第2話
馬車に戻ると、
随行している者達の中にはこの休憩の間に仮眠を取ってる者もいたが、
数時間後、そろそろ出発だと彼らが目覚め始めても、空にはまだ星が瞬いている。
馬車は走り出す。
陸議は馬車の壁に凭れて、布の合間から見える外の様子を見ていた。
人にはそれぞれの家がある。
実家には家族がいて、その家族の形もそれぞれ違う物だと実感した。
司馬孚の話を聞いているうちに陸家のことを思い出してしまった。
あの人達に子供の頃から向けられていた、冷たい眼差し……。
今、本家は恐らく
陸家の者達が当主にしたかったのは元々陸績なので、陸績が当主になったことによる混乱などは特になく、一丸となってこの危機を支えているはずだった。
多分、自分は状況からして攫われ、殺されたという判断になっているだろう。
しかし遺体が明確に出ていないので、葬儀などもやっていいものか分かりにくいだろうな、と冷静にそんなことを考える。
陸議は、何度か陸家で葬儀を取り仕切って行ったことがある。
一人は
それからも一族の者達が何人か亡くなった時には、当主として葬儀の支度を整えて行って来た。
その頃から、自分が死んだ時は、
一族の者達と心の通わない、人望の無い当主だったから。
体裁だけ整えた、誰も泣かない葬儀など、何か無性に悲しくなるだけだ。
(……これで良かったのかもしれない)
消える直前に、陸議が周瑜の密命で
中には、この失態を詫びて陸議が自刃をしたと思う者もいるはずだった。
陸議を
失態を恥じて自刃したとなると、いよいよ陸家は陸議のために葬儀はしにくくなる。
自分の葬儀というものがどんな風に執り行われるのか、全く想像が今まで出来なかったが、ある意味、そういう自分らしい最後とも言えかもしれないなと静かに思った。
最後には何も残さず、消える。
陸議は別に、構わなかった。
偲ばれないような人間になりたかったわけではないけれど、人の役に立とうと努力はして来たという思いはある。
その努力をしても、尚、人に死を偲ばれないのであれば、それは自分の努力が足りなかったということなのだ。
残念かもしれないが悲しみはない。
どうせ人は死ぬ時は、一人なのだ。
残された者を自分の死で、悲しませたいなどとは陸議は一度も思ったことはない。
(だけどたった一人の家族なら……)
最後まで、戦場に向かう兵を座って見送ることは出来ないと、家の前まで出て来て見送ってくれたが、あれは、たった一人の息子を見送るつもりでも出て来たのだと思う。
息子の書いた字を知らず、他人に対して書いた徐庶の文を、興味深そうに見ていた。
陸議の脳裏に、まだ星も薄く空に残る刻限に――たった一人で
見送ってくれる彼の優しさがとても嬉しかったのに、何故かその小さくなって行く姿に心が痛んで、いつしか振り返ることが出来なくなった。
自分の葬儀など、別に行われなくてもいいけれど、
……別れは苦手だ。
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