第6話 準備万端だとしてもやはり魔物は怖いようで
「さすがに俺たち初対面だよな?」
「さぁ、覚えてないというか……僕、雑魚しか狙わないから」
それはそれで不服である。
リナの話からして、俺はおそらくここを通るのは2週目。リナは俺のことをはっきり覚えていたが、ローニャはどうやら心当たり無さそうだ。
何か掴めると思ったんだがなぁ。
「雑魚」だから襲った、か。
……ムカつく!
ん? いや、まて、雑魚であることがイベント発生の条件だったとしたら? イベントが発生すれば必ずローニャは仲間になる。だって、そうしないと先に進めないわけだから。ダンジョン攻略ではローニャの【迷宮探索】が必須。しかし、今回イベント発生し、ローニャは仲間になった。
てことは、
1度目ではイベント発生していない……?
これは、何を意味する?
1度目は恐らくここを通っていないか、もしくは俺が、イベント発生しないほど強かった?
確かに、後者であると仮定するなら、今の俺では考えられない最奥のダンジョンの入口まで到達出来たとしても矛盾はない。
しかし、新たな疑問が浮かぶ。
それだけ強かった俺が、なぜ今このロリっ子達にも舐められるほど、弱くなってしまっている?
彼女たちは、というかリナだが、死んだとしても弱くなった素振りはなかった。
なにか、なにか前後で違うことがあるはずだ。
あっ。
「考える顔なんて似合わないわよ」
「うるさいな、もう、思いつきそうだったのに忘れたじゃねーか! こっちは真面目に考察してんだよ」
「なんであんたがそんなに弱いかについてか?」
「ちっ、違! ……いや、半分当たってるよ」
俺は地べたに寝そべり、リナに全身ヒールを受けながら悪態をついた。
「言っとくけど、……嫉妬じゃないから」
「小さくて聞こえねえよ」
嫉妬……。俺はローニャを庇ったせいで、先程ボコボコに叩かれたことを思い出した。
☆
「ふと疑問なんだが、どうやったらスキルとか覚えられるんだ?」
もう少しで街に入るというところ、ずっと抱いていた疑問を2人にぶつけてみた。
なんの疑問もなく【なぎ払い】を覚えて使ってきた俺だが、ふと湧いてきたのだ。なんせ攻略本にあったような経験値やステータス、スキルポイント、フィジカルポイントを目視出来るシステムなんてないし、【なぎ払い】にスキルポイント振った記憶もない。
8から9に飛ぶように、この瞬間にレベルが上がった! という感覚もない。じわじわと連続的に強くなっている感覚はあるが、これが最適解なのかと問われれば疑問が残った。
「「練習よ(だよ)」」
ふたりが同時に言う。まぁわかってたが。
「じゃあ俺が【なぎ払い】覚えたのも、知らず知らずに練習してたってことか?」
「そうなるね。意図してなくてもスキルとして覚えたりするから」
「私は意図して覚えたわよ」
「お前に他人を助けようという甲斐性があるようにはみえんが?」
「あんたに見捨てられるまでは聖女のような性格だったのよ! 」
それは申し訳ない、と思う反面、全く身に覚えのないことで難癖つけられている気分である。
しかしこれで分かったことを整理してみる。
反復練習 = スキルポイントの割り振りとか、フィジカルポイントの割り振りに当たるんだろう。
練習の過程でおそらく経験値も入り、レベルが上がっていくと。
「僕は、練習したかな!」
「へ、へぇ……【電光石火】は普通にわかるが、何を考えたら【スリ】なんてしようと思うんだよ……」
「ほんとよね。人を助けたい! と常々考えてる私からすれば考えられないわ」
出会った時に強烈のマッチポンプを受けた俺からすれば、リナに白い目を向けざるを得ない。
「そんなの関係ないだろ!」と、強めに反論するローニャに疑問を抱きながらも、そろそろ街が見えてきたので俺は剣を抜く。
「そんじゃお二人さん、さっきの作戦通りにな」
「あ、あぁそうだったな。ほんとに敵なんて出てくるのか?」
「僕も疑問だ。まぁ、こんなに街のハズレに出てくる魔物なんて雑魚に決まってる」
疑いの目を向けてくるが間違いない。ここでイベント発生するはずなのだ。
そう思いながらゆっくりと歩いていくと、突如草陰からゴブリンキングが現れた! しかし想定済みだった俺は特に驚くことはなく、流れるように戦闘態勢に入る。
この後のローニャとリナのセリフは覚えている。攻略本に書いていた。
な、なんでこんな所にゴブリンキングが!? まずいよ!僕の攻撃だとあいつにダメージ与えられない!
「な、なんでこんな所にゴブリンキングがいるのよ!?」
「まずいよ! 僕の攻撃じゃあいつにダメージを与えられない!」
若干違ったけど概ね違いなし!
うーん。実物見ると若干キモイ!
体長は俺の身長をゆうに超えてる。2倍くらいはあるか? 緑の体に、普通のゴブリンとは比べ物にならない程恰幅がいい。腰にはなにかの骨をぶら下げており、豚のような顔には巨大な牙が2本。りな達の胴体位はありそうな太い腕には、刃のかけた巨大なナタが握られており、異様な雰囲気を漂わせていた。しかも臭い! 何だこの獣臭! 思わず鼻をつまんでしまう。
でも行ける!
「いいな! 2人とも、作戦通りに動いてくれ! ローニャは【スリ】で、奴のナタを奪え! その後は足と手首の関節を狙って【電光石火】! 相手が攻撃を仕掛けてきたら俺に【スリ】を使ってヒットアンドアウェイだ! お前の活躍が鍵なる! 頼んだぞ! リナ! お前は隠れてろ! 万が一俺が怪我した時の為に、ヒールの準備と薬草の準備だぞ! て、おいローニャ! てめぇなにしてんだ!」
ふと疑念が浮かんだ。練習でスキルを習得できると言うが、全く練習風景が想像できないような伝説級スキルが、果たしてそんな練習なんかで手に入るのか?
そんな疑問はローニャの奇行で、一瞬でかき消される。
剣を構えて敵をにらみつけていた俺は、目をかっぴらいた。
作戦にない【電光石火】を使ったかと思えば突然、ローニャは明後日の方向に走り出し、草木を切り抜け脱兎のごとく走っていく!
「なにやってるの!? あいつ逃げた! ロジン! あいつ逃げたわ!! ローニャのあほぉぉおおお!」
「お、おい! 止まれ! バカやろぉぉおおおおお!!!」
パーティーメンバーの奇行に、この冒険が思った以上に攻略本のセオリー通りには行かないことを悟り、
同時に、俺はこの先どうすればいいのかと頭を抱えるのであった。
あっという間に作戦の主役が消えた。
……仕方がないので、唖然とするゴブリンキングに軽く会釈し、俺とリナもローニャの後をおった。
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