第45話 復讐の果て⑦
「案外、壊れるのが早かったな」
嘲るように低い声。それが聞こえた瞬間、ミュラーは右腕を蹴り上げられる。その手から拳銃が抜け、遠くへ吹っ飛んでいった。
そして回転する視界。ミュラーの背中は地面に叩きつけられ、一瞬息ができなくなった。できるようになった頃には、自分が組み伏せられたこと、そして形勢が逆転したことを理解した。
「……くっ、考えたな。考えることで、私を倒すとは」
ジョンはフンとつまらなそうに鼻を鳴らした。そして相変わらず、嘲るように言ってミュラーに銃を向けた。
「爆弾は失敗だったな。あれは派手なショーだった。真実は見た目とは違う形をしているってことは、すぐに分かったよ」
「それで、私に勝ったつもりか?」
今度はミュラーが嘲笑うように言った。
「私には、まだこれがある」
ジャケットのボタンを外すと、その下にあるものが姿を現す。それは、ミュラーの覚悟の証。体に巻きつけられた爆弾である。
「なるほどね」
「この爆弾は私と連動している。私の心臓が止まれば爆発する仕組みだ。つまり、私を殺せば君も死ぬ」
「だがお前も死ぬ。僕にはそれが重要だ」
ジョンの顔には、いままで見たこともないような笑みが張り付いていた。
「この時を十五年待った。非常に嬉しいよ。まさに、感無量だ」
噛みしめるように言う。引き金を引こうとした、まさにその瞬間だった。
なにかが破裂するような音が聞こえた。
撃たれたと思ったミュラーは体を強張らせる。だがそうじゃない。体に痛みはない。ではなんだ?
視線を上げると、ジョンの手から銃が滑り落ちるところだった。その手が、痙攣したように震えている。
――なんだ? なにが起きた?
ジョンは目を見開き、頭をフル回転させた。
暴発? いや、違う。いまのは……
狙撃だ。
だが近くからの狙撃では、ジョンが張り巡らせた警戒の網に引っかかったはず。それから逃れての攻撃ということは……
超長距離の精密射撃。それはまさに、暗闇の中、針穴に糸を通すような神業だ。
そんなことができるのは一人しかいない。
バーンズだ。
彼がジョンの復讐を止めたのだ。バーンズはミュラーを殺すこともできた。だが、彼は復讐を選択しなかった。
けたたましいサイレンの音と共に、何台もの車が止まった。
降りてきた『PBI』の捜査官たちが銃を向け、二人を包囲する。その中には、アーシャの姿もあった。
どうやってここを突き止めた? 発信機は無力化させたはずだ。それなのに……
PCを使って、防犯カメラの映像を追ったのか? カメラには十分注意したはずだが、抜けがあった?
或いは、アーシャたちも推理を働かせて、ジョンと同じ答えに辿り着いた?
――いや。
そんなことは、最早どうでもいいことだった。
自分の復讐は、失敗に終わったのだ。
それが、単なる事実だった。
ジョンは自嘲気味に笑うと、言われるまま静かに両手を頭の後ろへ回す。
カチリと音がして、その両手に冷たい手錠がかけられた。
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