第5話 スキルが分かっても戦闘システムが違うから役に立たないことを悟った
随分と進んだ。森の中とはいえ、道が整備してあるため迷うことはなかった。ただ、
「おっそいわね、この位の道さっさと歩かないと」
想像以上にきつい! 血の味がする!!
小柄ながらリナの体力は凄まじかった。もはや体力という概念がないのでは? と疑うほど、彼女は息すら切らしていない。ぜぇ、ぜぇ、全くなんて貧弱なんだ。この俺がどうやって再奥まで行ったんだ?!
記憶を疑うほどの苦行に、心が折れ始めたその時、声が聞こえた気がした。リナのものでは無い、やけに甲高い声が森に響く。
「そこの駆け出し冒険者諸君! ここは私の縄張りでね、通行料として荷物置いて行ってもらおうか」
「なんだぁ?」と、リナが棍棒を握りしめる。
で、でた! 今このときまですっかり忘れていたが、そう、ここで山賊と相対し、打ち負かすことで彼女、ローニャがパーティーに加わる。つまり、彼女が2人目の仲間! しっかし、またまたロリ!
姿を現した彼女は、木の上から華麗に着地を決める。
やけに露出の多い服を着ており、腹、肩、太ももは完全に露出している。肩の辺りで綺麗に揃えられており、山で暮らしているとは思えないほどに美しい黒髪だ。
鼻の下を伸ばしながら、上から下までジロジロ見て、彼女が後ろに手を回した瞬間、俺は一気に精神を張り詰めた。
彼女の携帯している武器が目に入ったのだ。
攻略本の文言を思い出す。
「装備さえ揃っていれば問題なくクリア可能なイベントです」
これまでの傾向から、これがそう簡単に行かないことは俺もリナも充分分かっていた。彼女が持っている武器は、鋭利な短刀!
あんなもんで切られたら一溜りもねえ! かするだけでぱっくり行かれる!
「リナ! 約束は覚えているな」
「だ、大丈夫! 怪我しない、よね!」
「そうだ! つまり、ノーダメクリア。これは骨が折れる戦いになるぞ」
「ノーダメ? クリア? 全く、不可解な言語を話すんだね。ちょっといい情報聞けるかも?」
「おい! それじゃ怪我してるじゃないのよ!」
「これは慣用句で! て、もういい! くるぞ!」
山賊ローニャの話を全くスルーしていることに怒ったのか「無視するな!【電光石火】!」
と切りかかってきた。
俺はリナ背後へと回らせ、すかさず石の剣を抜き、振り払うことで距離をとる。
「【なぎ払い】!」
あの本には敵のスキルなんかは載ってたりしたが、攻略手順通りに戦闘を進めるには、それを達成出来るだけの身体能力が必要である。
しかも、戦闘において自分の攻撃が終わったら相手の攻撃を必ず待たなければならないという道理もないし、気を抜けば一気に詰められる。攻撃受けたから次は俺の番! なんてことは無いのだ。
そもそもあの本ターン制コマンドバトル? の攻略本だからな。現実じゃステータスも開けないし、戦闘にはあんまり役に立たないな。
道中で必死に覚えたスキルで応戦するが、あまり手応えはない。
スキルとは言っても、ただ石の剣を振り回すだけではあるが。
「ふん、結構やるんだね。じゃ、これはどうかな?【スリ】!」
瞬間、目の前からローニャの姿がきえる! 消えた!? 一体どこに!?
【電光石火】と、【スリ】があるのは初めから知っている事実だ。しかし、それがどのように発動されるかなどは、戦ってみないと分からない。【電光石火】は何とか対処できたが、【スリ】に対しては対策する間もなかった!
俺の懐に潜り込んだローニャは俺のベルトを緩め、腰につけていた麻袋を漁っている!
うん! わかってた! 攻撃スキルじゃないし、俺たちは今特に取られて困るものなど持っていない。だからあんま警戒してなかったのもあるが、
「いてっ」
「そらそうなるわな。来るとこが分かってれば怖くないんだよ。対策なんかするまでもない」
豆鉄砲を食らったかのようなローニャをゲンコツし、捕まえてやろうと手を伸ばした時、手に持った短刀はそのままに、ローニャが大暴れ!
捕まえようと伸ばした手に、刃が掠る!
その凄まじい切れ味は、重たい石の剣を握り、道中幾度となく戦闘を繰り返し分厚くなった手の皮を簡単に切り裂いた!
「……い、いてぇぇぇえええええ!! てめぇ!」
「ご、ごめ、そんなつもりじゃっ!!」
指を切られた、いやもうほとんどかすり傷なのだが、それでも切られたことに変わりはない。指からはゆっくりと血がにじみでている。そんな可哀想な被害者である俺が切れるより先、怒号が響いた。
「何してくれとんねんごらぁぁぁぁああああ!!!」
リナがブチ切れた。大地をふるわす咆哮(比喩)が、俺とローニャを襲う! これ、リナを怒らせて怒鳴らせれば勝てるのでは?
咄嗟に浮かんが考えに自ら頷き、
俺はここぞとばかりに地面にうずくまる!
「い、いてぇぇぇぇ!!! ぁぁぁあああああああ!! 薬草! 薬草ぉぉおお! あああああ! これじゃ感染症にかかって死んでしまうぅぅうう!」
「うそだよ! 絶対そんな痛くないよ! だってかすっただけじゃん! 血だって出てないじゃん! ぼ、僕は……!」
「言い訳無用! このヒノキの棍棒で、叩き殺してくれるわああああああああぁぁぁ!」
たしかに、血が出たというのは俺の勘違いかもしれないが、リナにはそんなこと関係ない。
容赦せん! とばかりに棍棒を振り上げた。
元々魔法の補助のための道具らしいが、リナの身長ほどの長さがあり先端はコブのように膨らんでいる。当然、それを振り回せば立派な凶器となる。
さすがにあんなもので殴られたらローニャが死ぬ!
リナの大激怒を助長した身だが、俺はすぐさま起き上がり、ローニャに覆い被さる!
「「……え?」」
ゴ!と言う鈍い音が間の抜けた声と共に森に響く。
瞬間、俺の背中には強烈な衝撃が走る! 鎧のおかげで、痛くないけどこれは頭に食らってたらやべぇ!
「どうして、助けた?」
涙で潤んだ瞳が、至近距離にある俺の顔を真っ直ぐ見つめる。
「俺は誰も傷つけたくない。ただそれだけだ。お前にも傷ついて欲しくなかった」
「ごめんね! ごめんね! 僕も本当はちょっと脅してお金もらおうとしただけで、傷つけようと思ってなくてさ」
俺は吐息混じりに答える。
「大丈夫さぁ、君の気持ちは充分伝わってるよ。俺の、仲間にならないかい?」
「は、はいっ!」
さぁて、2人目の仲間も手に入れたところで、僕は後ろで邪神になってるリナの相手でもしましょうかね。
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