第3話 好きな人の好きな人

『ねえ、斗真先輩って、彼女……いるか知ってる?』

 スマホの向こうで、サッカー部マネの柚月の硬い声がする。

「さあ、どうだろ。聞いたことないけど」

 何でもない風を装ってさらっと返すと、ホッと安堵のため息が聞こえてくる。

『サッカー部はモテる』ってのは都市伝説なんかではなく、実際彼女持ちの先輩は多い。

 しかも彼女自慢をしたい人ばっかだから、誰が誰と付き合ってる、なんてことは一年の俺たちでも大体把握している。

 つまり俺が知らないってことは、斗真先輩には彼女がいない可能性が大ってことだ。

 サッカー部キャプテンで、エースストライカー。

 モテ要素満載なのに、そういやだいぶ意外な人がフリーなんだな。

『だったらさ、斗真先輩、あたしのこと、どう思ってると思う?』

「は? 知らねえけど……まあ、別に嫌ってはねえんじゃね?」

『そうじゃなくて! あたしのこと、ちょっとはいいなって思ってくれてるかなあってこと!』

「だから知らないって」

『じゃあ、今度それとな~く聞いてみてよ』

「は? んなの無理だって。俺、あんましゃべったことねえし」

『そんなこと言わないで。お願い!』

 スマホの向こうで土下座でもしてそうな勢いで頼み込まれ、うぐっと言葉を飲み込む。

 ……わかってる。こうなったのは自業自得だってことくらい。


「拓海くん。あのね、あたし、拓海くんのことが好きで……その……もしよかったら、あたしとお付き合いしてください!」

 高校に入学したて、サッカー部に入りたての頃、俺は柚月に告白された。

 初めて見たときから「かわいいな」とは思っていたけど、まだよく知らなかったし、純粋にサッカーを頑張りたいってそんときは思ってたし……つまり、そんなわけで柚月の告白は失敗に終わった。

 他人事みたいに言うなって?

 あーもう、わかったよ。そうだよ、振ったんだよ。この俺が。

 後悔してるのかって?

 めっちゃしてるよ! 見りゃわかるだろ。

 俺にフラれてからも、柚月はマネの仕事をすげー頑張ってて。

 もう、マネ一筋って感じで頑張ってて。

 いつの間にか、そんな柚月に俺は惹かれていった。

 けど、当の柚月は恋なんてもういいやって……そう思ってるんだと思ってた。

 だったら、頑張る柚月のそばにいられるだけで、今はそれでいいやって思ってた。

 けど、実際は違ってたんだ。

 なんでもっと早く自分の気持ちを伝えなかったんだろう。

 自分のことを殴り倒してやりたいよ。

 そばにいるだけでいいなんて、そんな都合のいいことがずっと続くだなんて、なんで思い込んでいたんだ、俺は。

 ギリっと奥歯を噛みしめると、俺は口を開いた。

「わかったよ。うまくいくかわかんねえけど、期待して待っとけ」

『本当⁉ ありがとう。やっぱ持つべきものは友だちだね!』

「あー……おう。任せとけ」

 チクリと胸が痛むのは気付かないフリ。

 今の俺にできることは、好きな人の——柚月の幸せを願うことだけだ。

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