消える遺体

第17話 甦る記憶

山田隼人は、何事もなかったかのように自室のベッドで目を覚ました。

妻の由香子にいつも通り見送られ、彼は会社へと向かう。

会社に着いた山田を、馬場の罵声が迎えた。

「山田!こばちゃんに聞いたぞ!何でお前まで栗原船長の船に乗ってんだよ!」

「小林さんに…誘われたもので…」

「こばちゃんが何とか仕事に繋げたものの、船長の気が変わって現場なくなったらお前のせいだからな!」

「それは多分…大丈夫じゃないですかね?」

珍しく口答えする山田に馬場の顔は強張り、いつものように朝の談笑をしていた新倉、藁谷、入沢、そして峯岸夫妻も目を見張った。

「こいつ…酔ってるのか?酒臭いぞ山田!」

「それは失礼…。行きつけの居酒屋にアジをお裾分けしていたもので…」

「そんな気回ししてる暇があったら、もっと仕事しろや、ボケ!」

馬場は罵詈雑言を残して社長室に引っ込み、山田はうつむきながらも笑みを浮かべていた。


「よぉ、山ちゃん!見直したぜ…。ついに社長に反抗するとはよぉ」

現場に直行した小林に代わり、車に道具を積み込む山田の肩を、藁谷が叩いた。

「別に反抗したわけじゃ…。いつものことだから…」

「半ばヤケクソになっちまったのか?」

続いて新倉がアイスモナカを片手に声をかける。

「いや、別に波風を立てるつもりはありませんから…。」

「せっかく船長から仕事が回ってきたんだからよ、馬場ちゃんを怒らせて、今度は仕事自体失わないようにな…。」


「コラ、山田~!何社長に逆らってんだよ~!」

ムードメーカーの事務員ユキが山田を茶化す。

「いや、本当に馬場さんに刃向かう気はありませんから…」

「刃向かう気はなくても、酒飲んで出社してくるなんて良い度胸じゃん。またもつ煮食べたの?」

「もつ煮…昨日のもつ煮は…」

山田が昨夜の塩もつ煮のことをユキに話そうとした途端、また謎の映像が脳裏をよぎった。

深夜の路地裏で、首から血を流しながら倒れる青年。彼はすでに瀕死だったが、さらにアーミーナイフで何度も刺され、絶命する。


「うわぁぁぁ!」

「何?どうした、山ちゃん?」

いきなり声を上げた山田を、ユキは目を丸くしながら気遣う。

「おいおい、ユキ、いい加減に山ちゃんの邪魔してないで仕事しろ!」

夫の峯岸がユキを咎め、彼女はしぶしぶデスクに戻る。

「うちのが邪魔したな…。気にせず準備を続けてくれ、山ちゃん。」

「は、はい…峯岸さん…。」

山田は気を取り直して資材を積み込むが、再び過る謎の映像の人物が昨夜の塩もつ煮の居酒屋で絡んできた古川であることを思い出した。

「そ、そんな…また俺が…殺ったと言うのか?」

山田は次第に、自分自身に恐怖を感じ始めていた。

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