第23話 天井裏にて

 ◆◇◆◇◆



 ボボボボと音を立てて明かりが灯る。一瞬目がくらんで、慣れてきたときには屋根裏部屋と表現できるだろう広い場所に出た。あちらこちらからはりが伸びていて進みにくい。


「ここは」

「屋敷の天井裏だと思うが、なんとも言えないな。現実にあるような気がしない」


 そう告げて、彼は俺の手を掴んだまま突き進む。


「なあ。迷子防止のためだとは思うが、いつまで握っているんだ?」

「屋敷を出るまでは念のため。はぐれたらもう会えない気がして」


 顔は冗談めかして笑っていたが、声は少し震えていて、不安な気持ちが混じっていた。

 大袈裟なと笑ってやりたかったが、そんな軽い話でもない感じがして俺はこれ以上追及するのをやめる代わりに彼の手をぎゅっと握りしめる。


「それなら仕方がないな。腕を切り落とされたら、そっちから回復するように善処する」

「縁起でもないこと、いうなよ」

「俺は、あんたとは離れねえよ。なんなら、契約しておくか? 山をおりるまでの期間で」


 俺が提案すると、彼はゆるりと頭を振った。


「いや、そこまでは」

「代償、あんたのためなら払ってもいい」

「これ以上呪われたら、きみは元の体に戻れなくなるよ」


 あきれたように返して、彼は小さく笑った。


「そのときは、あんたの嫁でも婿でもなってやるよ」

「おっと……思いがけず、重い契約を持ち出したね、きみ」

「ちゃんと恋愛していなくて申し訳なく思うが、結婚してから学んでもいいだろう?」

「ぷはっ」


 彼はついに噴き出して笑った。


「そういうのはね、死亡フラグっていうんだって。僕に安売りするのは得策じゃない」

「だが、これまで俺は、俺を必要としてくれる相手に出会えなかった。一人の存在として、認めて、求めてくれたのはあんただけだ」

「……っ」


 急に苦虫を噛み潰したような顔をして、彼はぷいっと前を向いてしまった。


「――そういえば、きみの境遇は、幸福なものではなかったのだったね」

「まあ、一般的には」

「あの子もね、そうだったんだろうね」

「あの子?」


 これまで出てきたことのなかったフレーズが脳裏に引っかかる。俺が首を傾げたところで、彼は足を止めた。





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