第10話 鎮圧
(皮肉な話だ)
隻眼を細め、バーンズは男をじっと見据える。
多発する超能力犯罪に対抗するために設立された『PBI』。
しかし、設立されたのはそれだけではなかった。『海上都市』もまた、超能力者たちのための〝組織〟であった。
超能力犯罪、さらには『ヴェンデッタ』なるテロ組織の存在もあり、超能力者たちに対する人々のイメージは悪化の一途を辿った。罪のない超能力者が襲撃されるという事件も各国で多発した。
そこで国際連盟は苦肉の策を考えた。アメリカで建設中の観光施設――『海上都市』に超能力者たちを保護し、その犯罪を取り締まる組織を設立させることを。だが――
実際には保護などではない。収監だ。
超能力のメカニズムに関しては、一切解明されていない。発現理由も不明。人種も性別も異なる人間が超能力を持つようになったのだ。
人の理から外れた者たちを、ただの人間が恐れるのは必然の成り行きであれば、『海上都市』を〝監獄〟と揶揄する人間がいるのもまた、必然の成り行きである。
(これでまた、超能力者への風当たりが強くなるな)
保護されてなお、超能力者たちは肩身の狭い思いをすることになるだろう。それを少しでも軽減するためにも、男を射殺するなど絶対にあってはならない事態であった。
そこでアーシャが合流した。手短に状況を説明する。
「私はなにをすれば?」
「僕を援護して。それから警官隊を下がらせて。タイミングは君に任せる」
最後の言葉はバーンズに対するものだ。
短い言葉だが、二人はその意図を正確に理解したらしい。警官たちを下がらせ、別々に車の陰に隠れ、それぞれ銃を構えた。
それとは逆に、ジョンは男にゆっくりと近づいていく。その距離は、僅か数メートルまで迫った。男もジョンの存在に気づいたようである。
「初めまして。僕の名前はジョン・ドゥ。会う人皆に訊かれるから最初に言っておくけど、本名だよ」
ジョンが語り掛けると、男の様子が変わった。
サイトメトリーとは、人の考えを読む能力だ。その場合、対象に直接触れなければならない。だが――
いま彼の能力は暴走している。自他の境界が崩壊しているいま、周囲の人間の考えが洪水のように流れ込んでしまうのだ。だからこそ、ジョンは警官隊を下がらせた。
本来なら、ジョンの考えが男に流れ込み、それに苦しむはずだが……男の動きは、明らかに鈍っていた。
考えを読まれるなら、なにも考えなければいい。
ジョンは無心で男に語り掛けている。それは彼にしてみれば造作もない技術なのだ。
そしてそれは、作戦の成功率を高めるため。本来、そのままでも成功率の高いものを、更に盤石なものとするため。
男が一歩踏み出す。直後に銃声、散る火花。アーシャが地面を撃ったのだ。そして――
動揺したのか、男は叫び声と共にジョンに向かい刀を振り下ろした。その直後、
なにかが弾けるような音と共に、男の手から刀が滑り落ちた。
その手は、痙攣したようにブルブルと震えている。
男にはもちろん、警官隊さえなにが起きたか理解できていないだろう。
理解しているのは三人。ジョンとアーシャ、そしてバーンズである。
彼が男を制圧したのだ。
近づくことはできない。ならば狙撃するしかない。だが、男の動きは鈍くなったとはいえ、狙いを定めるには不安定だ。
そこでバーンズが狙ったのが、男の手に握られた日本刀だ。
振り下ろす瞬間、必ず位置が固定される。そこを狙い、バーンズは地面を撃った。
跳弾。
マンホールに当たった弾は跳躍し、刀身に命中した……
寸分の狂いも許されない、まさに神業である。
しかし、射殺しようとしていた警官隊に対し、容疑者を無傷で確保するという結果も必要不可欠だったのだ。
警官隊が呆然としている間に、男はアーシャとバーンズによって拘束された。
状況を理解した時、署長を含めた警官たちがバーンズを見る目には恐怖が宿っていた。
無理もない。バーンズは、『PBI』の中でも異色の経歴を持つ捜査官なのだ。
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