し、現在に至るまでの経緯を話し始めた、、、

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