第6話:お母様のためにポーション薬を買いに出かけると(エレノア視点)

 とある日の午後。


「お母様……大丈夫かな……」


 昨夜からお母様の体調が優れてない。いつも元気なお母様が体調を悪くしてしまうなんて珍しい事だ。


 私はお母様が死んでしまうのではないかと思ってとても不安な気持ちになっていた……。


 私は従者にポーション薬が無いかを尋ねていった。しかしポーション薬の在庫はちょうど切らしてしまったとの事だった。タイミングが悪かったようだ……。


 なので私はお母さんのためにポーション薬を買ってこようと思って、お小遣いを手に持って一人で屋敷から出て街の中に繰り出していった。


 まぁ本当なら従者と一緒に買い物に出かけるべきだと思ったけど、でも従者の皆にも各々の仕事があるからそんなお願いを急にしても困らせてしまう事になる。


 義兄がいつも従者たちに迷惑をかけてるのをよく見ていたので、私はそんな最低な人間にはなりたくないと思っていた。だから私は一人で買い物に出かける事にしたんだ。


 それに同い年の義兄だってしょっちゅう一人で街の中に出かけてるのだから、私が一人で出かけても何にも問題は起きないだろう。


「はぁ。それにしてもあの男は本当に酷いわ。いつもいつも従者の皆の邪魔ばっかりして……」


 私はため息交じりにそう呟いた。あの男とはもちろん私の義兄であるアレンの事だ。


 あの男はいつもいつも従者の皆の仕事を邪魔する最低な男だった。気に食わない従者に対して体罰をしたり、クビにすると脅したりもしてた。


 それに街に住んでる者たちにも酷い暴言や意地悪な行動を取っていたという話もよく聞くし、それに私もしょっちゅうあの男にはイジメられていた。母様に買って貰った大切なペンダントをあの男に壊された時は泣きそうにもなった。


 そしてそんなイジメばっかりする酷い男のせいで、街に住んでる人にも従者達にも凄く迷惑をかけているんだ。この由緒あるクロフォール家の長男として恥ずかしいと思って欲しいものだ……。


「ふん。あんな男の事を考えてたら不快になるだけだからもう考えるのは止めよう。そんな事よりも今はさっさとポーション薬を買いに行かなきゃだよね」


 そう言って私は街の中心地へとやって来た。街の中心地はワイワイと賑やかな感じだった。活気づいていてとても良い街並だった。


 でも街の中心地にやって来たのは良いんだけど……そもそも私は薬屋さんが街のどの辺りにあるかまでは知らない。なので私は近くを通りかかった男の人にポーション薬を売ってる場所を尋ねていった。


