第7話:全力でエレノアを守る!
「はぁ、はぁ……ようやく街の中に到着した! エレノアはどこだ!?」
街の中心地に到着した俺は急いでエレノアを探し始めた。確かゲーム本編では裏路地に迷い込んだ時に悪漢に襲われたと言ってたはずだ。
だから俺はすぐに近くの裏路地に入った。すると路地裏の奥の方からかすかに笑っている男の声が聞こえて来た。そしてかすかに女の子の泣き声も聞こえて来た。
「っ! 多分あっちだ! 急がなきゃ!!」
その声を聞いた俺は全力で裏路地の中を突っ走った。すると……。
「はぁ、はぁ……いたっ! エレノアだ! それに……今まさに男たちに襲われている所じゃないか!!」
俺は裏路地の奥の方に地面に倒れ込んでいるエレノアを発見した。
そしてエレノアのすぐ近くには複数人の男がこん棒を持って大きく振りかぶっている所だった。おそらくエレノアを殴ろうとしてる。そんな事は絶対にさせない!
―― ダダダダダッ!!
「はぁ、はぁ、エレノアに……手を出すなぁああああああああああっ!!」
「え? って、ぐはっ!?」
「ぐぎゃっ!!」
―― ドゴォォォンッ!!
俺は全力疾走でその男たちに近づき全力で飛び蹴りを食らわしていった。ここ最近ずっとトレーニングをしていたので筋力がある程度付いていたのと、男たちにとっては不意打ちだったのでそのまま少し遠くまでぶっ飛ばす事が出来た。
そして男たちに飛び蹴りを食らわせていった後、俺はすぐさまエレノアに声をかけていった。
「はぁ、はぁ……間に合った……大丈夫だったか? エレノア……!」
「あ、あぁ……に、にいさま……!」
俺がそう言っていくと、エレノアは目を見開いて俺の事をじっと見つめてきてくれた。
「あぁ、そうだよ。お前のアニキだよ。はぁ、はぁ……それで無事だったか……エレノア……?」
「は、はい……で、でも……足がすくんでしまって……」
「はぁ、はぁ……わかった。それじゃあ今すぐに手を貸してやる――」
「っち。いってねぇなぁ……なんだよ、今のは……?」
「いや、知らねぇよ。何でいきなり飛び蹴りなんて食らわされなきゃなんねぇんだよな? ってかなんだこのガキは??」
「はぁ、はぁ……っ!」
エレノアを助けようとしたその瞬間、先ほど飛び蹴りでぶっ飛ばした男たちが立ち上がってこっちの方に戻って来た。
(まぁ流石にわかってたけど……子供の飛び蹴り如きで大人の男たちを倒せる訳ないよな……)
「に、にいさま……」
「大丈夫だよ、エレノア。そんな不安な顔しなくても」
不安がるエレノアに向かって俺はそう言った。そして俺は倒れているエレノアの前に立ち塞がりながら男たちに立ちはだかった。
「何だこいつ。もしかしてこの嬢ちゃんの兄貴なのか?」
「マジかよ。こんなにも華奢で可愛い嬢ちゃんに比べて、兄貴はブクブクと太ってて全然似てねぇじゃん。こんなブクブクと太った豚兄貴がいるなんてお嬢ちゃん可哀そうだなー」
「……妹に手を出すな」
「おっ、何だよ。豚のクセにカッコ良いじゃねぇか。でもそれは無理な相談だなぁ。俺たちにも生活があるんだ。だから金になりそうなガキをみすみす見逃すなんて事は出来ねぇよ」
「そうそう。まぁでもテメェは男だしブクブクと太ってる豚野郎だから奴隷としての価値もねぇから見逃してやるよ。だから妹ちゃんと置いてさっさと消え失せな!」
「う、うぅ……にいさま……」
「それこそ無理に決まってる。俺の妹を……このまま黙って見捨てて逃げるなんて事は出来ねぇよ!」
「う、うぅ……って、えっ……にい、さま……?」
俺は男たちに向かって凛とした態度でそう言っていった。
「はは、素晴らしき兄妹愛だな。まぁでもお嬢ちゃんを差し出すつもりがねぇって言うなら……痛い目に遭って貰うしかねぇって事だな!」
「あぁ、そうだな! それじゃあ……おらぁ!!」
「ぐはっ!」
「に、にいさま!」
―― ドカンッ!
一人の男がこん棒を大きく振りかぶって俺の身体に向かって打ち付けてきた。俺はその攻撃を受けてグラっとしながら片膝を地面に付けてしまったけど、でも倒れないように必死に堪えていった。
でもそんな堪えてる俺に向かって他の男たちもこん棒で俺の事を全力でタコ殴りにし始めてきた。
「おらっ! おらっ!!」
「おらおら! おらぁっ!!」
「ぐはっ、ぐぐっ……ぐっ……!」
―― ドカッ! バキッ! ドカンッ!!
「おらおら! 俺たちは別にテメェが死んだ所で何とも思わねぇからな? おらっ! おらぁっ!!」
「そうだそうだ。そもそもテメェみてぇな豚は価値なんてねぇしな。だからさっさと妹を置いて逃げちまえよ。そうしなきゃ……ブチ殺しちまうぜ?」
「ぐ、ぐぐっ……い、嫌だね……俺は妹を見捨てて……逃げたりなんて……絶対にしないからな……」
「ぷはは、生意気なクソガキだな! 良いぜ、それじゃあもっと全力で殴ってやるよ! オラッ!! オラッ!!」
―― バキッ! ドコッ!! ドカッ!!
「ぐ、ぐがっ! ぐ、ぐぐっ……!」
男たちは俺の頭や身体に目掛けて何度もこん棒で殴打し続けて来た。当然俺の身体はどんどんと痣だらけになっていたし、血だらけにもなってしまっていた。それでも俺は逃げる事なくエレノアを守るためにずっと倒れず立ち塞がっていった。
「ふ、ふぇ……に、にいさま……血、血が……こんなにも沢山……な、なんで私の事を……そこまで庇うの……ですか……」
「そ、そんなの決まってるじゃないか。妹を守ってやるのは……昔からアニキの役目って決まってるんだよ……うぐはぁっ!?」
「おらおら! のんきに喋ってる場合じゃねぇだろ!! 早く死ねよこのカス!!」
「おらっ!! 死ね死ね! ぎゃははは!!」
―― バキッ! ドコッ!! ドカッ!!
「に、にいさま……! も、もういいです! もういいですから逃げてください……私の事は気になさらずに……どうか……」
「ぐ、ぐぐっ……に、逃げる訳……ないだろ。だって俺はエレノアの兄貴なんだから……ぐ、ぐっ……」
「はは。こんなにも妹思いの兄貴なんて泣かせるじゃねぇか。でも足もフラフラだし全身血だらけだぜ?? こんな死にかけで妹を守るなんて無理な事言ってんじゃねぇよ」
「あぁ、そうだよな。こんな無理な事を言うなんてマジで馬鹿すぎるよな。まぁでもコイツは逃げる気もねぇようだし、そろそろ本気でブチ殺すとするか! それじゃあな! この豚野郎! どりゃああああああ!!」
―― ドカァアアンッ!!
「ぐがはっっ!?」
「っ!? に、にいさま!? にいさまぁあああああっ……!!」
男たちはこん棒を大きく振りかぶって俺の頭に向かって強烈な一撃を食らわしてきた。その強烈な一撃を食らって……俺はついに……意識を失ってしまった……。
エレノア……ごめんな……守り切れなくて……不甲斐ない兄貴でごめん……。
◇◇◇◇
「……はっ!」
「おや。お目覚めですかな。坊ちゃま」
目を覚ますとそこは屋敷の俺の部屋だった。俺は全身を包帯でグルグル巻きにされてベッドに眠らされていた。何だかミイラみたいな感じになっていた。でも意識があるって事は……。
「え、えっと……もしかして俺って生きてるのか?」
「当たり前です。ここがあの世に見えますか?」
「いや、あの世には見えない。それじゃあもしかして……セバスが助けてくれたのか?」
「えぇ、そうです。ちょうど坊ちゃまが賊に頭を殴打されて気を失ったあの瞬間に私も裏路地に駆け付けたのですよ。それすぐに賊共を討伐していき、坊ちゃまとエレノアお嬢様を抱き抱えてここまで帰って来たという次第です」
「そっか。それはセバスに迷惑をかけたな」
「えぇ、全くです。私とのスパルタ式トレーニングのおかげで多少は鍛えていたから良かったものの、打ちどころが悪かったら坊ちゃまは死んでたかもしれないんですよ。自分の命はちゃんと大切にして下さいよ」
「う……わ、悪かったよ。ちゃんと反省するよ……」
「えぇ、そうですよ。今回の件はしっかりと反省してください。まぁでも何はともあれ坊ちゃまが無事でいてくれて本当に良かったです。よくぞ御無事で……」
「セバス……本当に心配かけてごめん。それに生き残れたのも毎日セバスが鍛えてくれたおかげだよ。だからありがとう。それと俺の傷の手当や包帯を巻いてくれたのもセバスなのか? もしそうならこれも本当にありがとうな」
「ん? あぁ、いえ、坊ちゃまの手当や包帯などに関しては私ではありませんよ。それらは全てそこにいらっしゃる……エレノアお嬢様がやって下さったんですよ」
「え? って、あ……」
セバスにそう言われて俺は気が付いた。俺が眠っていたベッドの上に頭を置いて眠っているエレノアがいた事に。
「ぐすっ……にい、さま……」
そしてベッドに頭を乗せながら眠っているエレノアは、涙を溢しながらそうポツリと寝言を呟いていた。
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