第18話 遺体は何処へ?
山田隼人は、あの夜以来まともに眠れていなかった。居酒屋での古川との諍いはうっすら覚えているが、それ以降の記憶は完全に欠落している。
それは栗城の事件の時と全く同じ状況だった。
「あの男も、俺が殺ってしまったんだろうか?」
自問自答を繰り返す山田。
しかし、栗城の時と違って殺人事件のニュースは上がらない。
「あ、あれは悪い幻覚だったのだろうか?」と、わずかな安堵を覚えた数日後、彼の住む瀬名町在住の古川という青年が「行方不明である」というニュースが流れ、山田は凍りつく思いだった。
「行方不明?彼はやはり殺されたのか?でも、遺体はどこへ?」
自分への不信感は増す一方、その動揺は仕事に響いた。
栗原の新規現場で、足場の組み方を間違えるという致命的なミスを犯してしまう。
当然のごとく、馬場は怒り心頭。
山田と組んでいた入沢にまでとばっちりが行き渡った。
「山田てめぇ!いい加減殺すぞ!」
「す、すいません…」
「入沢ちゃんも山田に言われたことだけやってちゃ駄目だろ?」
「は、はい…」
山田と同等にお叱りを受ける入沢は、深く謝罪しながらも馬場を睨みつける。
「足場完成しなきゃ仕事始まんねぇよ!二人とも、明日の朝までに足場組み直しとけ!」
怒り浸透の馬場を宥めるように、栗原が冷たいお茶を持ってやってきた。
「まあまあ、馬場ちゃん。うちの納期はどうとでもなるから…ここはリラックス、リラックス。」
「船長、すんません!この山田がポンコツ過ぎて…」
「いやいや、山ちゃん、真面目だから考えすぎちゃったんじゃない?」
栗原の優しさに山田は救われたが、もはや仕事の失敗などどうでも良かった。
もし古川を自分が殺めたとなると、もはや自分は無差別殺人犯であることを自覚しなければならない。
「お、俺は…終わりたくない…。」
そんな山田の失態を、隣の棟の屋上から新倉、藁谷、小林の三人が見下ろしていた。
「ヒャッハッハッ!山ちゃんまたやっちまったなぁ…」
「もう一回やり直し?マジあいつやべぇな」
藁谷は高笑いし、新倉はガリガリ君を片手に笑う中、小林はまた山田に異変が起きていることを察しているかのようだった。
「山ちゃん…。」
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