「あ、あのー……す、すいません」

「……ん、何だい? 身なりの良い服を着てるようだが……お嬢ちゃん、家族とは一緒じゃないのかい?」

「あ、あぁ、はい。えっと、今日は一人で買い物に来ました」

「……ほう。そうかそうか。一人で買い物にねぇ……はは、それは偉いねぇ」

「は、はい。それでその……私、ポーション薬を買いに来たんですけど、薬屋さんって何処にありますか?」

「……薬屋か。……はは、それならあっちの裏路地を抜けた先にあるよ?」

「あっちの裏路地を抜けた先ですね! わかりました! 御親切にありがとうございます!」

「……はは。良いって事よ。それじゃあな」

「はい。それでは」


 私は男の人にお礼を述べてから早速その裏路地の中に入っていった。


 すると裏路地の中は先ほどの活気ある街の中心地の雰囲気とはガラっと異なり、人は全くいないし、それにジメジメとした暗い雰囲気が漂っていた。


「う、うぅ……ちょ、ちょっと怖いから……早く薬屋さんを目指そう……」


 私は不安な気持ちになりながらも早歩きで裏路地の中をどんどんと突き進んでいった。


 しかしどんどんと突き進んでみたのに最終的には行き止まりになってしまった。道中にも薬屋さんなんて無かったんだけど……。


「あ、あれ? ど、どうして行き止まりなの? 薬屋さんはこっちにあるって言ってたはず――」

「ぷはは! おいおい、馬鹿なガキが引っかかったようだぞ!」

「え……って、えっ?」


 薬屋さんが無くて辺りをキョロキョロとしてると唐突に後ろから野太い声が聞こえて来た。私はすぐさま後ろを振り返っていった。するとそこには……。


「おぉ、かなりの上物が来たなー! こりゃあ高く売れるぞー!」

「あはは、こんな身なりの良いガキが裏路地に入って来るなんてな! こりゃあ俺たちついてるな!」

「え……な、何ですか、アナタ達は……?」


 後ろを振り返っていくと、そこには何人かの怖そうな男の人たちが立っていた。私は怖い気持ちになりながらそう尋ねていった。


「何ですか、だって?? ぷはは、そりゃあ俺達はそこら辺にいる普通の盗人だよー!」

「え……ぬ、盗人……? そ、それはつまり……悪い人たちって事ですか……?」

「おう、そうさ。お嬢ちゃんは今から悪者の俺たちに捕まえられる事になるんだよ。お嬢ちゃんは身なりが良いからこれは高く売れるだろうなー!」

「そうだな。魔力が高けりゃ研究材料として高値で売れるだろうし、まぁ魔力が低くてもこれだけ容姿が整ってるガキなら他の用途でも結局高値で売れるだろ!」

「えっ!? じ、人身売買は禁止されてるはずでは……? そ、そんなの重罪ですよ……!」

「あはは、犯罪ってのは見つからなきゃ罪にはならねぇんだよー! お嬢ちゃんは学校でそんな事は習わなかったのかなー?」

「それに俺たちみたいな悪いヤツらが蔓延ってる裏路地に入って来たお嬢ちゃんが悪いんだぜー? ってかさ、こんだけ容姿の整ってるガキだと変態な貴族にでも買われたら悲惨な未来が待ってそうだなー?」

「っ!? ひ、悲惨な……未来……?」

「あはは、そうだな。このお嬢ちゃんはどんな人間に買われたとしても確実に悲惨な目に遭うだろうな。まぁでも俺たちも毎日食うために必死なんだ。だから俺たちのためにさっさと捕まってくれよな? そんで変態貴族とかに高値で買われて行ってくれよなー!」

「……っ、い、いやです……! わ、私……い、今すぐ帰りますから……!」


―― タタタタタッ!


 そう言って私はその悪者たちを横切って全力で走って逃げようとした。しかし……。


「おっと。逃がすわけないだろ!」

「えっ? あ、きゃっ……!!」


―― バタンッ!


 悪者たちは足を伸ばしていって、私の走っていた足にひっかけて来た。私は足を取られてしまいそのまま地面に盛大に倒れ込んでしまった。


「うっ……あ……」

「あはは、高値で売れるガキを逃がす訳ねぇに決まってるだろ! ってかこの状況で帰れる訳ねぇのに何逃げようとしてんだよー?」

「そうそう。どうせ逃げれないのにそんな無駄な事すんなよな。まぁでも俺たちから逃げようとするなんてちょっと生意気だよなぁ? これは逃げられないようにするためにさ……とりあえずこのガキの両足を折っちまわねぇか?」

「うっ……え……?」

「おぉ、それはいい提案だな! 逃げられたら色々とめんどくせぇもんな! よし、それじゃあ……サクっとやっちまうか!」

「え……あっ……あ……」


 悪者たちは笑いながらそんな恐ろしい発言をしてきた。私はその言葉を聞いて恐怖で足がすくんでしまい、動けなくなってしまった。


 そして悪者たちはこん棒を取り出してニヤニヤと笑いながら私に近づいてきた。きっとそのこん棒で私を打ち付けるきなんだ。


(に、逃げなきゃ……で、でも……怖くて足が……)


「んー? どうやらこの嬢ちゃんは足がすくんで動けないようだぞー?」

「お、マジか。これは都合が良いな。それじゃあ足をぶっ壊して動けないようにしていくとするか。そんで後は奴隷商に引き渡せば俺達の仕事は終わりだな」

「おう。そうだな。はは、それにしても嬢ちゃんも運が無かったなぁ。こんな若くしてお嬢ちゃんの人生が終わっちまうなんてなー」

「ひ、ひぇっ……う、あ……」

「はは、泣かなくても大丈夫だよ。ちゃんと一撃だけで足をぶっ壊してやるからさ。だから今日は何度も殴る訳じゃないから安心してくれよなー」

「そうそう。痛いのなんて一瞬だからきっと大丈夫だ。それに奴隷商に売られた後は、今日の事なんてもうどうでも良いくらいメチャクチャに酷い目に遭わされるんだぜ? だからお嬢ちゃんが泣くのはもうちょっと後まで取っておいた方が良いと思うぜ?」

「ぐすっ……いや、だよ……死にたくないよ……誰か……助けて……うぅ……ひっぐ……」

「はは、助けなんて来るわけないだろ。ま、それじゃあサクっと足を潰させてもら――」

「エレノアに……手を出すなぁああああああああああっ!!」

「え? って、ぐはっ!?」

「ぐぎゃっ!?」


―― ドゴォォォンッ!!


 私は怖くなって目を閉じていったその瞬間……何故か私の耳にはとても聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……ふぇ?」


 だから私は怖い気持ちを持ったまま恐る恐る目を開けていった。するの私の目の前にはなんと……。


「ふぇ……え……あ……あっ……!」

「はぁ、はぁ……間に合った……大丈夫だったか? エレノア……!」

「あ、あぁ……に、にいさまっ……!」


 私の目の前に立っていたのは……私の義兄の……アレン兄様だった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る