第13話 アオミの隠し事
アカリは気を失いその場に崩れ落ちた。もちろん、やったのは他でもないクインさまである。アカリの想像通り実力をほんの一部しか見せていなかったクインさまにとって、一瞬でいちゴブリンの意識を奪うなど造作もない事であった。
クインさまはアカリを担ぎ上げ、その光景をただ見ているアオミに声をかける。
「アオミ、この子は友達?」
「……はい」
「変わった子だよね、あまりゴブリンぽくないし。ま、それはアタシが言えた事じゃないけど。でもゴブリンなのに王様であるアタシを知らないなんて、本当にどこからきたのかしらね」
少しだけ、クインさまの口調が厳しくなった。
「もしかして、この子も準備のひとつなのかしら?」
すると、アオミは慌てて否定した。
「ち、違います! アカリとは本当に偶然ガラクタ地帯で出会って……」
「ふうん。まあそれはいいけど、どうしてギガスと戦わせたの。アンタが本気で戦えば、ギガス一匹程度なんか楽勝だったでしょ」
「それは、その」
「はあ……、その様子だとマギ装術の鍛錬はやってないみたいね。せっかく街から離れて暮らしてるっていうのに、まだ恐れてるの?」
クインさまの言葉を受け、アオミの脳裏にかつての記憶が蘇る。アオミが街から離れて暮らしている理由、多くの被害を出すところであった暴走の記憶が。
「あれこれ準備するのは結構な事だけど、アンタ自身が強くならなきゃ禁域への許可は出せないわよ。分かってるとは思うけどね」
「……はい」
しかしそれでもアオミの返事は歯切れが悪かった。
その反応にもどかしくなったのか、はたまた真面目な顔をするのが限界を迎えたのか、クインさまは突如声を上げた。
「あーっ! もうやめやめ。久しぶりに会ったのにお説教なんてアタシだってやーよぅ。それでなくても忙しいのに!」
「もしかして、さっきのギガスって……」
アオミには不思議に思っていた事がある。
ゴブリンたちの王であるクインさまは、ゴブリンはもちろん他の種族も含め桁違いの強さを誇っている。その威光のおかげで街の住民たちは怪物を恐れる事なく暮らせているのだ。
それなのに通常ではありえないギガスの襲撃という事態に、何者かの意図を感じざるを得なかった。
そして、その何者かには心当たりがあった。
「あー、ブロンデの仕業かもね。あの悪ガキ、王様の仕事増やさないで欲しいわ」
街に住む者ならばそのほとんどが知っている名前、オーガ族の王を名乗る男ブロンデ。
クインさまの治世を憎む彼はまだ若いが多くのはぐれ者たちを束ね、その勢力は無視できない程の規模になっているとの噂であった。
「でもまあ確証はないからね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。まー、そのうちわかるでしょ」
そう言うとクインさまはアカリを担いだまま歩き始めた。あまりにも自然にアカリを連れて行こうとしたので反応が一瞬遅れたが、アオミが慌てて声をかける。
「あっ、ちょっと待ってください! アカリをどこに連れて行くんですか? ていうか不敬罪って何ですか!?」
「それはちょっとした冗談よ」
「冗談……」
「大丈夫、悪いようにはしないから。アンタもたまにはチャンティの所に顔出しなさいよ~」
次の瞬間には、クインさまの姿はアカリと共に消えていた。
「……」
その場に残されたアオミはしばらく立ち尽くしていた。
(わたしは……悪い子だ)
その胸に女王にも話せぬ秘密を抱いて。
――ちなみに、いつまで立っても昼食が届かないモモロモは空腹でキレ散らかしていたという。
「あーしの昼メシこねーし!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます